好きの気持ち    2








が出て行ってしまうと、手塚と二人で居るのはなんとも居心地が悪い。

そう言えば、手塚と面と向かってしゃべるのは、
のバレンタインのために手塚を呼び止めたあの日以来だった。




 「あのさ、手塚君…。」

 「なんだ?」

 「聞いてもいい?」

 「ああ。」

 「の事、どのくらい好き?」

 「どのくらい?」

手塚の眉間に皺が寄るのを見ては慌てて付け足した。

 「愚問だよね…。」

 「愚問というか、好きという気持ちを量る単位は何なのだ?」

 「単位?」

 「そうだ。単位がないなら答えるのは無理だろう?
  言ったところでの参考になるとは思えないが…。」

 「…そうだよね。
  だけど、みんな、どのくらい好きっていう気持ちがあれば付き合うのかな。」


がそう言うと、手塚は文庫本を机の上に静かに置いた。


 「。手を出してみろ。」


突然の手塚の言葉には訝しく思いながらも
おずおずと右手を机の上に差し出した。

すると、手塚はの手を包み込むように上から握り締めてきた。


 「手塚…君?」

 「嫌だったら跳ね除けていいんだぞ?」

ひんやりとした感触だけがの手に広がる。

 「はぁ…。そこまでは思わないけど、意味不明なんですけど?」

 「俺は、悪いがの手を握ったとしても別に何の感情も湧かない。
  触れたくもない程嫌ではないが、敢えて触れたいとは思わない。
  お前はどうだ?」

 「うーん、気持ち悪いとは思わないけど、
  の彼氏だと思うからこれはどんな意味があるのかとちょっと考える。」


手塚はそっと手をはずし眼鏡を指で押し上げる振りをしたが、
その目は笑ってるように思えた。


 「は頭で考えすぎるんだと思うぞ。
  不二の手に触れてみるんだな。
  そうすればはっきりすると思うが…。」


がキョトンとしてる間にが戻ってきた。

すると手塚が当たり前のように隣に座るの手を握り締めたものだから
は、人前でこんな事するなんて珍しい、と言って笑っていた。


二人の重なり合う手はとても優しく見えた。








        ********






 「さん、一緒に帰ろうか?」




廊下にはまだまだ不二の誕生日プレゼントを持った女の子たちが不二が出てくるのを待っているようだった。


 「不二君、まだ用があるんじゃないの?」

 「大丈夫。後は英二が何とかしてくれるから。」

 「何とかって…。」

 「僕宛のプレゼントは英二が後でまとめてうちまで持って来てくれるから。
  さんは心配しないで?」

 「あっ、そ、そうなんだ。
  別に心配してる訳じゃないけど…。」

 「あれ、そうだった?」


クスッと笑われて、不二の柔らかな笑みにほっとする。

プレゼントをもらってありがとうを連呼していた時の不二の笑みは
どこか不自然な気がして嫌だったけど、
こうして不二は明らかにみんなとは違う笑みを向けていてくれるんだと気づくと
なんだか妙に嬉しくなる気持ちになる。



 「あのね、不二君。」

 「何?」

 「ちょっと手を見せてくれる?」


机越しにがそう言うと、不二は黙ってに右手を開いて見せた。


 「手相でも見るの?」


ほっそりとした指をしてるものの、不二の手は大きくて
その手に自分の手を重ねてみるには勇気がいる。

なんだろう、簡単な事なのに動けない。

触れてみればわかるといった手塚の言葉を確かめたいのに
なぜか緊張してくるこの昂ぶりはなんなのだろう。

触りたくない訳ではなくて、嫌じゃなくて、
むしろ不二の手の感触を知りたいと思う気持ちの方が強くて、
それなのに触れたいと思う気持ちが恥ずかしくて動けない。

不二の手をじっと見つめたままのに苦笑すると、
不二はその手を引っ込めてすっと立ち上がった。


 「あっ、不二君、待って。」


名残惜しそうにが言うと、不二は今度は立ったままに手を差し出した。


 「僕はいつでも待ってるよ。」


も鞄を持って立ち上がると、自然に二人の手が重なって、
不二がしっかり握ってくるからもぎゅっと握り締めた。

熱いものが流れ込んできて、頭の先まで熱くなる。

ドキドキと心拍数まで上がってしまって
は自分がどうにかなってしまったんだろうかと眩暈がするようだった。




 「不二〜、帰るの?」

 「ああ、英二、頼んだよ。」

 「後でおごれよな!」


菊丸は廊下に飛び出すと大きな袋の口を精一杯広げた。


 「ほいほーいっと。不二へのプレゼント、只今受付中〜!!
  俺が責任持って不二に渡すから、渡したい奴はみんなここへ入れてねん!」


ええ〜っ、という非難めいたどよめきを後ろに、不二とは連れ立って昇降口へと向かった。













 「…さん。」

 「な、何?」

 「手を離さないと靴が履けないんだけど?」


靴箱の前で不二に言われるまで気づかなかった。

真っ赤になったまま手を離すと、不二はクスクス笑いながら上履きをしまった。



 「そんなに笑わなくても…。」

 「いや、そんなに手を繋ぎたかったなんて知らなかったから。」

 「ち、違うったら///」

 「でも、嫌じゃなかったんでしょ?」

 「う…ん。」

 「好きになった?」

 「…////////。」



靴を履き替えるとまた不二が手を差し出してきたから、
は迷うことなくその手をとった。

好きと思う気持ちは頭で考えるんじゃなくて
お互いの存在を肌で感じることなんだと思った。


 
 「あのね。」

 「うん。」

 「好きっていう気持ちに単位はないって手塚君が言ってた。」

 「へぇ〜、あの手塚がそんな事を言ったの?」

 「でも、私の好きは、今日プレゼントを持ってきた子たちより
  絶対小さいと思う。
  それでも不二君はいいの?」

 「じゃあ、僕からもアドバイス。
  好きっていう気持ちに大きいも小さいもないよ。
  さんの好きっていう気持ちが
  真っ直ぐ僕に届くかどうかだけだよ。」

 「じゃ、じゃあ、届いた?」

 「うーん、まだまだ。」

 「えっ!?」



校門へと続く並木道の木陰にを引き寄せると、
不二はを両の手でしっかりと抱きしめてきた。

  



 「大好きだよ。
  他の誰よりもずっとずっと好きだよ。」

 「ふ、不二君////」





好きって言う気持ちに大きさはないって言うけど、
不二の好きは絶対人並み以上だと
は暖かな不二の体温に包まれたままぼんやりと考えていた。














THE  END


BACK





☆あとがき☆
 2007年版不二BD、間に合った〜。(笑)
でもこんな初々しくてどうなんでしょう?
ありえなーい…なんて!?
それより、不二君のBDという事で会社のシフトを変更する私は
全く持って尋常じゃないよ!(苦笑)
ああ、でも今年もこれで肩の荷がおりますわ。
って、本文ではちゃんと言ってなかったなあ〜。

  不二君、お誕生日、おめでとうvv

2007.2.28.