青春学園七夕祭
「で、このポスターは何かしら?」
は生徒会室で親友のにくってかかった。
生徒会室の机の上には出来上がったばかりの大きなポスターがあった。
『青春学園恒例 七夕祭』
そこには七夕祭の文字と夜空を彩る花火のデザインに、
浴衣姿の女の子がコラージュされていた。
「会心のできでしょ?」
生徒会副会長として、また行事大好き人間の仕切り屋として、
は満足そうにポスターを眺めていた。
「だから、なんでこのデザインなのよ?」
はこの能天気な親友を恨めしく思っていた。
つい1週間ほど前、からどうしても浴衣姿の女の子の写真がいると聞かされ、
有無を言わさずはモデルをやらされた。
写真は小さく入るだけだし、後姿だから絶対だとわかりっこないから、というのがの言い分だった。
確かに後姿ではあるから、だと気づく生徒はいないと思う…。
でも、こんなに大きく刷り上ってるポスターを見てしまっては、
どうにも心中穏やかに…というわけにはいかない。
このポスターは学園内だけではなく、駅前にも張られることになってるのだから。
「なんだか、にはめられたって言う感じ。」
は苦笑した。
「大丈夫よ。誰もモデルが誰なんて詮索したりしないって。
生徒会主催の花火大会は参加者全員浴衣着用ってことになってるんだし。」
は自分の企画に絶大の自信を持っていた。
「ねえ、生徒会長として手塚君はこの企画、なんとも思わないの?」
先ほどからの二人のやり取りなど全く聞いてないかの風情を取っている手塚にが抗議した。
手塚は七夕祭の予算案に目を通しながら抑揚のない声で答えた。
「多数決で決まったことだしな、問題なかろう?」
はぁ〜、とはため息をつくと勝ち誇ったようなに返す言葉もなかった。
大体学校行事を自分の意のままに動かすことにかけては、の手腕は天才的だった。
手塚が反対できないよう、周りの意見をまとめ、先生方の信頼も集め、
なおかつ予算的にもかなり余裕を持った企画書を提出したであろうことは、
にはわかりきったことではあったのだが…。
「でも、学校でよく花火大会なんて許可が下りたわね。」
「それがね、地元の商店街とタイアップできて、夜店関係は商店街の人たちが協力してくれるの。
もちろん花火は一般の人も見れるし、商店街としては当日はホクホクじゃない?
その分、大型花火は商店街の賛助金で賄えるって訳よ。
学園としても地域活性化に協力できるって喜んでるでしょうね。」
はの根回しのよさに脱帽せざるを得なかった。
「もあきらめるんだな。
はやるとなったら誰にも止められないからな。」
そう言い切る手塚の言葉に、もあきらめるしかなかった。
翌日。青春台の駅から商店街、そして学園中に例のポスターは張り出されていた。
は少し憂鬱な気分ではあったが、とりあえずポスターのモデルがであることを知ってるのは、
生徒会長の手塚と、副会長のしか知らないことに安心していた。
手塚の口が堅いことはもちろんだが、親友のがもらすこともまずないことであった。
3-6の教室にが入ると、菊丸が声をかけてきた。
「ちゃん、おっはよ〜。」
「菊君、おはよう。」
「ねえねえ、あのポスター、ちゃんも見た?」
「う、うん。」
「生徒会にしてはいいできだよね。」
は自分の席に座ると次に菊丸が何を言い出すかと気が気ではなかった。
「あのポスターの子、青学の生徒らしいんだにゃ。」
「えっ?」
は思わずびっくりして菊丸の顔を見た。
「なんかね、そう言う噂。
ちゃんは誰だと思う?」
「…なんで私に聞くの?」
「乾がね、手塚に聞いても教えてもらえなかったって言ってたにゃ。
だからと仲のいいちゃんなら何か知ってるかにゃあと思って。」
「ううん。私も知らないよ。
でもなんで知りたいの?」
「えへへ。だってなんだかすっごく気になっちゃって。
後ろから抱きついてみたいにゃあって。」
「誰に抱きつきたいって?」
菊丸の後ろにはいつのまにか不二が立っていた。
「不二君、おはよう。」
「、おはよう。で、英二は誰に夢中なのかな?」
不二はいつものようにさわやかな笑顔で聞いてきた。
「不二はあのポスター、見なかったの?
すっごくかわいいんだな、あの子。」
後姿だけなのにかわいいと形容している菊丸にはあきれていた。
「菊君、後姿だけじゃ、かわいいかどうかなんてわからないよ。
振り向いてみたら菊君の予想と全然違うかもよ。」
「そんなこと絶対ないにゃ。
手塚とかがかわいくない子なんてモデルにしないと思うにゃ。」
菊丸は腕組しながら眉間にしわを寄せ、手塚のまねをして見せた。
「ふ〜ん、英二の予想が当るといいけどね。
まあ、当日あのポスターと同じ浴衣姿の女の子を探してみればいいんじゃない?」
不二はクスクス笑いながら言った。
「あ、そっかあ。
もう一度浴衣の柄、よく見ておこうっと。
不二、サンキュー!」
菊丸は嬉しそうに廊下に飛び出していった。
は菊丸の後姿に苦笑した。
(あの浴衣はのものなんだけどなあ〜。)
七夕祭りの夜、きっとはあの浴衣を着るに違いない。
そうとは知らずにに抱きついたら菊丸はびっくりするだろうなあ。
その隣に手塚でもいたら大事になるかも…。
はしばし七夕祭の夜に思いを馳せていた。
が、のそんな様子をじっと見つめている不二には全然気がつかなかった。
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