君が僕を見つけて
僕は君を探すよ 1
「ねえ、ねえ、聞いたぁ〜?」
「なになに?」
「あの幸村がまた泣かせたらしいよ?」
「今度は誰を?」
「ほら、去年ミスコンで優勝した1年の子。
幸村に告ったらしいよ。」
「うわ〜、怖い物知らずねえ。
ま、1年じゃ無理ないか。」
「俺の事知らないくせに付き合いたいなんてよく言えるね。
俺は君の事、知りたくもないんだけど、って言ったらしいよ。」
「幸村ってさ、黙ってればかっこいいんだけどねえ。
あの性格の悪さって言うか、
人を小ばかにしたような物言いはなんとかできないのかしら?」
「だよねえ。
ま、他校の女の子たちは知らないから騒ぐけどさ、
大体立海大のテニス部のメンバーって、癖強すぎよね。
彼女になりたいなんて思う3年生はいないわよ。」
「ほんと。」
や涼香が話してるのをはぼんやり聞いていた。
「幸村君って、あのテニス部の部長だっけ?」
「はあんな奴と知り合っちゃだめよ。
あいつはろくでもないんだから。
付き合っても3日ともたないらしいよ。
わがままでいい加減で遊び人なんだから…。」
「ほんと、あいつに泣かされた女の子って多いよね。
ま、見た目で選ぶ方も悪いけどさ。」
「大丈夫だよ。私、幸村君なんて知らないもの。
でも、うちのクラスの丸井君はテニス部だけど、
いつもお菓子くれるいい人だよ?」
がそう言うと、がため息をついた。
「まあ、ブン太は人畜無害な方だからね〜。
だけど油断しちゃだめだよ?
ブン太と仲良くして幸村に目をつけられたら大変だもの。」
親友が心配するのも仕方ないくらいは可愛くて、
どこか危なっかしくて、いつもほわ〜んとしている。
「ったら心配性だなあ〜。
でも、私、他の人に興味ないんだ。
今、すっごく好きな人がいるから///」
そうはにかむに、と涼香は天と地がひっくり返るほど驚いた。
「えっ、いつの間に?
ねえ、、誰よ、そいつは?
何組?」
矢継ぎ早に質問してくるに今度はが驚いたように見つめ返す。
そしてふんわりと笑う。
「それがね、名前は知らないの…。」
**********
の話によるとこうだ。
たまたま昼休みに図書館の裏の日当たりのいい芝生に一人で行った時の事。
あまりに日差しがぽかぽかしていて、芝生が柔らかくて気持ちよさそうだったので、
気の向くままにそこで寝転んでいたらしい…。
らしいと言えばらしいのだが、
そこへ色白のとても優しそうな男の子が隣に座って来たと言うのだ。
「へぇ〜、この学校で芝生に寝転ぶ女の子がいるなんて初めて見たよ。」
はお日様にあたってぽかぽかしている瞼を開ける気がしなくて、
寝転んだ無防備な姿のまま答えた。
「だって、とっても気持ちいいんだもん。」
「うん、わかるよ。
俺もたまにここへ来てのんびりするのが好きなんだ。」
「そうなんだ。じゃあ、私、邪魔しちゃった?」
「ううん。この場所はお気に入りだけど、
別に俺のものって訳じゃないし…。」
「よかった。私、まだこうしていたいんだ。」
「俺が傍に寝転んでても気にしない?」
「あなたが気にしないなら。」
「ふふっ。キミって変わってるね?」
それからというもの、天気が良くて、気が向いた日にはそこへ行くようになった。
その男の子も気が向いた時だけ来るようだったが、
別にの事を嫌がるわけでもなく、
気ままに2人で日向ぼっこをするという感じだった。
他愛もない話をする時の方が少ないくらいで、
お互いに一緒にいても、本を読んだり、
MDを聞きあったりして過ごしていた。
そして次第に、一緒に同じ日の光を浴びて、
ひとときのなんでもない時間を過ごす事が、
にとってはとても大事な時間になりつつあった。
**********
「で?何?それだけなの?」
「うん、それだけ。」
「はぁ?学年もわからないの?」
「うん。だってお互いに名乗ってないもの。」
の言葉には苦笑する。
と同じような波長の男の子が立海大にいるなんて。
「で?はその人のことが好きなの?」
が問い詰める。
事と次第によっては、この様がの恋の橋渡しをしてやろうと意気込んでのこと。
「うん、好き。
だって一緒にいると幸せなんだもん。」
はそう言うとほんのり赤くなった頬を両手で押さえた。
「でもさ、は好きでも、その人はに名前も聞かないわけでしょ?
それって、酷い事を言うようだけど、
あんまりに興味がないのかもしれないよ?」
「そんな事はないよ。
だって、その人も私の事、好きって言ってくれたよ。」
「えっ?
じゃあ、両想いじゃん!」
**********
「あのさ、キミって不思議だね。
キミといると、なんだかすごく癒されるよ。
こんな気持ち、はじめてかも…。」
少し青みがかかった長めの髪をかき上げる指は細くて、
優しい眼差しを見ていると本当に綺麗だな、とは思う。
「俺さ、キミの事、好きだよ。
キミは?」
そう囁く低い声も好き。
「私?
私も好きだよ!」
「そう…。なんだか嬉しいな。」
彼の笑う顔はもっと好き。
「じゃあ、その好きっていう気持ちが、今よりもっと大きくなったら、
俺の事探してね。
キミが見つけてくれるまで、待つから。」
彼の言葉にも自然と笑みがこぼれる。
「じゃあ、私の事も今よりもっと好きになってくれたら、
私の事探してくれる?」
「ああ。約束するよ。」
**********
そんな約束をして、冬になってからはさすがに外は寒くて、
二人の秘密の場所にはあれ以来行ってないとの事。
「で、校舎内では会ったことないの?その人に。」
「うん。不思議と会わないんだよね〜。
学年が下なのかなぁ?」
「はあ?
本当に名前だけでなく学年もクラスも知らないんだ。
でも、顔はわかるわけだから、
片っ端から教室を当たればいいだけのことよね。」
がほくそえむ。
「うん。だから、今度のバレンタインに、
思い切って彼を探そうかなって思うんだ。
で、チョコを渡すんだ〜。」
幸せそうに話すを見ていると、
これは相当いい奴と出会ったらしい、とも思った。
だけど、そんなにいい男がこの立海大にまだ残っていただろうか…?
と言っても立海大の生徒数は3000名弱。
そのうちの半数以上が男子であるわけだから、
名前や顔が一致しない生徒は多分にいる。
「ねえ、なんか他に特徴はないの?
運動部らしいとか、さ?」
「えっ?う〜ん。
背は高いけど華奢な感じだから、
どうかなあ、文科系だと思うんだけどなあ。
そうそう、花の名前とかすごくよく知ってて教えてくれるの。」
「へ、へぇ〜?
ま、まあ、と会話が成り立つんだから
へなちょこ系なのかしら?」
「あ、ったらひどいなあ、もう。
とにかくね、お日様みたいにあったかくて、
優しい雰囲気で、笑うとすごく綺麗な人!
でもね、どこか、芯の強い人なんじゃないかなって思う。
うん、私、頑張って手作りチョコにしようかな。」
は本当に楽しそうで、はますます、
これはチョコを渡しに行く時には絶対の後をついて行くぞ、
と心に誓うのだった。
ところが…。
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2005.2.28.