極上生徒会 〜立海大編〜 7








 「悪い、幸村。遅くなってすまない。」



突然真田が生徒会室に飛び込んで来るものだから、
さすがの幸村も目を見張った。

真田が慌ててるのが腑に落ちなかったが、
それよりも真田の顔を見た途端、幸村の方が逆に落ち着かなくなった。



 「真田、は?」


そう、今この時間、は真田と一緒にいるべき時間なのだ。

慌てて尋ねる幸村に真田が怪訝な顔をした。


 「いや、一緒ではないが…? それより幸村が呼んでると聞いて急いで来たのだが。」

 「誰に?」

 「ああ、仁王に…。」


幸村は全部を聞くまでもなく廊下に飛び出した。

仁王が何を考えて真田に嘘を言ったのかは分からなかったが、
今なす事は跡部とを会わせてはならないという事だけだった。


 「くそっ!」



幸村のただならぬ様子に真田はぽかんと後姿を見送っていた。








        ********







は自分の耳を疑うように跡部の顔を下から見上げていた。


確かに幸村には跡部を生徒会室まで案内するように前々から頼まれてはいたが、
跡部の接待がこんなものであったなんて知らされてはなかった。

いや、知っていたらもちろん引き受けるはずはないが、
これが幸村と跡部の間で暗黙のうちに了承されていた事だったとは
到底信じられるものではなかった。

それとも、の気持ちを考えることなく、
こんな事が出来るほど幸村にとっては自分は取るに足らない存在だったのだろうか?

真田に校内の虫除けをさせ、今日この日のために、跡部の餌食にさせるために
を生徒会に入れたとでもいうのだろうか?

あの、幸村が…?


 「ゆ、幸村君はこんな事…。」


困惑と不安の中にありながらも、尚も幸村を信じたい気持ちが、
必死に押さえつけてる腕を解こうとするに力を与えていた。

なおも抵抗するの顔を見つめながら、跡部はここへ来て初めて、
の端正な顔つきに見入っていた。


 「なんだ? お前、幸村の女だったのか?」




その時不意に応接室のドアが開いて人が入ってる気配には顔から血の気が引くのがわかった。

こんな姿を誰かに見られでもしたら…。



 「あぁん、何の用だ、仁王?」


跡部がから体を離すと、上体だけ仁王の方を向き、不機嫌そうにそう言った。


 「跡部、そこまでにしてもらおうかのぉ。
  そいつはお前さんの相手じゃなか。」


には仁王の姿は見えなかったが、今のこの状況はどう見ても言い訳できるものでなく、
跡部の自分の手を掴む力が弱まっても、それを振りほどいて起き上がる気にはなれなかった。

幸村が自分を嵌めたとは思いたくなかったではあるが、
仁王の言葉が嘘ではなかったとしたら、
には仁王の顔を見る勇気はなかった。




 「ふん、何の話かと思えば。」

 「わからんのか?
  を今すぐ離せ!」

 「なんだと?」

 「を離せと言うとるんじゃ。」

 「お前、ばかじゃねーか?
  俺様がお前ごときの頼みをはいそうですかと聞くと思ってんのかよ?」


意外にも跡部は仁王の言葉など鼻であしらうだけで、
余裕の笑みさえ浮かべている。

 「そうか。
  そんなら力づくで返してもらうまでじゃ。」

 「ふん。笑わせるな。
  力づくだと?
  俺様に歯向かうとどうなるか、わかってんだろうな?」


仁王が自分を助けに来てくれた、と思うよりも、
二人の険悪なムードには自分の置かれてる状況を通り越して、
この問題が跡部と氷帝学園を敵に回す事になりそうな事に気づき、
迷わずは立ち上がりそうになった跡部の右腕を掴んでいた…。










        ********



  




幸村がすさまじいスピードで今まさに3階から
階下の踊り場に飛び降りようとした所で柳にその肩を掴まれた。


 「幸村! 何をそんなに慌ててるのだ?」

 「柳か。を、彼女を見かけなかったか?」



柳は驚いたように幸村の顔を見つめた。

こんなに取り乱した幸村は中学の頃、
一度だけ入院先のベッドの上で見た事がある、と柳はすばやく思い返していた。

振り乱れた前髪をかき上げるでもなくの名を口にする幸村の瞳には
明らかに動揺と不安が色濃く映っていた。




 「なら、跡部を出迎えてるはずだが。」

 「彼女はどこに?」

 「確か応接室のはずでは…。
  幸村! お前が指示を出したのではなかったのか?」

 「柳。説明してる暇はない。
  俺のミスだ。
  俺は…、いや、とにかく先に行く。
  柳は葦名さんを連れて来てくれ!」





幸村の後姿を見送ると柳は先程のと仁王の会話を思い出していた。

確かに仁王は幸村の伝言だと言っていた筈だ。

仁王は人を騙すことにかけては天才肌だが、
その気質を買っていたのは取りも直さず幸村だった。

仁王のいい加減な言動を柳は元来快く思ってはいなかったが、
それでも幸村が仁王を信頼してる限り柳とて彼を否定した事はなかった。

が、その幸村の信頼を仁王は踏みにじったのだ。

それも幸村が大事に想っているだろうを使って…。

柳は事の収拾をつけるべく、階段を降り始めた。









        ********






 「ふっ、お前、なかなか物分りがいいじゃねーか。」


跡部はに掴まれた腕を見下ろすと不適に笑った。

は自分の指先を見つめながら、なんて事をしたんだろうと後悔しながらも、
ここで仁王と跡部のいさかいを大きくしてはいけないという思いで一杯で、
なんとかこの場を切り抜ける方法はないかとそればかりを考えていた。


 「仁王、生憎だな。
  こいつは自分の役目を果たすつもりらしいぜ。
  なんたって生徒副会長だもんな。
  こんな事で合同文化祭が中止になってもいいのかよ?」

 「こんな事?
  お前のやってる事はどんだけ立派じゃ言うんじゃ。
  俺も最低じゃが、お前も幸村ももっと最低じゃ。」


苦しそうに吐き捨てる仁王の言葉がの耳に切なく響いてきた。


 「こんな文化祭、俺が滅茶苦茶にしちゃる!!」

  

 「なんだと?」


跡部が本気で怒ったのがにもわかったが、もはや止める術はなかった。

跡部が仁王の方へ拳を振りかざして立ち上がるのと同時に
応接室のドアが勢いよく開いた。

そして間髪いれず仁王と跡部の状況を察知するや、
鈍い音が応接室内に響いたかと思うと共に仁王が崩れ落ちた。












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2006.11.22.