6.校内球技大会・その3




1−2越前・藤崎ペア対3−6不二・ペア。

越前は数回ボールを弾ませると、
いきなりの足元にツイストサーブを放った。
 
 「15−0」

は微動だにしなかった。
 (すごい。こんな切れのいいサーブをあの小さな体のどこから?)
は自分でもわかるくらい、全神経が越前に集中していくのがわかった。


 「ああ〜!おチビったらいきなり全開モードだにゃ。」

菊丸が唸った。

 「どうやら、さん狙いで、全く手を抜く気はないらしいね。」
大石も越前の本気モードに苦笑していた。



 「このセット、楽勝でもらいますね、先輩。」

越前は不敵に不二に向けて笑みをもらすと、得意のツイストサーブを
今度は遠慮なく不二めがけて叩き込んだ。

不二はそれを難なく返球するが、その球を越前は容赦なくに打ち返した。

 「ドライブB!?
  こらぁ〜、おチビ〜!
  こんな試合で大技連発するなんてずるいぞ!!」

菊丸は思わず叫んでいた。


 「30−0」



は次第に胸が高鳴るのをどうしようもなく押さえきれないでいた。
しばらくぶりの試合形式とは言え、相手はかなりの腕前。
それもこんな球技大会というのに、全力で打ち込んでくる。
の心の中で今まで押し込めてきたものが一気に溢れてきた。
純粋にこの球を打ち返してみたい!
頭で考えるより早く、いつの間にかの体は動いていた。

3本目のツイストサーブがの右前方に落ちる瞬間、のラケットはその球をカットしながら打ち上げていた。
球は威力が落ちることなく返球されたため、そのままラインオーバーした。

 「40−0」



 「さん、す、すごいにゃ・・・。」

菊丸はただただ呆然とを見つめた。

 「やはり、想像以上の反射神経の持ち主だな。
  ふむ、アウトになったとはいえ、は確実に球を捕らえていたな。」

乾は早速のデータを取り始めていた。





 「へぇ〜、あんた、飾りって訳でもないじゃん。
  不二先輩も人が悪いなぁ。
  でも、これでちょっとは楽しめそうっスね。」

越前は改めてを見る。
どこか憂いを湛えていた瞳には、今や闘争心の輝きを宿しているように思えた。
越前はボールを力強く握ると4本目のツイストサーブを打った。

 「悪いけど、越前、僕には効かないよ。」

不二は越前の逆サイドをついた。

越前は不二の言葉に臆することなく敏捷に不二の球に反応し、
今度はバギーホイップショットを繰り出す。
はラケットを両手で持つと越前のショットをコーナーぎりぎりに打ち返した。
が、ボールはわずか1個分ラインを超えていた。

 「アウト!
  ゲーム1−0」

1年の観衆から歓声が上がった。

 「う〜、越前の奴。
  不二に返すと返り討ちにあうと思ってさんばっかり狙ってるにゃ。」

 「まあ、仕方ないね。勝つための戦法のひとつだし。」

 「しかし、も藤崎の方に返せば楽に点が入ったものを、
  敢えて越前狙いで打ってる。
  3年の意地ってところか・・・。
  ま、どっちにしても、このままが勘を取り戻せば、
  越前はレギュラー二人を相手にする事になるから、勝つのは難しいと思うが。」

乾は冷静に分析していた。

 「へん!おチビなんてけっちょんけっちょんにしてほしいにゃ!」

菊丸だけは相変わらず越前を目の敵にして息巻いていた・・・。



 「どう?青学の1年も侮れないでしょう?」

不二がニッコリ笑いながらに話しかけた。

 「うん。不二君の策にはまった気もするけど、
  なんだかこの試合すごくワクワクする。
  絶対あの1年には負けたくないな。
  だって生意気なんだもの。」

はラケットのガットを指で直しながらそう言った。

 「越前は僕だけでも勝てるかどうかわからないな。
  でも、君と二人なら負ける気はしないよ。」

不二はそう言うとにボールを渡した。

 「ねえ、さん。
  この試合、君の打ちたいように打ってみていいよ。
  君が拾えなかったボールは僕が必ず拾うから。」

不二のその言葉には思わず目を大きく見開く。
何かを言いかけそうになりながら、
しかしは黙って頷くとサービスラインに立った。
握り締めたボールを胸のところに押し当てるようにすると、
は目をつぶった。


 ―――― 、僕を信じて。
      君の返せなかったボールは僕が必ず返すから ――――

 (あの言葉と同じ。幸村君が私に言ってくれたことと同じ事を不二君が言ってる。
  私、また、テニスやってるよ、幸村君。)


は目を開けると、ボールを頭上高く放り上げ、ラケットは鋭い弧を描いてボールに回転をつけた。
スパーンという気持ちのいい音と共に、ボールは越前の足元に鋭く突き刺さった。
越前は余裕で打ち返したが、はその球を予想したかのような位置で待ち構えると、
今度は越前の後方、コーナーぎりぎりに返球した。
のきれいなフォームに観客たちも息を呑む。

 「す、すごいにゃ!今の見た?」

菊丸は興奮しながら大石を見た。
 「ああ、さんって明らかにコーナーぎりぎりを狙ってるね。」

 「大石にもわかるか?
  立海大の柳に聞いたんだが、はパワーはそれ程でもないが、
  ライン際の魔術師という異名を持ってるそうだ。
  その位ボールコントロールには定評があるらしい。」

 「へえ〜。なんだかおチビが羨ましいにゃ。
  俺もさんと打ちたいなあ〜。」



試合の流れは一変した。
も不二も越前のペア、藤崎に対して打つ時は返しやすい球を打つが、
それ以外は容赦なく越前に鋭い球を打った。

は左右に越前を揺さぶり、少しでも甘い球が返球されると、
すかさずトップスピンショットやドロップボレーを繰り出す。

その正確無比なボールに辟易した越前が、
の脇をすり抜けるようにドライブBを放つとすかさず不二が、
 「僕に任せて!」
と、トリプルカウンターを越前にお見舞する、と言った風だった。


試合は結局一方的に不二たちの圧勝だった。

 「ゲームセット6−2
  ウォンバイ、不二・ペア。」



 「ちぇっ、不二先輩、白鯨まで出すなんて酷くないっスか。」
 「なんでもありって僕は言ったはずだけど?」
 「それに、不二先輩のペア、強すぎっスよ。」

越前がむっとした表情で不二を睨んだ。

 「ダブルスだからね?
  ペアはよく選ばないと。」

不二はクスクス笑った。

 「ねえ、あんた、名前は?」

越前がに声をかけた。

 「私?。」

 「ふーん、覚えておくよ。」

そう言い捨てて越前はコートを離れた。




 「さん!すごい!!」

試合が終わるとの周りは急ににぎやかになった。
今まで遠巻きだったクラスメートが、この試合で3−6の総合優勝が決まり、
改めてクラスの勝利の女神となったを囲んだからだ。
今まで存在感のなかったが一躍有名になってしまったのだ・・・。



 「あーあ、不二のせいでさん、みんなのアイドルだにゃ。」
 
菊丸がため息をついた。

 「でもすごかったよ。
  二人とも今日初めてペアを組んだようには見えなかったね。」

大石が感心したように不二に言った。

 「ああ、準決勝までは不二の動き方をよく見ていたんだろうな。
  決勝では不二がの打たせたいように打たせて、
  その実、彼女の苦手な位置には必ずフォローしていたし。
  不二、案外ダブルス向きなんじゃないか?」

乾が冗談とも取れない言葉を口に出した。

 「乾もそう思う?
  彼女はね、本当にダブルス向きなんだよ。
  彼女とやってみると、すごくやり易いのがわかるよ。」

不二はの後姿を見つめながら、何かを考えてるようだった。

 「不二〜!!さんがテニスしてたこと、知ってただろ?
  俺に内緒にして、自分でペア組んだんだー。
  ダブルスといえばこの菊丸様を置いて他にいないのに。
  ほんと、ずるいにゃ!!」

菊丸がふくれっ面をした。

 「うん、英二、悪かったね。
  でもほら、いくらクラスのためとは言え、
  英二が他の子とダブルス組んだら、大石が悲しむでしょ?
  僕は、青学のゴールデンペアに水を差したくなかったからね。」

 「おいおい、不二。誤解を招くような事は・・・。」

大石が咳き込んだ。




それにしても、と不二は思う。

  (こんなにテニスの才能があるのに、そのテニスを忘れたがっていたさん。
   彼女は一体、誰の事を忘れたがっているのだろう?)






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☆あとがき☆
  テニス経験のない私がテニス書いてる・・・。
  笑うしかありません。
  いや、もう何も疑わずに読み飛ばしてください。
  とにかく不二ペアは最強だったという事で・・・。(笑)
2004.8.31.