極上生徒会 〜立海大編〜 5







 「よお。」



幸村と葦名を見送ったはまだどこかぼうっとしていた。

考えたくない言葉が浮かんできそうで、は必死で、
眩しいくらいお似合いの二人の後姿を思い出さないようにしていた。



 ただの…

 生徒会の先輩

 なんでも、ない…

 何もあるはずがない






 「何、小難しい顔して歩いてんじゃ。」


肩を掴まれるまで、目の前にいるのが仁王だとは気づかないでいた。


 「そんなにショックか?」

 「な、何のこと?」

 「幸村と葦名のことに決まっとーよ。」


仁王がゆっくりと二人の名前を口に出した。


 「私は別に…。」

 「そんならええがのぉ。
  ま、は知らんだろうが、幸村は結構3年の女子に人気あるけんの。」

 「それは仁王君の方でしょ?」


は前に見た仁王と3年の女子とのキスシーンを思い起こして言った。


 「いいや。俺は幸村とは違うけん。」

 「何が違うの?」

 「たとえば、深入りの度合いかの。」

 「さ、最低!!」


は仁王の脇をすり抜けるように走り出した。


 「最低なのは俺か?幸村か?」



薄ら笑いを浮かべてる仁王の言葉が走っても走ってもどこまでもついてくる。


深入りしないのは…幸村? それとも仁王…?


そんな言葉が頭に浮かんだこと自体が急に、の足を重くさせた。

どっちにしたっての心境は複雑だ。

あの優しくて屈託なく笑う幸村の笑みに、
の知らない別の顔があるのだろうか?

幸村に特別な人がいるというのは聞いた事がなかったけど、
葦名とは訳ありの関係なのか、とか、
仁王よりも数段上手く遊び歩いてるのだろうか、とか、
年上じゃないと恋愛対象には見てもらえないのだろうか、とか、
なんだか今まで考えた事もないことがぐるぐると頭の中に浮かんでくる。

は廊下の突き当たりの扉を開け、
非常階段の踊り場で膝を抱えて座り込むと、
しばらくは立ち上がる元気が出なかった…。







     ********






生徒総会が終わるまでは何かと忙しくて、
は終始真田と行動を共にする事が多かった。

幸村は幸村で忙しいのだろうが、
副会長に頼みたい仕事は全てあらかじめ真田に申し送りがされていて、
は真田から仕事内容を伝えられるのだった。

たまに昼休みに幸村に出会う事があっても、
そのそばには必ずと言っていいほど葦名や元生徒会メンバーや
何がしかの委員会のメンバーの顔があって、
は幸村の後姿を目で追うしかなかった。

合同文化祭の準備で忙しいとわかっていても、
幸村の手伝いを直接自分が出来ない事が切なかった。





 「今日も真田と居残りか?」

あれからも仁王は気まぐれのようにのクラスにふらっと現れる事が多くなっていた。

仁王と話すのは正直嫌だったのだが、
合同文化祭の会計の仕事が絡んでくることが多いため、無下に無視する訳にもいかない。

 「仁王君だって柳生君と居残りでしょう?」

は手元の各部活動のエントリーシートのチェックに視線を残したまま、
無表情に答えた。

仁王はの前の席に後ろ向きで座ると、
の机の上に両腕を乗せ、その腕の上に顎を乗せると、
下から覗き込むようにの顔を見つめてきた。

 「相変わらず不機嫌さんやのぉ。」

 「別に。普通です。」

 「そうか?真田と一緒が嫌そうに見えるとよ?」

 「あきれた!嫌そうな顔に見えるのは仁王君が私の仕事の邪魔をしてるからでしょ!」

 「俺はなーんもしてなか。」

 「してます!」

 「ほう?んじゃ、真田は嫌じゃないんじゃな?」

 「仁王君よりは何万倍もね。」


意地悪く仁王の事を睨んだつもりだのに、
仁王はなぜかその言葉に満足そうにニヤッと笑った。


 「つうことは、幸村の策略にはまってる訳だ。」

 「策略…って?」

はシャーペンを強く握り締め直した。




とて何も思わないでいる訳ではなかった。

同じクラスだった頃は3人で仲が良かったのだ。

だけど、生徒会に加わってから幸村は忙しいという言葉で、
をやんわりと避けているようにも思えたし、
その倍くらい、真田とを一緒にさせたがってる向きがあるように思えて仕方なかったのだ。

もちろん、真田とは同じ副会長なのだから他のメンバーより一緒にいる事が多くても、
それは当然といえば当然だったが、これ程までに幸村といる時間が少なくなるとは
考えてもいなかったからだ。




 「幸村はお前と真田をくっつけたがってる。」

 「…。」

 「はなーんも感じないのか?
  真田はお前さんに好意を持っとるじゃろ?
  その真田が一番に協力を求めるのは誰じゃ?」


は仁王の言葉で、今まで考えたくなかった事を
ひとつひとつ目の前に広げられていく感じに、
思わず耳を塞ぎたくなる衝動に駆られた。

そう、仁王の言葉なんて信じちゃだめだ、だけど…。


 「真田が幸村に相談したら、
  間違いなく幸村は真田の恋の後押しをしてやるだろうの。
  あいつは友達思いじゃからの。
  が幸村に好意を示したところで、
  それは全く受け取ってもらえんと思うがのぉ。」


のんびりした口調でさらりとの心にナイフを突き立てる、
そんな仁王が憎たらしく思えた。

 
 「なんでそんなこと私に言うのよ?
  大体私、別に幸村君の事も…。」

 「なんも思うてないとは言わせん。
  いつもあいつの姿を目で追ってる。
  俺もちょいと悔しいくらいの。」

 「何言ってるの。」

 「このまま行ったらが泣く目に遭う。
  俺はの味方じゃけん。」

 「詐欺師の仁王君の言葉は信用できないんですけど。」

 「そうか。そんなら、幸村がどんなに酷い奴か、身をもって俺が教えてやる。」


仁王が耳元で囁くものだから、は一瞬体が膠着してしまった。

頬の周りに仁王のつけている甘い香りが漂う。




 「、待たせたな。」


勢いよく開けられた教室のドアに驚いてのシャーペンが転がる。


 「ああ、真田か。が待ちくたびれとる。」

 「そ、それはすまなかった。」

 「そういや明日は氷帝の金持ちお坊ちゃんが来るんじゃったか?」

 「跡部か。今年も奴がスポンサーだからな。」


真田はの隣に座ると、新たに提出されたエントリーシートを机の上に置いた。

郵送された封筒を見れば、青春学園や聖ルドルフ、不動峰の名前も見受けられた。

とりあえずこれで出店数が確定し、各ブースの割り振りを進める事が出来るだろう。


 「俺は何も幸村まであいつのご機嫌取りをせんでもよかと思うがの。」

仁王は床に落ちたのシャーペンを拾い上げると、の手に渡しながら言った。

 「ああ、しかしそういう訳にはいかんだろう。
  ま、と俺が粗相のないようにお出迎えするから大丈夫だ。
  そう言えば柳生がお前を探していたぞ。」

 「んじゃ、俺は行くとするか。
  明日が楽しみじゃな。」


最後の方は明らかにに向けて言ったのだろうが、
はなぜか憂鬱な気持ちで一杯だった。


仁王は何を企んでいるのだろう。







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2006.9.18.