ずっとずっと片思い  1







女子は恋バナが好き。

そういう相場らしいけどはあまりそういうのには加わらない。

誰かの恋バナを聞かされる羽目になって
その挙句自分の秘めたる想いまで
ついうっかり曝け出される事には我慢がならない。

誰を好きでも誰が好きでも
そっとしておいて欲しいと思う。

妙な連帯感が生む誰かの恋の応援など
要らぬお世話だとはっきり口に出したい所だけど
それを口に出せば得策でない事くらいでも分かっている。

だからは決して口を挟まない。

恋バナの輪に入っているようで入ってないフリをするのは
実はかなり努力を要する。


 「ねえねえ、知ってる?」

 「何?」

 「ケイちゃん、不二の事が好きらしいよ?」

 「不二か〜。
  ちょっと無理っぽくない?」

 「あー。それ、私もそう思った。
  不二のタイプって感じじゃないモンね。」

昼休みの輪の中で
ふとしたきっかけで噂話の花がまたひとつ開く。

第3者が冷静に分析してるようで
その実主観が伴う恋バナはその動向を見極めていないと
その輪の中からはじき出されてしまう。

はいつものように聞いてるのか聞いてないか位の
中途半端なスタンスでお弁当をつついていた。

それでも青学テニス部の有名人の話となれば
なぜか普段よりも皆のテンションはヒートアップする。

 「不二ってさ、好きな人がいるらしいよ。」

 「ええっ? 嘘?
  それって不二が告白したらお終いじゃん。」

 「だよね。不二に告白されて断る女子なんていないって!」

 「あー、でももしもよ?
  もしその子が手塚に片思いしてたら振られるかもよ?」

 「やだ、なにそれ。」

 「えー、でも有り得る話じゃん?」

 「やだやだ〜、もったいないって〜。」

妙なバカ騒ぎにはふっと幼かった日の事を思い出していた。







       ******







 「不二君、ちゃんの事、好きみたいだよ?」


あの時も確か給食の時間の事だった。

何を食べていたかなんてもう忘れてしまったけど
小学校の高学年だった。

そう言えば不二君と同じクラスになった事は一度もなかった。

でも不二君は小学生の頃からすでに人気者だった。

クラスは違っていてもいつも女の子たちの噂の中心だったから
その日体育でどんな活躍をしていたとか、
学級会でこんな意見を言っていたとか、
どうでもいいような情報もすぐに耳に入って来た。

おませな女の子たちはバレンタインになると
浮き浮きと不二君にチョコを渡していたし、
その頃から誰が告白したとか、だめだったとか、
そんな話も事欠かなかった。


 「えっ?」

 「ちゃんってかわいいもん。
  私、ちゃんなら文句ないなあ。」

親友のにそんな風に言われて
やっと自分が話題の中心にいる事に気付いた。

でも、以外の女の子たちは
そんな事許さない、みたいなヒートぶりだった。

 「ええっ!?
  ちゃん、好きな人いないって言ってたじゃん。」

 「それにちゃんは可愛いって言うより大人って感じだもんね。」

 「うんうん、どっちかっていうと手塚君の方がお似合いだよね。」

本人の口から何も出ていないのに
級友達は言いたい事を言ってくれている。

 「ちゃん、背高いから手塚君とか乾君とかの方がいいんじゃない?」

 「そうだよね、あの二人、頭もいいし、
  ちゃんだっていつも成績いいしさ。
  クラス委員だっていつもしてるし。」

 「並ぶと見ばえするよね〜。
  ちゃんって絶対モデルになれるよ。」

別にモデルになりたい訳でもないけど
背が高いからってだけで手塚君や乾君を押し付けられるのはどうだろう。

密かに不二君の事をいいなあって思っていたのに
冗談でも言える雰囲気ではなくなっていた。


 「ねえねえ、ちゃんはどうなの?
  やっぱり恋人にするなら背が高い方がいいよね?」

 「そりゃあそうよ。男の方が背が低いなんてかっこ悪いもん。」

 「だよね〜。」

 「じゃあ、不二君は論外だね。」


いつの間にかそんな風な結論が出されてしまっていた。

もちろんだって背が高い事を気にしていない訳ではなかった。

先生には頼られ、級友達にも頼られ、
何となくいつも先頭に立ってみんなを引っ張る役が多かった。

勉強も好きだったし、運動も好きだったし、
何より身体の発達が同級生より早いという事は
自分にとって有利に働く事が多かった。

けれど、淡い恋心を抱いていた不二君の隣に自分が立つと
その身長差は笑っちゃうほど歴然で
自分がお姉さんでもあるかの見栄えに本当はショックを受けていた。

だからみんなに不二君より手塚君がお似合いね、などと言われてしまうと
もうそれは自分が片思いさえ出来ない決定事項みたいで
力なく笑顔を顔に貼り付けてみたけど本当は悲しい気分だった。


でもそれは女の子たちの間だけの話ならまだよかった。

けれど小学生の頃はおせっかいと言う言葉が
男女の壁を越えてまかり通る所に、ある意味幼さがあった。

いつの間にか本人の意思のない所で
間違ったの気持ちは悪ふざけの好きな男子たちによって
不二君にそのまま伝わってしまっていた。

悲しいくらいにどんよりとした曇り日だったと今も思い出すことが出来る。

ひとりゴミを捨てに行った時に、偶然不二君と出会った裏庭。

不二君の手にも空のゴミ箱があって
すれ違う時に不二君が声をかけて来たのだ。


 「さんって背の高い人が好きなんだって?」

 「えっ?」

 「僕は見た目なんて気にしないけどね。」


今思い返しても恥ずかしくなる言葉だ。

自分は決してそんな事を間違っても不二君に言ったりしていないのに
彼はもうすっかり周りの流した話を鵜呑みにしたんだと思った。

呆然と立ち尽くしてる間に不二君は行ってしまったけれど
何も反論できなかった自分がとても情けなかった。

身長と比例して他の女の子よりも少し大きい運動靴を
ぼんやりと見つめている自分の目から
ぽたぽたと涙が流れた事にしばらくは気付けずにいた・・・。




それからだった。

は極力クラスの中で目立つ事がないように心がけた。

みんなが可愛いと思うものを持つことも躊躇われた。

身長が大きいと言うだけで目立つなら
それ以外の事では目立ちたくなかった。

みんなの輪の中にいても自分から話す事さえ控えるようになって
次第に寡黙になっていった。

校内模試はわざと空欄を作り
結果が張り出される事の無い対外模試でだけ自分の実力を確かめた。

中学になりその身長も皆が追いついて来たためさほど苦にならなくなっても
校内行事に積極的に関わる事もしなければ
委員会活動も縁の下の力持ちであり続けた。

意固地になってると言えばそうかもしれなかった。








それなのにそんな努力は高校に入った途端
無残にも打ち砕かれてしまった。

自らが目立つ事のないように高校でも
ひっそりと学生生活を送るつもりだったのに
あろうことか手塚と同じクラスになってしまったのだ。

対外模試では手塚と肩を並べる成績に先生方が気付かないはずがなく、
事ある毎に手塚とクラス委員と言う名の下に
色々な仕事を一緒に手伝わされ、
挙句の果てに1年生ながら生徒会役員に抜擢されてしまった。

つまり、手塚の側に並ぶ機会が増えるたびに注目度は上がり
と手塚がまるでベストカップルであるかの噂が度々持ち上がる。

否定すれば否定するほど信憑性が増すなどと
女性週刊誌顔負けのゴシップ話は
の手の届かない所で一人歩きしてしまっていた。







       


  



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