極上生徒会 〜立海大編〜 4









がぼんやり考えながら生徒会室の前に着くと、
丁度幸村が生徒会室から出て来るところだった。


 「あっ、幸村君!」


幸村は驚いてを見つめた。

柔和な顔立ちはとてもきれいで、これがあの常勝立海大テニス部を率いる部長とはとても思えない。


 「あれっ?真田は?」

 「真田君…? 真田君ならまだ部室だけど?」


そう答えるだったが、なんだか腑に落ちない。

幸村はが真田と一緒にいる事が当然のような口ぶりだった。


 「いや、君がその書類を持ってるから、真田と一緒だったんだなって思ってさ。」


幸村は慌てる風でもなくさらりとの疑問を振り払う。

そしての持ってる書類を受け取ると生徒会室の扉を開けてくれた。

幸村のそんな何気ない身のこなしが、には幸村の優しさが溢れているようで、
ひとりでドキドキしてしまう。

 「あ、ありがとう。」


幸村は書類を机の上にそっと置くと、机に腰をかけてを振り返った。




 「…そう言えば、突然君に副会長をやってもらうことになってすまなかったね。」


幸村が穏やかな笑顔をに向けてすまなさそうに言うものだから、
は慌てて手を振った。


 「えっ、あ、ううん、そんな事ないよ。
  柳君から聞いた時はびっくりしたけど…。」

 「でも、なら引き受けてくれると思った。」

 「そんな。だけど私がいなくたって全然大丈夫じゃないの?」

 「どうして?」

 「だって…。幸村君だけでもきっとやりこなしちゃうだろうし…。
  それよりテニス部レギュラーで生徒会固めちゃってよかったの?
  ただでさえテニス部の方が忙しいと思うのに…。」

 「ああ。面白そうだろ?」

幸村がクスクス笑ってる。

 「面白いって…。」

 「だって俺だけ忙しくなるのはむかつくからさ、
  あいつらも巻き込んじゃえって思ってさ。」

 「嘘ばっかり。」

 「嘘じゃないさ。」

 「そんないい加減な理由で誘ったりして大丈夫なの?」

 「だって部長命令だし?」

 「職権乱用ですか?」

 「ふふっ。そういうことになるかなぁ。」



こういう時、幸村は絶対本心を明かさない、とは思う。

いつもいつも柔和な微笑でかわされるから、
幸村はずるいとも思う。

あの微笑にドキドキしてしまって、それ以上のことが聞きたいのに聞けない自分が
なんとも歯がゆくてもどかしい。

だけど、こんな風に当たり障りなく会話を続けられる事の方が、
今のには貴重な時間だったから、
たとえ幸村の真意を聞けないにしても満足する他はないのだと知る。

は幸村に背を向けて、書棚のファイル類の背表紙を見ている振りをしていた。

あれ程幸村に会いたかったのに、いざ生徒会室で2人きりになると、
何を切り出せばいいのかわからなくなる…。



 「それにしてもさ、真田って、ああ見えて全然しっかりしてないんだよね。」


唐突な幸村の言葉に先ほどの真田の姿が思い起こされ、
緊張していたはほっとする。

 「うんうん、そんなんだよねぇ。
  普段の真田君のイメージとギャップがありすぎるのに、
  あんまり知られてないのはどうしてだろう?」

 「…どうしてだと思う?」

 「さぁ…?
  テニスしてる時の怖いイメージが定着してるからじゃない?」

 「うーん、それもあるかもしれないけど。」

幸村は長めの前髪をいじりながら答える。

 「好きな子以外には、自分の素は見せないからだと思うけど…。」

 「そっかあ。」

は曖昧に返事をした。

真田がの前で素を出してるのはどう意味かわかる?と
幸村は言おうと思ったのだが、
どうやらにはその意図する所が見えてないらしい。


 「そうだよね。
  うん、もう少し肩の力を抜いて普通に喋れば、
  もっともてるかも知れないのに。」

の言葉に幸村は苦笑した。

 「真田は別にもてたいって思ってやしないと思うよ。」

 「そう言えば、本人もそんな風なこと言ってたような気がする。」

 「全く、君っていう人は…。」

 「うん?何?」

 「いや、何でもない。」


幸村はほんの少し安心したかのように見えた。

でもそれが、なぜ安心したかのように見えたのか、
自身にもわからなかったが、
幸村の笑顔がの心まで暖かくするようで、
やはり自分は幸村の事が好きだと自覚する。








 「そろそろ戻ろうか?」



幸村に促されて生徒会室を出たところで、
は前方からとてもきれいな、というより艶っぽい女子生徒が、
わずかに幸村に照れるように手を振りながら近づいてくるのをぼうっと見ていた。




 「やあ、葦名さん。
  来てくれなくてもこっちから行ったのに。」

 「だめだめ。私から頼んだんだから、ね。」


腰まで届くかと思うくらい長い髪と、
まるで源氏物語の中の姫君かと思うような雰囲気に、
はふっと、確か去年の生徒会の…と記憶をたどっていた。


 「紹介するね。
  こちらは去年の生徒会の書記だった葦名さん。」

 「ふふっ。あなたが幸村君の秘蔵の副会長さんね。」


微笑む葦名さんからは心地よい香りが漂ってきていた。

これが媚薬だと言われれば、素直にそうかもしれないと納得してしまうほど、
はこの魅力ある人の顔から視線をはずせないでいた。


 「あっ、私、2年のです。」

 「そんなにかしこまらなくていいのよ。
  私はもう生徒会とは関係ないんだから。
  で、幸村君。
  私の申し出は受け入れてもらえるのかしら?」

 「ああ、俺の方こそ。」



そう言って微笑む幸村は葦名さんの魅力に決して負けていない、
そう直感してしまったはこの場にそぐわない自分が恥ずかしくなっていた。


 「幸村君。私、先に教室に戻るから…。」

 「ああ…。そうだ、。」

 「何?」

 「今年も例年通り合同文化祭があるんだけど、
  今年の会場は立海大になる。
  で、スポンサーである氷帝の生徒会長が下見に来るんだけど…。」

 「氷帝の跡部さんね?」

 「彼の接待は君にやってもらう事になるけど、
  その時は必ず真田と一緒にやってもらいたいんだ。
  いいね?」

いつになく、真剣な幸村には思わず頷いた。

 「じゃあ、日程が決まったら真田にも話しておくから。」


そう言うと幸村は葦名と二人で生徒会室へと戻って行った。







     ********








 「本当に彼女が大事みたいね?
  私の直感が正しければ…。」


葦名は生徒会室の書棚から、
合同文化祭の資料を取り出すと幸村に渡した。


 「これが去年の資料ね。
  あと、跡部景吾に関するマル秘はこっちね。」


シークレットと書かれたファイルをじっと見つめながら
幸村の顔は冴えなかった。

 「ああ、助かるよ。
  なにせ跡部財団のご機嫌を損なうわけにはいかないからね。」

 「大丈夫。私がうまくやるから。
  っていうより、私が跡部の事を好きなんだから、
  あなたを利用してるのは私の方。」

 「でも、まさかこんな事がまかり通るなんて…。」

 「まあね。でも、喜んでる子もいるのよ。
  だけど、彼女にはさせたくないんでしょう?」

葦名が柔らかく微笑んだ。

 「…ああ。」

 「じゃあ、あなたが表舞台に立てばいいだけじゃない?
  なんでそうしないの?」


葦名の言葉に幸村は黙ったまま答えなかった。










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☆あとがき☆
 すっごく間が開いちゃって
私自身もどういう方向性でいこうとしていたか
すっかり忘れていました。(笑)
 別のところでベー様はかっこよくしてるので、
こちらでは悪役にしたてようかと思っています。
あしからず。
2006.3.18.