見えない記念日  Vol.1

        〜The memorial day which can't be seen 〜








偶然って、後から考えればそれは必然だったんだよって誰かが言った。

去年のあの日…。

あの日はにとって、偶然が重なったような日だったのに。
でも、あの日があったからこそ、今日のこの日があるのだから…。

そう今日は私のとっておきの記念日。





         




1年前の今日。

  2004年2月28日(土)






学年末テストも終わってほっとしたのか、
2学年では風邪が流行ってるらしく、
この日の委員会でも2学年だけは半数以上のクラス委員が欠席していた。

ただでさえ、の所属している美化委員会は男子が多いと言うのに、
なぜか年度末最後の集まりに、2学年の女子はだけだった。

それも1学年12クラスもあるというのに、
なんで今日に限って5クラスしか出席していないのか…。

は改めて出席しているメンバーの顔を見た。

3人は1年の時に同じクラスだったから顔見知りだけど、
一人だけ、名前や顔は知っていても未だ話したことのない人物がいた。


   不二周助。


本当に綺麗な顔立ちをしている、とは彼の横顔を見ながら思った。

テニスがすごく上手いらしいが、
外部受験だったは中学での彼の活躍は全く知らなかったし、
クラスも校舎の端と端だったから、
噂以外ではほとんど不二の事は知らなかった。

試合で負けた事がないって、が言ってたっけ。

委員会が一緒でも、不二は前半ほとんど部活優先で、
顔を出す事があまりなかった。





そうこうするうちに、美化委員会は、
各学年ごとに分担された区域の掃除用具や備品チェックをしたのち、
報告書をまとめて提出、それで解散…という事になった。


 「〜、悪いけどこれから部活なんだわ。
  先輩に遅くなるとは言ってあるんだけど、
  これ以上は無理。
  すまんけど、頼むわ!
  欠席してるクラスの備品チェックリストはもらってきてるから、
  報告書、作ってくれるか?」

11組の進藤君が両手を合わせてを拝む。

彼はたしかサッカー部の次期部長。
どうやら美化委員会の最後の会で備品チェックがあるという事を
事前に先輩にでも聞いていたのだろう、
どこか抜け目ない爽やか系笑顔には苦笑した。

 「仕方ないなあ。
  えっと、3組や5組の分もあるの?」

 「ああ、さん、俺が持ってる。
  それと6組も頼むわ。
  備品チェックは昼休みにしておいたからこれで大丈夫だ。
  俺も抜けさせてもらうけど、
  さんだったら任せて大丈夫だよね?」

 「ええ〜、6組も抜けるの?
  えっと、私が12組だし、あとは…。」

ああ、俺も、俺も、と後の2人もに懇願する。
は呆れてため息をつくしかなかった。

 「仕方ないなあ。今度だけだよ?」

そう言ってはみたものの、これが最後の委員会だった、
は心の中で突っ込む。

まあ、帰って行く彼らはそんなの性格は百も承知だったので、
はやっぱりいい奴だ。」なんてうそぶきながら教室を後にする…。



 「はい。これ、1組と2組の分。
  1組は僕が責任もって調べておいたから。」

その優しそうな声の持ち主には驚いて顔を上げた。

 「不二君?」

いつの間にか残っているのはと不二だけになっていた。


の机の上には結局チェックリストの用紙が山になっており、
お人よしのはみんなに報告書を押し付けられる形になっていた。

 「え〜と、不二君も部活、あるんでしょ?
  まとめるのって私好きだから、やっておくよ?」

は椅子を寄せての隣に座ろうとしている不二を不思議そうに見上げながらそう言った。

 「ああ、僕は平気。
  普段真面目に練習してるからね。
  それより、これ、早くやってしまわない?」

にっこり微笑む不二に、
なぜか初めて話す感じがしなくて、はうんと頷く。




は不二の気立ての良さに、
これじゃあ人気者になるのは仕方ないなあと実感する。

てきぱきと備品の数を読み上げる不二は、
報告書に書き込むの速度を思い計りながら指示をする。

なんだかずっと一緒に美化委員をやっていたような錯覚…。

物腰は柔らかで落ち着いた感じなのに、
でも頭は切れるっていう感じで、
クラスの男の子たちとは全然違う…。

天は二物を与えないって言うけど、
不二君に限ってはそうではないみたい、とは思っていた。




 「それにしても、さんって頼まれやすいタイプ?」

しばらくして、不二がクスッと思い出したように笑う。

 「う〜、どうかな。
  友達に言わせると断れないタイプらしいけど。」

 「断れない?」

 「うん。頼まれると嫌って言えないタイプ。
  あ、でもね、自分にできない事はちゃんとできないって言うんだよ?」

 「でも、結局引き受けちゃったりして?」

 「ま、まあ、そういう時もあるかなぁ。」

は出来上がった報告書にもう一度目を通すと、うん、これでよし、
と呟いた。

そんなを見つめる不二は愛しいものを見つけたような優しい眼差しだった。



 「ねえ、さん。
  もしよかったら…。」


不二の言葉をかき消すように、
突然教室に菊丸が飛び込んできた。

 「ふっじ〜!!まっだかにゃ〜?」

は不二の言葉を耳にする前に、
目の前に現れた赤毛の男の子に目を奪われてしまった。

 「あっれ〜、俺お邪魔虫だった?」

 「英二、どうしたの?」

 「だって、不二が遅いからさ、迎えに来たにゃ。」


背の大きい割りに身軽に机を飛び越したかと思うと、
あっという間にの背後に戻ってきて、報告書を覗き込む。
はびっくりしたまま不二を見つめる。

 「英二。さんが怯えてるよ?」

 「えっ〜、ひどいにゃ。
  あっ。俺、菊丸英二!
  不二とおんなじテニス部レギュラーだよん。」

菊丸はに向かってニッと笑った。

 「ふ、不二君、用があるならもういいよ?
  後は私がこれを出してくるから。」

は机の上のものを片付け始めた。

 「ほら、この子もこう言ってくれてるし、
  終わったんなら行こうよ!!ふっじ〜。
  俺、待ちくたびれちゃったんだよね。
  明日は不二の誕生日だろ?
  今日は前祝にみんなでタカさんちに寄って行こうって事になったんだ。
  みんな部室前で待ってるからさ。」

 「英二ったら、君の誕生日みたいだよ?
  なんだか一番行きたそうだね。」

 「へへっ。」

そんなやり取りを聞きながら、
はぼんやりと考えていた。



 (明日、不二君の誕生日なんだ…。)



は初めて見る菊丸を羨ましいと思った。

今日不二と一緒に過ごした時間は短かったけど、
今年度の美化委員会もこれでおしまい。

と不二の接点は、このまま線になる事もなく終わってしまうのだろう。

不二の誕生日が明日だと知ることになっても、
自分は一緒にお祝いできる立場でもないことに、
今更のように気づき、なんとなく落ち込むのだった。


 「…さん、ごめんね。」

 「ううん、職員室に提出するだけだし。
  あの、不二君、今日は手伝ってくれて本当にありがとう。」

 「僕こそ…。
  じゃあ、またね。」



は菊丸と連れ立って歩く不二の後姿が
廊下の角を曲がって見えなくなるまで見送っていた。




 (そっかあ、2月29日が不二君の誕生日なんだ。
  ということは、
  来年は29日、ないんだよね…。
  来年の今頃は、私、何をしてるかな?)



何気なく考えた事が、その後のの気持ちを大きく変えることになるとは、
自身でさえ、この時は全く予想もしていなかった。








 ******************








それからあっという間に春休みが過ぎて、
は3年生になった。



 「〜!!。」

の首に抱きついてきたのは親友のだった。

 「ねえ、ねえ、3年6組に誰がいると思う?」

 「さあ?」

 「テニス部のアイドル、不二と菊丸のコンビがいるのよ。
  ラッキーだと思わない?」

は思わず最後の美化委員会の日を思い出していた。


 (不二君と同じクラス…。
  いいな、は。
  卒業まで不二君のこと、見ていられるんだ…。)


あの日以来、不二の事が頭から離れなかったにとって、
3年のクラス替えはとても楽しみにしていたのだ。

それなのに自分はとも離れてしまい、
頼みの綱だった不二と同じクラスになると言う儚い夢も消えてしまった。

それは彼女になりたいとか、好きになってもらいたい、という事ではなくて、
クラスメートなら、不二の誕生日にお祝いの言葉を言ってもきっと不自然ではない、
というささやかな思いからだった。

今年お祝いできなかった分、来年は菊丸君のように、
クラスメートとしてお祝いしたかったのに…。

ただそれだけでも望んではいけない事なのだろうか?











それから数日後。

は3年1組の教室前で両腕に提出ノートの山を持ったまま立っていた。

と、不意にの後ろから声がした。


 「また何か頼まれごと?」


が振り返るとそこには不二が立っていた。

 「重そうだけど、手伝おうか?」

は思わず首を振る。

 「私、1組のクラス委員だから。」

そう答える所へ、やはり同じようにノートの山を抱えた手塚が教室内から出てきた。

 「、待たせたな。
  …不二?」

 「やあ、手塚。
  君もクラス委員だったの?」

 「ああ。何か用だったのか?」

 「いや。
  じゃあ、またね、さん。」

 「ふ、不二君?」

は呆然と不二の後姿を見送った。

 「不二はに用があったのか?」

 「ううん。そうじゃないと思う…けど。」

にも不二の意図は全くもってわからなかった。

でも、クラスが違っても、こうやって声をかけてもらえたことが
にはすごく嬉しかった。



なぜかは教室外で不二と出くわす事が多かった。

職員室にプリントを取りに行った後とか、
社会科準備室に資料を取りに行った後とか、
そしてどういうわけか決まって不二にこうからかわれるのであった。


 「また引き受けてる。」

 「君って、先生からも頼まれやすいんだね。」

 「今日は誰に頼まれたの?」



そんな風に笑って呼び止められるので、
いつの間にかも不二と短い時間だけど、
言葉を交わす間柄になっていた。







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☆あとがき☆
 1年前の私は現在の私が、
本当に不二君にこれ程惚れこんでいるとは思いもしてませんでした。
それ故、今年の誕生日は本気でお祝いしようと思ってました。
で、立ち上げたBDドリ、長編になりそうな題材にしてしまい、
早くも脱線気味です。(笑)
見えない誕生日、29日までに完成すればいいのですが・・・。
どうかこの企画にお付き合いくださる方は、
想像力で文脈の意図するところまでをお読み下さい。(苦笑)
                  管理人:木之本桜

2005.2.23.