17.素直になって
結局立海大との試合は、小鷹のシングルスと・舞のダブルスの2勝しかできなかったが、
それでも女子テニス部にしてみれば、あの全国レベルの強豪から2勝できた事に、
都大会・関東大会への上位入賞に希望が見える思いだった。
「さん!」
喜びを全く隠すことなく小鷹がに近寄ると、
その両手を取った。
「ありがとう!」
「ううん。小鷹さん、私の方こそ!」
なんで?という風に小鷹が首をかしげた。
「私ね、今まですごく自分中心だったような気がする。
ミクスドがやりたくてそればっかりで…。
でも、小鷹さんは全然違う。
どんな試合でも一生懸命で、
何かしら後輩に残してあげたいっていう気持ちで一杯なんだもの。」
の言葉に小鷹が首を振った。
「そんなことないよ。
さんだって後輩思いじゃない。」
「でも…。」
「大丈夫。あの子なら立ち上がってくるわよ。
負けず嫌いな彼女にとっては屈辱的な事だったかもしれないけど、
多分、必死で追いついて来るわよ。
さんの思惑通りにね?」
小鷹はふふっと笑って、タオルで顔を覆っている舞を優しく見つめた。
「いい所も悪い所も引き出してもらって良かったんじゃない?
それが判らないようだったらこの先伸びないと思うし。
でも、さんのダブルスはもう許可したくないな。
さんには絶対シングルスで勝ってもらいたいし。
ね? 男子と一緒に全国、行こうよ!」
小鷹はそう言いながらの手をぎゅっと握り締めた。
「なになに、2人で何盛り上がってるの?」
が振り返ると、そこには菊丸と不二が立っていた。
小鷹は腰に手を当てて、えへんと胸を張ったまま菊丸に詰め寄った。
「今年は女テニもやるわよ!
いつまでも男子ばかりにカッコつけさせたくないからね。
さんには正式に女子テニス部に入ってもらって、
団体で全国目指すわよ!!」
「ええ〜、何それ、いつ決まったんだよぉ。」
「今よ、今!」
「小鷹、横暴。」
小鷹と菊丸が押し問答をしてる姿にが苦笑してると、
不二が声をかけてきた。
「さん。」
「…不二君。」
「試合、見てたよ。
まさか、舞ちゃんとダブルスやるとは思わなかった。」
「…。」
「何かあった?」
「ううん。でも、如月さんには私のわがままに付き合わせちゃって、
悪かったなって思ってる。」
「わがまま?」
「っていうか、先輩風吹かせちゃった。
だから、不二君、如月さんの所に行ってあげてくれるかな。」
「僕が?」
「私、欲が出てきたみたい。
女子テニス部でも全国行きを目指そうと思うの。
そのためには憎まれ役の先輩でいいと思うんだ。
でも、不二君は如月さんにとっては憧れの先輩でしょ?」
晴れ晴れと言うに不二は聞きたい言葉を飲み込んで考え込む。
立海大との試合に堂々と勝ったは、
もう陰口を叩かれる事はないかもしれない。
菊丸はとても心配していたけれど、
案外彼女の耳にはそれ程悪い噂は届いてなかったか、
彼女自身、くだらない事と割り切っていたのかもしれない、
と、不二は自分自身に納得させるのだった。
「わかった。」
そう言うと不二は舞が座り込んでるベンチの方へ歩き出した。
********
タオルで顔を覆ったまま、舞はふさぎ込んでいた。
隣に誰かが座っても、顔を上げる気にもなれないでいた。
「さんとダブルスしてみてどうだった?」
舞は聞き慣れたその声にビクンと反応した。
「ダブルス、意外に難しかったんじゃない?」
舞はため息をつくとタオルから顔を離したが、
不二の顔を見る事はできなかった。
「…周ちゃん、私、みっともなかったでしょ?」
弱々しく言葉を吐く舞に、不二はクスッと笑みを漏らした。
「随分しおらしい事言うね。」
「私、どうやってもあの人には追いつけない気がする…。」
「さんに?
うん、無理かもね。」
「…周ちゃん、慰めに来てくれたんじゃないの?」
「あのね、舞ちゃん。
この1年では無理だと思うよ。
でも、舞ちゃんが望んで努力すれば、
君が3年生になった時、今のさんに追いつけるかもしれないよ。」
「それじゃあ、絶対周ちゃんと一緒にテニスできないじゃない。」
「うん、そうだね。
はっきり言って、今の舞ちゃんとはミクスドやる気にはなれないよ?
それはわかるよね?」
「…うん。」
舞はじっと自分の靴を見ていた。
「僕にとっても今しかないんだ。
今のさんとミクスドやらなきゃ、意味がないし。
それに、もし舞ちゃんとミクスドやったとして、
今日のような試合で、舞ちゃんは満足できる?
君の足りない所、未熟な部分を補うだけのパートナーなんて、
僕は満足できない。
それなら、シングルスで十分だよ…。」
思いがけない不二の強い口調に舞は顔を上げて不二を見つめた。
「でも、今日の試合は舞ちゃんにとって貴重な試合になったはずだよ?
それがわからない舞ちゃんじゃないはずだよね?」
「…う、うん。」
「さんも舞ちゃんの実力はわかってくれてると思うよ。
後半のボレーは舞ちゃんらしさが十二分に出ていたし、
それができるようになったのは彼女のおかげなんじゃないかな?
僕とのミクスドはだめでも、一緒に全国大会に行けるかもしれないしね。」
「うん。周ちゃん…。
私、私ね、…先輩に、…ひどい事したの。」
そう言うと、舞は両手で顔を覆うと、今度は本当に泣き出していた。
********
菊丸と小鷹がそれぞれ、
自分たちの方で練習してくれなきゃ意味がないと、
をめぐって言い合ってると、
そこへ息せき切って大石が現れた。
「秀一郎、どうしたの?」
小鷹と菊丸は不思議そうに大石を見つめた。
「ああ、今、さんが校舎裏の方へ行くのを見かけたんだ。」
「へ?ちゃん?
あれ、そう言えばいつの間にいなくなったんだろう?」
「そ、それが、また不二の親衛隊らしき奴らと一緒だったから心配で…。
もうこれ以上不二に黙ってる訳にはいかないだろう?」
大石は困ったように小鷹に言うと、
小鷹は舞と並んで座ってる不二にちらりと視線を送った。
「そうね。さんの気持ちもわかるけど、
不二君に何とかしてもらわないと…。」
「大石!!
俺が何とかしてくる!!!!」
菊丸は驚いてる二人を残したまま、全速力で駆け出した。
「おい、英二!!」
そう叫ぶ大石に今度は小鷹が叫んだ。
「秀一郎、不二君に話して!
早く!!」
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☆あとがき☆
随分放置してましたが、
これでも実は毎日思い悩んでたんですよ〜。(笑)
それこそ、毎日毎日、どう進めようかと。
展開が遅くてすみません。
辻褄合わせるのに苦労します…。
2005.11.5.