氷帝栗須魔巣物語 3
ここは氷帝学園のカフェテリア。
大きなクリスマスツリーの近くのテーブルで、
をはさんで忍足とジローが火花を散らせていた。
「だって俺の方が先約だと思うC〜。
ちゃんに相談に乗ってもらおうと思ってさ〜。」
ジローは相変わらず眠たそうな顔をしているものの、
忍足に対しては1歩も譲らぬ態度で続けた。
「忍足こそ、なんでちゃんと一緒に来るわけ?」
「…あの、芥川君、ごめんね。
でも、ほら、同じテニス部同士だし、
お昼、一緒でもかまわないよね?」
にそう言われるとジローも二の句がつげない。
とりあえず、今日のAランチを3人で食べ始めることになったものの、
忍足にしてみれば、ジローがいつの間にと昼食を一緒に食べる約束をしたのかが気になっていた。
「そう言えば、芥川君、
私に相談にのって欲しい事があるって言ってたよね?
どんな事?」
の言葉にジローがニッコリ笑いかける。
「ああ、あのね、俺、妹がいるんだ。」
「芥川君に似てる?」
ジローの唐突な話に、全然的外れな質問を返すを忍足はそっと観察していた。
「う〜、似てるかな。
それでね、クリスマスに何かプレゼント買ってやろうと思うんだけど、
ちゃんに選んで欲しいなあ、と思ってさ。」
「私が選んでいいの?」
「うん。だってちゃんが選ぶものだったら、
すっごくかわいいと思うC〜。」
「妹思いなんだね、芥川君も。」
真顔で答えるの言葉に引っかかるものを感じて、
忍足は思わず身を乗り出して突っ込んだ。
「なあ、ジローも…ちゅうことは、
他にもそんな奴がおるんか?」
「うん。テニス部の人たちってみんな家族思いだよね?
私、びっくりしちゃった。
向日君もお姉さんや弟にプレゼント買わなくっちゃいけないんだ、って言ってたし、
日吉君はおばあちゃんたちにするって言ってたし、
樺地君も確か妹だったなあ。」
は一人一人思い浮かべてるのか、顎に人差し指を当てたまま答える。
忍足はなんだか気が滅入る気持ちだった。
(またベタな誘い文句やなあ。)
「ねえねえ、24日の午前中はちゃん、空いてるの?」
ジローがの袖をツンツン引っ張った。
「えっと、24日はに頼まれちゃって図書館の書庫整理を代わってあげちゃったし、
その後鳳君がなんだか用があるって言ってたし、
でも、23日は向日君たちと買い物に付き合う約束しちゃったし…。」
「じゃあ、22日の放課後でもEからさ〜。」
「うん、それだったら大丈夫だけど。」
あっさりO.K.するに忍足はため息をつく。
「なんや、、お人好しすぎるで?」
忍足の言葉には首を振る。
「だって、いいなあって思うんだもの。
友達とか家族とか、大切にしてる人からクリスマスにプレゼントもらうのって、
すごく嬉しいじゃない?
もらった人が喜ぶ顔を想像しながらプレゼント選ぶのって、
私好きだなあ。」
はそう言うとカフェテリアの大きなクリスマスツリーを見上げる。
「うちはね、クリスマスは両親とも毎年忙しいから、
家族だけでクリスマスパーティーする友達がとっても羨ましかった。
イブにはサンタさんが来るんだなあって。
私のところにはいつもクリスマスが過ぎてからプレゼントが来るんだもん。
あれは寂しかったなあ。
プレゼントはちゃんとクリスマスにもらいたいよね…。」
「だからって、こいつらに付き合う事なんてちっともあらへんで。」
「忍足〜。横槍入れるなよ。」
ジローが文句を言ったその時、
向こうから走ってくる長身の男の子にが気が付いた。
「鳳君!?」
「なんや、長太郎、どうしたんや?」
「そ、それはこっちの台詞です。
教室行ったら、宍戸先輩が、
忍足先輩と先輩が2人で学食に向かったって言うから…。」
肩で息をしながら相当焦って来たようで、長太郎の目は険しく忍足を真っ直ぐ貫く。
「ええやん、クラスメートと昼を食べたらいかんちゅう規則はないで?」
「からかわないで下さい。
俺は本気なんですから!!
忍足先輩こそ、
気紛れな気持ちなんだったらこれ以上俺たちの間に割り込まないで下さい。
俺たち、真面目に正々堂々と一人ずつチャンスを生かすために頑張ってるんですから。」
「正々堂々?
笑わせんときや。
後から攻める方がめっちゃ不利なんやで?
だから、チャンスはなんぼでも自分で作るんや。」
忍足はそう言うと、大胆にもの腕を引っ張ってカフェテリアを後にした。
「ちょ、ちょっと、忍足君…。」
何がなんだかわからないまま、は引きずられるようにして忍足に連れ出されてしまった。
「あーあ、長太郎が火に油を注いだって感じ〜。」
ジローが面白くないという風に呟き、
長太郎は長太郎で呆然と二人を見送っていた…。
眼鏡の事といい、今日はなんでこんなにも忍足に振り回されるのか、
は忍足の考えが全くもってわからなかった。
「忍足君、いい加減離してくれないと、
私、晒し者だよ。」
「ああ、悪かった。」
「今日の忍足君、ちょっと変だよ?」
忍足はため息をつくと、前髪をかき上げながら、渡り廊下の壁にもたれた。
はで、忍足の顔をまともに見ることはできないので、
横に並んだまま窓から中庭を見ていた。
中庭にも氷帝のシンボルツリーの大きなモミの木があった。
毎年この木には電飾が施され、部活で遅くなる生徒たちの下校時を、
明るく照らしてくれるのであった。
「今年のイブには…サンタ、来るかな…?」
の独り言に忍足は思わず口元が綻ぶ。
「は、そんなにサンタに会いたいんか?」
「あっ、今、子供っぽいって思ったでしょう?」
は思わず忍足を見上げた。
そこにはをじっと見守るような、優しい忍足の顔があった。
「思ってないで。」
「嘘ばっかり。」
「ほんま。
ただ、の会いたいサンタが俺だったらええなぁって、今思た。」
「えっ/////?」
「俺が素敵なクリスマスプレゼント、にあげたいんや。
イブに淋しい思いしてるを楽しませたいなあ、思うてんねん。
だから、24日は俺と過ごさへんか?」
忍足の、随分真面目な瞳には頬を染めながら視線をはずす。
「なあ、なんで他の奴らとは普通に話したり会うたりしてんのに、
俺とは視線、合わせてくれへんの?」
「そ、そんなこと…。」
「俺はの事、ずっと見ていたいんや。
こんな気持ち、初めてやで。」
「…。」
忍足は我慢できずにの肩を両手で掴むと自分の真正面にを向かせた。
「なあ、俺、めっちゃ、の事、好きになってもぅた。
俺の事、軽い奴や、思うてるかもしらんけど、
でも、他の奴らと一緒にいるとこなんか、もう見てられんのや。
なあ、答えてくれ。
の好きな奴、テニス部の中の誰かなんやろ?
ほんまは誰の事が好きなん?」
忍足の言葉に両の手をぎゅっと握り締めて、は俯いたままだった。
「あの、…私ね、イブは忍足君と過ごしたいよ。」
「えっ?」
は困った顔をさらに赤くしながら囁いた。
「多分、忍足君よりずっと私の方が、
忍足君の事、好きだったと思う。」
「それ、ほんまか?」
「う、うん。ずっと前から…。
でも部室に行っても全然会えないし、
他のメンバーと仲良くなれたら、忍足君とも話せるかなって思ってた。」
「こらこら。あいつら信用したらあかんて…。」
忍足はそう言いながら嬉しそうにを引き寄せる。
「なあ、俺はの事好きになったばっかりやけど、
この気持ちは誰にも負けへんで。
今年のクリスマスはめっちゃええ記念日にしたるな。」
「うん///。」
忍足はの両肩を優しく引き寄せると、
そのままを抱きしめた。
Next
Back
☆あとがき☆
我が家には小さなツリーしかありません。
外国ではリビングに、人の背より大きなツリーがあって、
その下にプレゼントが並んでる光景をよく見ますよね?
あれって、憧れだなあ〜。
って、このまま終わりにしたかったんですが、
次で完結です。ただし、期待しないでね〜。(笑)