二度目のFall in Love 2
「ねえ、不二…。」
「何?」
「うんにゃ、やっぱりなんでもない。」
今日はこの会話を何度しただろう?
英二の落ち着きのなさは今に始まった事じゃないけど、
今日はいやに挙動不審だ。
不二はため息をつきながら英二を見る。
「英二、何か言いたい事があるんならはっきり言ってよ。」
「へ? あー、うん。」
「どうしたの? 変だよ、英二。
まさか、転校生に一目ぼれしたんだ、なんて言わないだろうね?」
不二はいつものように英二をからかってクスクス笑った。
「…もしもだよ?
もし転校生が不二の知ってる子だった、って言ったら、不二はどうする?」
不二の微笑が途端に消えた。
不二は突き刺さるように英二を睨むと、まるで英二の頭の中を覗き込んでるかのように
しばらく黙っていた。
菊丸は体中から冷や汗が出るような気持ちだった。
けれど、それはほんの一瞬だったようで、菊丸が次に瞬きした時には、
不二はもういつもの笑みを顔に浮かべてるだけだった。
「へえ、それは楽しみだな。
でもあいにく僕には金髪美人の知り合いはいないんだけど。」
こういう時、菊丸は不二がよくわからない。
楽しみだな、なんて言葉を口にしても、
不二が本当に楽しみにしてるなんて全然思えない…。
それにあんなに変わってしまったを不二がどう思うのか、予測も出来ない。
「ああ、だから、金髪美人っていうのは外見だけで、
えっと、あっ、でも随分会ってないから中身も変わっちゃったのかもしんないけど…。
とにかく、ちゃんだったんだ!!
ちゃんが帰って来たんだよ!?」
菊丸は少し興奮しながら一気に言った。
*********
昼休み。
親友だったがのクラスにやって来た。
「!」
「あっ、!
久しぶりだね。」
懐かしい親友はの変わりようにびっくりしながらも
以前のように抱きついてきた。
「元気そうだね。」
「も。」
「それにしても噂は本当だったんだねえ。」
「どんな?」
「が不良になったって。」
「不良かあ。そうかもね。」
がクスクス笑うのを見て、も笑った。
「うん、でも、笑った顔は昔と変わらないよ。
やっぱりはだよ。」
はの手を引いた。
「ねえ、少し真面目に話、したいんだけど。」
2人は屋上に来ていた。
心地よい風がの髪をもてあそぶようにきらめかせていた。
「ねえ、あんなに素敵な髪をなんで切っちゃったの?」
「ふふっ、そんなに似合わないかな?」
「ううん、短い髪も素敵だよ?
だけど無理に外見を変えてるみたい。」
「…無理じゃないよ。
すっきりして気持ちいいくらい。」
「…それって、不二に好かれないため?」
はフェンスにもたれてテニスコートの方を見やった。
「ねえ、。
不二とちゃんと話した方がいいよ?」
「私ね、もうとっくに、不二君には興味なくなっちゃったんだ。
もう不二君は過去の人だよ、私には。」
は困ったようにため息をついた。
「中学の時、不二って確かに本気でテニスをやってないような所があったよね。
はそれが嫌だったんでしょう?」
「…。」
「私、不二と付き合ってたって言ったでしょう?
あれね、中3の時。
それもがいなくなって落ち込んでる不二に、
私が強引に彼女にしてもらったっていう感じだったんだ。
今思うと全然付き合ってたって言えない位。
だって、不二の目には誰の事も映ってなかったんだもの…。」
はと並んでフェンスにもたれ、同じように誰もいないグリーンのコートを眺めた。
「でもね、高校に入ってから不二は変わったよ。
も変わったんだろうけど、不二はいい意味ですごく精神的に大人になったって感じ。
あの手塚君だって時々不二君の気迫に負けてたもの。
私、思うんだけど、不二はのために自分を変えたんだと思う。
だから一度不二と会って、彼のテニスしてる所を見てあげて欲しいな。」
「ってそういう所、昔と変わらないね?」
が呟いた。
「私、私ね! のこと、すごく好きだよ!!
不二の事も好きだったけど、だからこそ、
不二がどんなにの事を誰よりも好きでいたか、わかってるつもりだよ。
不二の心の中には今でもだけなんだよ。
だから、大好きなと、不二に、
幸せになってほしいって、本当に思ってる!!」
はそう叫ぶとを抱きしめていた。
「ったら…。
男より女の友情選んじゃうと、行き後れちゃうよ?」
もの肩を優しく抱きしめた。
「大丈夫。私、今ね、乾と付き合ってるんだ。」
はびっくりしたように体を離すとをまじまじと見つめた。
「意外だった?」
がクスッと笑った。
「うん、意外。」
「こら、。正直すぎるぞ?」
「ごめん。」
そう言って二人は笑いあった。
とはまた親友でいられる、そんな思いにはほっとしていた。
「だから。も正直になる事!」
「…ありがと。でもね、…やっぱりもう無理だよ。」
のこういう頑固な所はもう自分ではどうにもできない事なんだと、
は長年の付き合いからわかっていた。
(仕方ないなあ〜。乾の言うとおりだわ、これじゃあ。)
の顔を見ながら、はに気づかれないようにほくそえむのだった…。
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2005.6.19.