2月の恋 1









 「なんでそんな事言うの?」


彼はまるで解ってない顔をする。

黙って消えてしまった方がよかったかな、とも思ったけど
千葉と東京じゃ、そんなに都合よく自分の所在を透明にする事なんて無理だし、
第一、父の実家は千葉なんだから二度と戻って来ないという保証はなかったし。

きっかけは父の転勤だったけど
そうじゃなくても私とサエの関係は終わっていると私は思っていた。


サエは私にとって太陽だった。

大きな存在で、彼が私に向けてくれる優しさは私を幸せにしてくれたけど
彼の優しさは私以外にも向けられていて何度となく私は傷ついた。


 「俺をフリーにしちゃだめじゃん。」

サエは笑って言うけど、私はその言葉を聞くたびに
サエを私に縛っておく事は到底無理な事だと感じていた。


 「俺が一番好きなのはだよ。」

 「サエ、私もサエが好きだったよ。」

 「今は好きじゃないの?」

 「好きだけど、好きなのに全然幸せじゃない。
  こんな気持ちのままで離れたら絶対上手くいかないってわかるから。」

 「は考えすぎだよ。
  今までだって部活が忙しくて会えない日は多かっただろう?
  それがもうちょっと会えない日が増えるだけのことなんだから。
  俺はずっとが好きだから、全然平気さ。
  な、あんまり暗く考えるなって!」


サエが意外に能天気な事を私は恨めしく思う。

私がどこで何をしていてもサエは決して干渉してこない。

それはそれはサバサバした性格なのだろうと思っていたけれど
会えない日々を私がどんなに淋しく思っていたかなんて理解できないのだ。

それなのにサエは同性にも人気があるから
私と一緒ではない時も常に周りに友達がいて、毎日がとても楽しそうだった。

サエの笑顔を見るだけで幸せだった日は私にはそう長くは続かなかった。


私と友達、どっちをとる?とか、私とテニス、どっちが大切?とか…

そんな言葉を口走りそうになった事は一度や二度ではなかった。

でも悪びれた風でもなく私のそばにやってくる彼に
問い詰めることなど私にはできなかった。

多分、サエは口に出すほど私の事を好きだとは思ってないのだろうけど
その無自覚なサエが見せる優しさに私はずっと囚われ続けていたのだ。





 「ごめん、自信がないの。
  だから別れよう?」





そう言ってサエと別れたのは中学卒業間近のバレンタインデーの事だった。





今思い出しても胸がぎゅうっと締め付けられる。

最後だけでもサエにチョコを渡してもよかったのに
そうしなきゃけじめにならないとばかりに
私はチョコの代わりに別れの言葉をサエに送ったのだ。



そんな思い出の日にしてしまったから
私はバレンタインデーが近づいて来ると有り得ないことに毎日サエの事を考えていた。

今更サエがどうしているかなんて聞く耳は持ってないつもりだったけど
あの後、サエはどんな風に過ごしているのだろうとそればかり気になった。

会えなくなっても結局気持ちが残っているのは私の方かもしれない。








        ********







 「どうした?」

 「えっ?あっ、ごめん。」


生徒会の引継ぎの書類に目を通していた手塚がため息をついていたのがわかった。

かなりの時間、私は放心状態だったらしい。


 「ちょっとぼーっとしてたね。」

 「疲れてるんじゃないのか?」

 「それはないって。
  心労なら手塚君の方が数倍だと思うけど?」


私は悪戯っぽく笑いかけた。

生徒会室にも用意されていた手塚専用の段ボール箱には
今年も可愛い包みが山のように積み込まれていた。


 「生徒会長になったらますますだね。」

 「困ってるんだがな。」

 「そうは見えないよ?」


手元にある書類に目を通し直すと手塚が笑ったのがわかった。


 「俺も不二のように振舞えばよかったかな。」

 「冗談でしょ?」

 「ああ、冗談だ。」


私が六角中から青学に転入した時から手塚とはいつも同じクラスだった。

クラス委員をやるうちにいつの間にか生徒会に推薦され
まるで幼馴染だったかのような錯覚を覚えるほど
手塚とはフランクに話すことができた。

もちろんサエと付き合ってる時に青学との練習試合も何度か見た事があったから
青学テニス部のメンバーは私にとって知らない人たちではなかった。

もちろんそんな事を口に出した事はなかったけれど。


 「手塚君は特定の彼女を作らないの?」

 「今年も全国大会行きを狙ってるからな。
  生徒会と二足の草鞋を履いている以上、そんな余裕は俺にはないな。」

 「女の子と付き合うのは負担なんだ?」

 「甲斐性がないだけだ。」


甲斐性がない、と言う割には手塚はまめな方だと思う。

こうして多くの女の子たちからもらうチョコに対して
手塚は彼らしく一様に同じものを彼女たちにお返しをしたりしているからだ。


 「それはそうと…。」

 「何?」

 「おせっかいだとは思うが、そろそろ応えてやったらどうだ?」


私は手塚がそんな事を言い出すとは思わなかったのでびっくりして視線を上げた。


 「…おせっかいだよ、手塚君。」

 「ああ、だがすでに公認同然じゃないか?
  不二のどこが不満なんだ?」

 「不満なんて…ないけど。」


およそ人の恋愛ごとに関心を示すとは思えないのに
手塚は至って真面目な顔で私を見つめている。



手塚がそんな事を言い出すくらい、
私と不二の関係ははっきりしていて曖昧だったのだ。








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☆あとがき☆
 なんか始めなきゃと思って書き始めた。
どうなるかは全然思いついてもないんだけど
サエも好きなので出してみた。
って、サエ、全然だめじゃん。(笑)
そりゃそうだ、だって2月は不二の月だからね//
では。
2008.2.4.