21.重なる想い






 「…、何があったの?
  ねえ、今度はちゃんと話して。
  お願いだから僕に隠すのはやめて。
  僕はどんな事でもの力になりたいんだから…。」






突然不二にぎゅっと抱きしめられて反射的にしがみついてしまったけど、
なんだかひどく焦ったような不二の言葉の方がには理解できなくて、
つと不二の体を少しだけ押し戻すと、そのまま不二の顔を見上げた。


 「ふ、不二君?」

 「何?」

 「ううん、不二君が、らしくなくて…。」




が苦笑すると、不二は驚いた目つきで優しくの頬に伝う涙を指先で拭き取った。


 「君のこんな顔を見ると僕だって冷静ではいられないよ。」

 「ごめんね、不二君。
  私もなんで涙が出たのか自分でもわからない…。」

 「そうなの?」

 「だって悲しい事じゃなくて…。
  むしろ喜ぶべき事で…。

  幸村君が、今度手術することになったって。」

 「そう…。」

 「成功すればまたテニスが出来るって…。
  すごく難しい手術らしいけど、またテニスが出来るようになるって!」


…そう、幸村は決して諦めないと言ってたし、もその言葉を信じたけれど、
それでももしかすると、実はもう2度とコートには立てないのかもしれない、
そんな風に思っていた事もあったから、幸村の手術の話はにとっても朗報だった。



幸村が立海大のジャージを翻してコートに立っていた姿を今でも思い出せる。


あの雄姿をまた見ることが出来るなら、
これ程嬉しい話はないはずなのに…。


なんだろう、この胸の奥でチリリと疼く痛みは?


困惑したようなの表情に気がつくと、不二は促すように優しく囁いた。



 「。僕に全部話してみて。
  幸村君の事を聞いて何を思ったのか、全部。」



間近で見る不二の瞳に吸い込まれそうな位見つめられて、
は自分でもよくわからずに
漠然と思っていた事を口に出していた。


 「嬉しい…はずなのに、
  ほんとは幸村君の復活は喜ぶべき事なのに。

  私、喜べない…。
  
  だって、私、…私、今は青学で。

  …幸村君が復帰しても、もう立海大にはいないんだなって。
  
  変だよね? 今更…。」


の泣き笑いのような表情に不二は困ったようにため息をつくと、
それでもまたの頭を自分の胸に押し当てるように抱きしめてきた。




 「君が自分を責める事じゃないよ。」

 「そうだけど…。」

 「なんでそんな風に思っちゃうのかな?」

 「…。」

 「それとも、はやっぱり幸村君じゃなきゃだめなのかな?」

 「えっ?」

 「僕は君とテニスが出来るなら、幸村君の代わりでもいいと思ったよ。
  君とテニスが出来るならどんな形だっていいって。
  でも今はそう思うことの方が僕を苦しめるんだ。
  僕は君が、僕と幸村君をどこかで比較してるんだろうな、と思うと、
  みっともないけど、すごく自信がなくなる。
  君を守りたいって思っても動けなくなるんだ。」

 「そんな…、不二君が自信ないなんて。」

 「自信なんて、ないよ。」


不二は静かに言い放つと更に抱きしめてる腕に力を込めた。


 「自信なんてないけど、君を誰にも渡したくはない!
  たとえ復帰した幸村君が君を求めたとしても。
  僕のミクスドのパートナーは君だけだ。

  でも、テニスだけで繋がってるのももう嫌なんだ。
  すごく、すごく不安なんだ。
  できるなら…、
  君の全てを引き受けるから…、
  僕が君を守るから、
  だから、僕だけを見て欲しい!」





 「不二君、あの…。」






 「僕は君が好きなんだ!」









不二の言葉で、今までぽっかりと空いていた心の半分が満たされていくようだった。

好きになった相手から好きだと言われる事が、
こんなにも嬉しい事だとは思わなくて、
は呆然としたまま、こみ上げてくる暖かな涙に困惑した。




 「ごめん、君を困らせるつもりはなかったんだけど…。」

 「ううん、そうじゃなくて…。
  私、不二君の事、幸村君の代わりだなんて思ってないから…。」

 「本当に?」

 「うん。好きな人に好きって言われたのが嬉しくて///」

 「それって…。」


 「私も、不二君の事、好き…だから。」







暖かな不二の体温が染み込むように伝わってきて
あれ程知りたいと思っていた不二の本心を聞く事が出来て
の頭の中は不二で一杯だった。



まるで時間が止まったようだった。




この幸せをかみ締めるように二人は抱き合ったまま無言だった。




さわさわと風に揺れる葉音に、しばらくしては自分の姿に気づいた。

夕闇が濃くなっているとは言え、ここは正門へと続く並木の下。

頬の熱が急に上がるのを感じながらやっとのことで不二に声をかけた。



 「あの、不二君。そろそろ離して?」

 「困ったな。離れたくないんだけど。」

 「や/////、 だ、誰かに見られたら…。」

 「僕は困らないよ?」


クスッと笑う不二はそれでもゆっくりと抱きしめていた手を離した。


 「私が困る!
  それにいつもいつもこんな酷い顔ばかり不二君には見せてる気がするし。」

 「泣き顔も可愛いって言ったら?」

 「全然嬉しくないし。」

 「僕は嬉しいよ。幸村君の知らない顔を僕には見せてくれてるって思うから。」

 「呆れた!」


がわざと怒った風に顔を背けても不二はクスクス笑いながら、
それでも二人分の鞄を拾い上げて、帰ろうか?とを促した。


 「…でも、私も嬉しい。」

 「何が?」

 「不二君のいろんな所を見せてもらったから。」

 「幸村君よりカッコいい所とか?」

 「その反対。意外に幸村君の事気にしてる所とか。」


思わずそう言って不二の顔を見上げたら、
不二の眉間に皺がよるのがわかっては慌てて謝ろうとしたら
不二の足が止まり、に向き直った。


 「うん、多分ずっと気にする。」

 「ふ、不二君?」

 「でも、それでも、全部引き受けたって言ったでしょう?
  だから幸村君の事も隠さなくていいよ?
  今はまだ余裕ないけど、それでもが好きだから。
  が僕の事好きって言ってくれれば、大丈夫だから。」

 「う…ん。」
  
 「だから、も僕に誓って。
  今日みたいな無茶は絶対しないって。
  何でも僕には一番に話して。
  ね、僕たちの間に隠し事はなしだからね。」



不二の顔がゆっくりと近づいてくるのを感じてはそのまま瞳を閉じた。

そこだけ熱を持った不思議な感触はほんの数秒の出来事だったのに
今自分がどこにいるのかさえも判らなくさせる程の眩暈を感じさせた。

けれど頭のどこかで不二とキスするのは初めてじゃない、と囁く声がして、
この隠し事も打ち明けねばならないのだろうか、と思いあたって、
赤面したまま不二の顔をそっと見上げたら、
すでに横に逸らされていた不二の顔も赤くなっていたのがとても新鮮に見えた。



一番好きな人と 好きなテニスが出来る



ただそれだけが嬉しかった。









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☆あとがき☆
 ほんと、遅筆ですいません。
もう、平謝り状態です〜。
だけど、多分来年も続きます。
中途で投げ出す事はできないって
これだけは思ってるんで…。

2006.12.31.