手塚ゾーン





以前たまたま手塚君の試合を見ていたら
あれが「手塚ゾーン」っていう技だよって大石君が教えてくれた

テニスの試合なんて見たことがなかったから
手塚君の流れるようなきれいなフォームしか目に入らなくて
いろんな技を教えてもらっても
それがどれを言ってるのか全然理解できなかった

けれど「手塚ゾーン」って言う技は
相手がどんな球を繰り出したところで
必ず手塚君の方へ戻って来るように
あらかじめ手塚君がそうなるような回転を掛けてあるらしい



どんな球でも必ず戻ってくる

手塚君はただそれを待ち構えてるだけ

彼の足元には自分のフォームが崩れてないことを証明している跡がくっきりと
ひとつだけ描かれている





手塚君はあの時と同じ目をしている

私の口元が動く前に
あの技はもう仕掛けられていたに違いない

私の目の前には手塚君へとまっすぐに伸びる一本の白い道しか見えなかった


でも・・・、とか、だって・・・、とか
私なんて・・・、とか

いろんな否定的な言葉を私は持っていたはずなのに
それを投げかける前にもう
手塚君は私がYESしか言えないようにしていたような気がした




心配するな




手塚君は事も無げに言う





手塚君は手塚ゾーンでたくさんの女の子たちを惹きつけてる

たくさんのプレゼントの山を見ながらそう言ったら


俺はお前しか引き寄せてはいない


そんな風に耳元で囁かれた




手塚君って、手塚君って
真面目な顔してるのに二人の時はすごく恥ずかしい事も平気で言う


試合ではポーカーフェイスな手塚君が
それでもそういう言葉を紡ぐ時
私にだけは優しい顔を見せてくれるから

私はいつまでも手塚ゾーンの中にいるんだろうな、と思う


だって・・・

私には手塚ゾーンを打ち破るなんて事は一生かかっても無理だから














☆あとがき☆

手塚部長、誕生日おめでとう