冬の朝
私は寒いのが苦手
朝起きるのなんて冬になればなるほど起きれなくなる
テレビで今年一番の寒さ、と連呼されれば
そのたびに私の身は縮まり、ますます外に出たくなくなる
だから冬になると途端に遅刻常習犯となる
でも今年は違った
部活を引退した私の彼氏は
毎日決まった時刻に私を迎えに来る
それも支度してない私がなかなか出て来ないと分かっていても
決して玄関の中で待つ事をせず
文庫本片手に家の軒先で私を待っている
どんなに寒くても家の外で待たれると
さすがの私も彼に悪いな、って思うから
ぎりぎりまで布団の中にいても
彼の来る時間までには身支度を整えるようになった
「おはよ。」
「おはよう。」
寒さのせいで吐く息が白く長くほとばしる
学校指定のマフラーを巻き、長めのコート姿の彼は
けれど背筋がピンと伸びていてまるで寒さを感じさせない
「今日も寒いね。」
「ああ、今年一番の冷え込みだそうだ。」
「昨日もそう言ってたよ?」
「昨日よりも冷え込んだのだろう?」
「明日も明後日も冷え込んだらどんどん凍っちゃうよ。」
私がため息つけば彼は軽く笑ったようだ
柳の笑顔なんてたまにしか見られないから
私は思わず柳の正面に立った
「ねえ、柳は寒くないの?」
「寒そうに見えるか?」
「そう見えないから聞いてるんじゃない?」
余裕ぶった顔を見上げれば今度は苦笑いをしている
その変化はとても分かりにくいけど
それでも最近何となくではあるけど
柳のいろんな表情に気付けて楽しい
「寒いが寒くない振りをしている。」
柳がいつも通り真面目な声で言うから
まさかそんな答えが返って来るとは思わなくて
「えっ?じゃあやっぱり寒いの?」
畳み掛けたら呆れたようにその目が大きくなった
「冬だからな。」
今度こそ可笑しくって私は笑い声を上げてしまった
「何、それ。やせ我慢してるんだぁ。」
「やせ我慢とは心外だな。」
「だって、だってぇ。」
「俺だって男だ。
寒くとも彼女の前でかっこ悪い事はしたくないと思ってるだけだ。」
思わぬ本音にちょっと驚いて柳の顔をまじまじと見つめれば
柳の細い指が私の頬に伸ばされて来た
冷たいその指先に
そう言えば、柳って手袋していなかったっけ、と思い起こす
クリスマスには手袋贈ってあげようかな、
なんてぼんやり思ったら
「そうだな、これからは寒い時は寒いと言うとしよう。」
柳の笑顔が近づいて来て
「そうすればが暖めてくれるのだろう?」
不意打ちのキスがとてつもなく熱くて
こんなに体中が熱くなるなら毎日して欲しいな、と思ってしまった