「僕は跡部に何を言われても平気なくらい
  さんのこと好きだよ。」
  
 「私はそんなに自信・・・ない。」




正直な気持ちにそれでもいいよって不二は言ってくれた。













       メリーメリー








学校では奥手のが不二と付き合いだして
相変わらず不二はみんなの人気の的だったけど
不二は根気よくに付き合ってくれている。

いまだにみんなの輪の中に入るのはちょっと気が引けるのだが
不二がさり気なくに気を遣ってくれるから
今はもう当たり前のように不二の隣にいることができた。

不二を通じてテニス部のメンバーとも仲良くなれた。

菊丸や桃城のようにわーっと賑やかに話しかけて来るのにはまだ慣れないけど
大石とか河村とか乾とかは穏やかに話しかけてくれるので
もやっとテニス部のコートで不二を待つのも苦にならなくなって来ていた。



学校にいる間は平穏だった。

あれから従兄の跡部が何度か私情交じりの練習試合を申し込んで来たらしいが
予定が合わないらしく未だに実現とはなっていない。

むしろその方がいいとは思う。


できれば跡部と不二を対峙させたくないとは思っている。

不二は平気そうだったが、
さすがににとっては跡部も小さな頃から慕っていた従兄なのだから、
不二と跡部が反目するのを目の当たりにはしたくなかった。

それでも、学校以外の事では跡部に頼らなければならない事もある訳で
は目の前にいる従兄の意地悪そうな顔を見るにつけため息が漏れる。


 「で、どうする気だ?
  いつまでも引き伸ばす訳にはいかねーだろ、。」

 「それはそうだけど。」

 「ま、所詮平民には無理な話なんだよ。
  俺たちとは格が違うんだからな。」


自分の家でもないのに偉そうにロッキングチェアに揺られている跡部は
身内の贔屓目を差し引いてもさまになっている。

さすがは跡部財閥の一人息子である。

はお気に入りのクッションを抱えながら頬を膨らませた。

事あるごとに不二の事を平民扱いする跡部に腹は立つ。

けれど、やがて来る事態に対処できる能力は格段に跡部の方が勝っていると思う、
となればとて反論はできない。


 「だからよ、今年も俺様でいいんじゃねーか?」

 「そういう訳には行かないよ・・・。」

 「ああ? んじゃ、不二に頼めるのか?」

 「・・・。」

は黙り込んでクッションをつぶしていた。

 「頼めねー奴を彼氏とは呼べねーなぁ、おい。」

勝ち誇ったような跡部の顔が憎たらしい。

 「頼めない訳じゃないもん。」

 「だったら早く頼めばいいだろう?」

 「だけど、なんで今年は景ちゃんちでやるのよ?
  本当ならうちのはずでしょ?」

 「おまえんちでやったら尚やばい事になるんじゃねーか?」


毎年クリスマスはお互いの家で交互にパーティーを開くのが恒例だった。

も跡部も両親が忙しい身だったから
家族だけのささやかなクリスマスとはいつも無縁だった。

クリスマスも言わばそれぞれの家名を背負った社交場に過ぎず、
今や年頃のの相手にと非公式での見合いめいたものが
当然のようにオプションとして追加され、
は毎年うんざりした調子で親の付き合いに同席させられていた。

それでも何やかやと跡部がの同伴のように振舞うおかげで
名前も知らないどこぞの子息たちの相手をやんわりと断る事ができるのは
さすがに跡部財閥を敵に回したくないというあからさまな諸事情によるものだった。

といっても跡部の方だって相応のご令嬢とやらが待ち構えていたりするものだから
従兄同士、お互いの結束は子供なりの防衛策だったと言える。


 「お前んちでやったら、それこそお見合いパーティーになるぞ?
  そんな所に不二を呼べるのか?
  他の奴と踊ってる所を不二に見せてーのかよ、お前は?」

 「ま、まさか、そんなの絶対嫌に決まってるじゃない。」

 「あーん? なら婚約相手でもない不二をたてに
  取引先の連中どもを蹴散らせる事ができる、とでも思ってるのか?」

 「うっ。」

 「ほら見ろ。
  大体、不二にダンスなんて踊れんのかよ?
  まさか二人で突っ立ってるなんて無様な事はできねーよな?
  つうか、不二に恥をかかせるような事お前にできるのかよ?」

いちいち尤もな事を言う従兄は盛大なため息をついている。

分かっている。

こんなクリスマスパーティーに招いた所で楽しく過ごせる訳がない。

けれど自分ひとりでそこにいるのにはもう耐えられない気がする。

 「明日、不二君に聞いてみる。」

はポツリと呟くとクッションに顔を埋めた。







       ********










聞いてみる、とは言ったもののはなかなか不二に切り出せない。

と言っても不二の方はもう朝からが何か思い悩んでる様子に
気がつかない筈がなかった。

だって、聡い不二の事、から切り出すのを待っている事くらい
分からない訳がない。

どこまで不二が我慢して聞かないでいてくれるか、
そう思えば思うほど、不二はやはりから話し出すのを待っているという
彼の思いやりが嫌と言うほど分かるから
幾度となく話しかけようと顔を上げるのだが
どこから切り出せばいいのか分からなくなって口元はなかなか開かない。

気が焦るばかりで悶々としていたら
菊丸の拗ねた声が幾度となく自分の名前を呼んでるのに気がついた。

 「もー、さん、話聞いてなかっただろ?」

 「えっ、あ、ご、ごめんなさい。」

 「だからさ、24日は後輩のリョーマの誕生日なんだよね。
  だもんで毎年クリスマスパーティーはリョーマのうちでやってるんだけど
  さんも大丈夫?」

いきなりのクリスマスの話題には驚いてしまって
思わず不二の方を見やる。

タイムリーと言えばそうなのかもしれないが
予期せぬ話題には返事もできない。

菊丸はそれをクリスマスは二人で秘密裏に過ごす予定になっていたのかと
なんだ、と言わんばかりにため息をついてきた。

 「そっかぁ、そうだよね。
  初めてのクリスマスだもんな。
  誘っちゃ悪かったかな、不二?」

 「いや、別にまだ僕たち、何も決めてないんだ。
  さんが予定ないなら僕は全然構わないよ?」

不二はいつもと同じようにに聞いてくる。

テニス部のメンバーと過ごすのも楽しいだろうし
もちろんが不二と二人が良いと言うならそれでもいい。

不二はあくまでもの気持ちを優先してくれようとする。

そんな不二を見ては慌てて返答する。

 「あっ、ううん、私も24日は特に予定ないよ。
  私、部外者だけどいいのかな?」

 「ああ、全然平気だよん!!
  これ、非公式なんだけど手塚の彼女も来るよ、きっと。
  さんも知ってる人だから大丈夫だと思うし。」

菊丸は片目をつぶって見せる。

 「じゃあ、そーゆー事で、時間とかはまた後で教えるね。」


桃たちにも知らせて来るね、と菊丸が席を立ち、
自然と残された二人はお互いを見てしまう。

何がどう、と言う訳ではないけれど
切り出すなら今だろうとは重い口を開いた。

 「不二君は、クリスマスは毎年どんな風に過ごしてたの?」

 「イブはさっき英二が言った通りだよ。
  大体夕方から後輩の家で騒いでる。
  だから25日は家族でクリスマス、って言うのがほとんど。」

 「家族で?」

 「うん、この年にもなって、って思われるかもしれないけど
  母が好きでね、こういうの。
  子供の頃から欠かさずツリーも飾ってるし、
  クリスマスには必ずケーキを食べてる。
  寮生の弟もその時ばかりは帰って来るから
  それが当たり前になってるな、うちは。」

 「そうなんだ。
  でも家族だけのクリスマスっていいなあって私、思うけど。」

の声が少し寂しそうに聞こえて不二はおや?と思う。

 「さんちはしないの?」

 「クリスマスパーティー、毎年やってるけど、
  家族でっていうより親類一同って言うか
  親の取引先関係もたくさん呼ぶから
  クリスマスって言うより、もっと堅苦しい感じ?」

 「今年はいつやるの?」

 「23日。
  でね、今年は景ちゃんちでやるんだけど・・・。」

 「跡部?」

 「毎年どちらかの家で開いてるんだけど、
  今年は跡部の本宅でやるの。」

 「へぇ〜、それは凄そうだね?」

不二はいつか見た跡部の母親を思い出していた。

あちこちに顔が広そうな事を思えば
招待客も半端ないのだろうと容易に想像できる。

 「それでね、不二君さえよければ
  23日のパーティーに来て貰えないかな?
  あまり面白くはないと思うけど
  不二君が来てくれたら私は嬉しいんだけど・・・。」

最後の方は消え入るような声で
はなぜか俯いてしまっている。

不二はの家の事はよくわからないが
跡部の従兄と言う位なのだからの家柄も相当なものなのだろう。

跡部が身分違いだと言っていたのを思い出す。

今の自分にはの家柄に見合うだけの肩書きも地位もないが
の全てを知っておくには良い機会かもしれない。

 「いいよ。」

 「不二君?」

 「さんが僕に来て欲しいって思うんなら
  僕は喜んで行くけど。」

 「ほんと?」

 「ああ。それに、跡部にも一度ちゃんと
  さんと付き合ってる事を直接言いたいしね?」

ニッコリと微笑んで見せればは赤くなりながらも
心底ほっとしたような表情を見せた。










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