神様…どちらか一方を、選ばなければいけないのでしょうか?









   選択の瞬間










…誕生日、おめでとう。」

そう、今日は私の17歳の誕生日。
でも、平日の今日、いつもどおり学校があって。
これまたいつもどおり、お隣の周ちゃんと一緒に歩いていた時
いつもとは、ちょっぴり違う表情を湛えた周ちゃんがお祝いの言葉をくれた。


「ありがとう。…って、まさか言葉だけじゃないよね?」

幼馴染の気安さを装って、私はその場の雰囲気をいつものものに戻そうと試みる。
周ちゃんの眼差しに、内心ドキマギしていたんだけど。


そんな私の心のうちを読んだかのように、ニッコリ微笑んで周ちゃんが答えた。


「クスッ…もちろん、プレゼントは用意してあるよ。」

「何かなぁ? うーん、気になるっ! 周ちゃん、焦らさないで教えてよ!」


「先に言っちゃったら、楽しみがなくなっちゃうでしょ?
 今日、学校から戻ってきたら渡すよ。」



周ちゃんは、いくら聞いても微笑むだけで教えてはくれなかった。














放課後、不二がの教室までやってきて言った。


、ごめん。今日は一緒に帰ろうと思っていたのに、どうしても部を抜け出せそうにないんだ。
 なるべく早く帰るから、先に帰っててくれる?」


「周ちゃんったら、気にしなくていいのに。大丈夫、ちゃんと一人で帰れるから。」

胸を叩いてみせたに笑いながら、不二は言った。


「大丈夫なのは分かるけど、早くプレゼントが見たいだろうと思ってね」


「もう…周ちゃんのイジワルっ」

「クスッ…気をつけて帰るんだよ?」






「なんだ、不二さんと一緒じゃないって分かってたら、私が一緒に帰ったのに。」

親友のがふくれて言う。


「クスクス…ったら、そんなこと言ってると英二先輩に言いつけちゃうわよ。」


菊丸の彼女であるは、と帰れないと分かっている今日のような日は
菊丸のことを部活が終わるまで待っているのが常であった。
今日も、事前に約束してあるに違いない。


「英二先輩より、誕生日のの方が大事に決まってるでしょ!」

冗談とも本気とも取れるに苦笑しながら、も帰り支度を始めた。












一人、学校からの帰り道を歩いていたの横に、黒塗りの高級車が横付けされた。

後部座席のウインドウが降り、中から物憂げな声を掛けられたは、思わず走って逃げたい衝動に駆られた。


…乗れよ。」


「跡部さん…」


「景吾って呼べって言っただろ? キスまでした仲じゃねーか、あーん?」


「あ、あれはっ、跡部さんが無理矢理っ!//」


「ククッ…そんなところで大声出してると、噂になっちまうぜ? いいから、早く乗れよ。」


仕方がない…。はしぶしぶ、跡部家のお抱え運転手付きの車に乗り込んだ。








「お前、今日が誕生日なんだろ? ほらよ…。」

跡部が、の膝に、綺麗に包装された小箱を放ってよこした。


「あ… 私に…ですか?」


「お前以外に、今日、誕生日プレゼントを渡すような知り合いはいねぇよ。」


「ありがとうございます…」戸惑いながらも、礼を言うに焦れたように跡部が言った。


「開けてみろよ?」


その言葉に、素直に従ったが包みを開けると、中には人気のブランド物のネックレスが入っていた。



「綺麗…」


が感嘆の面持ちで呟くのを、満足そうに見つめながら、跡部がネックレスに手を伸ばした。



「付けてやるよ。」


「えっ…あの…//」


の抗議など物ともせず、器用に片手での髪を押さえて項を顕にすると、ネックレスを付けてしまった跡部。


「よく似合ってるぜ。」


――やだ、私、ドキドキしてる…。どうしよう…。


そんなの様子を見透かしたようにニヤリと笑うと、跡部が言った。


「本当は、別のものを渡すつもりだったんだが、オマエが受け取らないだろうと思ってな。
 そっちは…今夜、ディナーの席で渡してやるよ。」


「今夜? ディナーって…」


「俺の行きつけの店に予約を入れてある。7時に迎えにくるから、ちゃんと着替えて待ってろよ?」


「あの、今夜は、私…」


が抗議をしようとした時、後部座席のドアが跡部家の運転手によって外から開かれた。
いつの間にか、の家の前に、車は横付けされていたのである。


「どうも。」軽く頭を下げている運転手に向って、は礼を言って 反射的に車を降りた。


「今夜は私、約束が…」

もう一度抗議の言葉を口にしようとしたを遮ると、跡部が言った。


「どんな約束だか知らねぇが、断るんだな。」


そして、に言葉を続けさせようとはせず、車を出して行ってしまった。






が呆然と走り去る跡部の車を見送っていると、背後から声を掛けられた。


「ずいぶん遅かったね、。」


「しゅ…周ちゃん!? あの…部活は?」


を一人で帰らせるのが心配で、なんとか切り上げて、キミの後を追ったのさ。」


不二は、言葉を切ると、を射抜くような眼差しで見つめた。


「キミがまだ帰っていないと分かった時、ボクがどんな気持ちになったか分かる?」


「私…」


――怖い…。周ちゃん、まるで知らない人みたい…。


「ここじゃ、話ができないね。おいで。」


静かながら、抵抗を許さない声に、は無言で従った。






「座って。」


不二家のリビングに通されたは、不二の言葉どおりにソファに腰掛けた。


「おば様や由美子さんは?」


「今日は、二人とも遅くなるらしいよ。母さんはともかく、姉さんは気を利かせたんだろうね。」


「気を利かせたって?」


不二は、苦笑すると言った。


「ボクの気持ちに気が付いてないのはキミくらいだと思うよ、。」


「周ちゃん…//」


「キミは? キミはボクのこと、どう想ってる?」


が口を開こうとした瞬間、不二がのネックレスに指をかけて聞いた。


「見覚えのないネックレスだね?」


口調こそは疑問形だったが、その言葉の意図することは明らかだった。



「これは…」


「跡部から贈られた…そうなんでしょ?」


「どうして…」


「分かるよ。キミのことなら、なんでも…。キミが最近、誰かのことで悩んでいたのもね。」


先ほどと同じように、鋭い、射抜くような眼差しでを見つめながら不二が言った。


「キミは、いつ跡部なんかと知り合いになったんだい?」


「あの…私…」


は、数日前の出来事を不二に話して聞かせた。

放課後、今日のように一人で帰っていたとき、不二のファンクラブの女の子たちに取り囲まれたこと。
口で非難されるくらいなら、いつものことであったのだが
その日の彼女たちは、に手を上げようとまでした…とそこまで話した時、不二の顔色が変わった。


「どうして、ボクに言ってくれなかったの?」

「だって… 周ちゃん、都大会の前の大事な時期だったし、心配かけてくなくて…」


「それで、跡部が助けてくれたとでも?」


「うん… それが、本当にそうなの。跡部さん、ああ見えて意外と優しいのよ?」


「キミの口から、他の男の名前なんか聞きたくないっ!」




激昂した不二に、呆然とする




の表情に、自分を取り戻した不二が呟いた。




「ごめん…」



「・・・・・」


ショックで、言葉の出ないに、不二が聞いた。


「跡部の事が、好きなの?」





――跡部さんのことが  好き?




「私、分からないの…」



…」



「ごめんなさい、周ちゃん…」



「謝ることじゃないよ。でも…キミは選ばなくてはいけないんだよ?」

















自宅に戻ったは、不二の言葉を考え続けていた。


『キミは、選ばなくてはいけないんだよ?』




「跡部さんが迎えに来ると言った7時まで、あと2時間。
 それまでに、私は答えを出さなくてはならないのね。」




子供の頃から、ずっと一緒だった周ちゃん。


ほとんど、何も知らないも同然の跡部さん。





優しくて、でも、その気になればいつでも私をときめかせることの出来る周ちゃん。



強引で、ドキドキして、でも、その眼差しは私に対する気遣いを感じさせてくれる跡部さん。



私は、どちらを選べばいいの?


私が好きなのは、周ちゃん? それとも 跡部さん







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