好きの気持ち    1







あの日から、…バレンタインに不二に告白されてから
どうしてこんな風になってしまったのか、自分でもわからない。


気づけば当たり前のように自分の隣には不二がいて、
にとっては不二はクラスメイトなのだから
今まで通り不二から話しかけられればそれに答えてる、というだけなのに、
なぜか不二は凄く嬉しそうだし、周りは周りで好奇の目での事を覗うのだけど
どうやら不二の言葉は覆りそうもなくそこかしこに諦めモードが漂う。


いつのまにか友達からも不二の彼女的扱いをされ、
それがいいのか悪いのかも分からなくて返事に戸惑うのだけど、
僕が勝手に告白しただけだから気にしないで、と不二に言われれば、
まあいいかと思ってしまった。


その曖昧さが負担になってくるなんて、その時は少しも思わなかった…。











 「ねえ、不二君。
  いくらなんでもそれは今日は暑苦しいと思うけど。」


登校する道すがら、今日もいつの間にかに追いついて来て肩を並べて歩く不二に、
はやんわりと非難した。

今年の冬は一度も雪が降らず、このまま春を迎えてしまうだろうというくらいの暖かさ。

それなのに不二は恥ずかしげもなく、が編んだオフホワイトのマフラーを首に巻いている。


 「いい加減、それ、はずしたら?
  なんだか私が強制的にさせてるみたいで嫌なんだけど?」

 「あはは。そんな風に見る人はいないと思うけど。
  さんがそう言うなら、はずしてくれる?」

そう言って不二がの前に立ちはだかるものだから、
はしぶしぶ不二の首に掛けてあるマフラーをはずそうと両手を伸ばす。


 「朝から熱いね、お二人さん!?」


後ろから急に菊丸が声をかけるものだから
は思わず固まったまま、自分の姿を冷静に想像してみる。

いくらなんでもこれでは不二に抱きついてるようにしか見えないかも。



 「違うったら!!」


振り返って菊丸を見れば、にゃはっと笑うその笑顔には他意はない。



 「いいじゃん、いいじゃん。
  そうだ、不二。
  今年の誕生日はどうすんの?」

 「どうって?」


肩に担ぐように鞄を持った菊丸はの方を向いてまたニカッと笑うから
はぷいと横を向く。


 「う〜、だからさ、またバレンタインの時みたく、
  さん以外からは受け取らないのかなってさ。」


未だに横を向いたままのに気がついて
不二はほんの少し口元から笑みがこぼれるのを堪えた。


 「誕生日プレゼントはさ、受け取るよ。」


不二がそう答えるとの肩がぴくっと反応したので、
不二は楽しくて仕方なかったが
それでもなんでもない事のように続けた。

 「あ、もちろん、さんが嫌だって言うんなら受け取らないけどね。」

 「へ〜、そっかぁ、そうだよねん。
  やっぱ、彼女の言い分を聞かなきゃね。」

 「ちょ、ちょっと、何言ってるの?
  私がいつそんな事言いました?」

菊丸のからかうような相槌に、今までだんまりを決め込んでた
ムキになって二人の会話に割って入ってきた。

 「不二君の誕生日なんだから不二君が決めればいいでしょ?
  なんで私が不二君がお祝いされてるのを邪魔したりするの?
  みんなは不二君にあげたいんだから、不二君はもらえばいいでしょ。
  大体今までさんざんもらってきてたんだから
  私のせいで受け取ってもらえない、なんて恨まれるのは適わないわ。」

一気にまくし立ててしまったけど、目の前の不二は相変らずその笑顔が崩れない。

 「な、何よ?」

 「ううん、さん、今日も可愛いなって。」

 「うっ/////、なんでそうなるのよ?」

 「好きだから、かな。」

 「な、そ、そういう事、朝から言わないでよ。
  私、不二君の事、好きでもなんでもないんだからね!」


耳まで赤くしたかと思うと、はそのまま菊丸たちを残して昇降口へと走って行ってしまった。




 「不二もさ、からかうの好きだね。」

 「英二が先に振ってきたんじゃない。」

 「だってさ、バレンタインにチョコ渡せなかった子たちが
  誕生日はどうなんだろうって、俺に聞いて来るんだもん。
  こっちの身にもなってほしいにゃ。」

菊丸がため息つくのはあながちウソでもないだろう。

 「それにしても好きでもなんでもないってさ。
  どうすんの、不二?
  さんからはプレゼント、もらえそうにないよ、あの分じゃ。」

 「まあね。」


それでもこうして毎日と過ごす何気ない時間が、
もうすでに不二にとってはプレゼントみたいなものなのにな、
と心の中で思うのだけど、それは菊丸に言うのはやめておこうと不二は思い直す。










         ********








 「…で?
  いつまでここにいるつもり、。」



親友のが迷惑そうにしてるのはわかるけど、
といって他に行く当てもないは借りてきた猫のように
肩身の狭い思いをしてでものクラスにいるしかなかった。

の傍らには手塚が文庫本を片手に悠然と座っている。

この二人、とても付き合ってるようには見えなくて、
それもバレンタインの告白が実を結んだというのがには未だに信じられない。

が手塚の事を好きで何かにつけに相談してきていたから
二人が並んでる光景はある意味不思議ではないのだけど、
あの恐ろしく無表情な手塚がの告白に応えたというのがどうも腑に落ちない。


  手塚君はのこと、どのくらい好きで一緒に居るんだろう?


余計なお世話とに怒られそうだったけど、
でも、不二に告白されて戸惑ってる自分は
手塚と同じ立場なのではないか、と思ったりしていたから
ついつい手塚の顔をちらちら見てしまう。



 「要するに、不二君がみんなにプレゼントをもらってる光景を見るのが嫌なんでしょ?」


畳み掛けるようにが言うものの、はそうではないと首を横に振る。


 「そういう訳じゃないのよ。
  だってこの3年間、ずっとそばで見てきたんだもの、
  とっくに見慣れてるわ。」

 「よく言うわ。
  じゃあなんでうちのクラスに休み時間ごとに来るの?」

 「は冷たいよ。
  いい?
  もう朝からすごい数なんだよ?
  それもみんな同じ台詞、不二君も同じ事ばっかり繰り返してて
  うんざりなのよ。」



そう、朝から続く光景は微笑ましいを通り越して拷問だとは思う。



   不二君、おめでとう

   ありがとう

   不二先輩、おめでとうございます

   うん、ありがとう

   おめでとう

   ありがとう

   ……


一体何人の人にお祝いされたら不二は満足するのだろうと思うくらい、
飽きもせず不二はニッコリ笑いながらプレゼントを受け取る。


 「それってさ、が気にしてるって事だよ?」

 「気になるわよ。煩いんだもの。」

 「そういう意味じゃなくて!
  はね、とっくに不二君の事が好きなのよ。」

 「な、なんでそうなるのよ?」

 「じゃあ、嫌いなの?」




そう聞かれればうんとは言えない自分がいる。

大体不二の事が嫌いであれば、こんなに悩まないでいると思う。

かと言って、好きという気持ちがわからないから、
どうも不二の側に居るのは、不二に対して悪いような気にもなる。


 「嫌いじゃないけど、好きでもないと…思う…。」


の答えには呆れ、あの手塚までまじまじとの顔を見てきた。


 「それ、マジで言ってる?」

 「だって考えても考えてもわからないんだもの。」

 「呆れた!
  に付き合ってたらトイレに行く時間もなくなる。
  私、ちょっと行って来るね。」

は手塚の腕にそっと触ると、そのまま教室を出て行ってしまった。







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