風紀委員長






怖い

凄く怖い

怖すぎる

適任だと思うけどだからって
朝早くから正門前で仁王立ちの真田なんて心臓に悪い

目深に被る黒い帽子

背すじはピンと伸ばされ
風紀委員会の腕章をつけてる腕で腕組みされ
あれで怒ってないと言うなら
せめてにこやかにおはようぐらい挨拶してほしい

まあ、無理だと思うけど・・・

けど、
他の風紀委員とは対照的に
黙ったまま睨みつけられてる前を通るのは
とてもじゃないけど登校拒否を起こしかねない

今日で1週間

やっと開放される最後の日だけど
それでもこの1週間、あの視線に慣れる事なんてできなかった

最後だと思うのに
最後だからか今日の視線はいつもより倍くらい強い気がする


みんなは・・・?

みんなはあれが怖くないんだろうか?


スカート丈だって私より短い子はたくさんいる

名札だって忘れた事なんてない

肩にかかる髪はきちんとゴムで括っている

なのになぜいつも私は真田に睨まれなきゃいけないんだろう

もう怖すぎて門の中に入れない

いっそ遅刻しようか?

だめだ、後で呼び出しでもあるんじゃないかと思うだけで
その恐怖に耐え切れなくて泣きそうになる


大きく息を吸い込んで
真一文字に唇を噛み締めて
緊張したまま俯き加減で門に入る

歩くスピードは普段の2倍くらい

真田の視線を感じて冷や汗が出る

ああ、何でそんなに睨むのよ

今日でお終い、今だけ我慢

そう心に念じて真田の前を通り過ぎた




無事に通り過ぎたと思ったのに
ザクザクと迫り来る足音に新たな恐怖が襲い来る

気のせいだよね、と自分に言い聞かせようと思った時
身の毛もよだつ野太い声に思わず身が竦んだ

 「おい。」

もう完全に体は硬直して前に進まないというのに
腕を掴まれて私の体はおもちゃの如く真田の方へ引き寄せられる

頬の引き攣りが自分でも分かってなんだかピリピリと痛んだ

むっとした真田の顔なんて見たくなかったけど
挨拶もしないで通り過ぎた事が気に食わなかったのだろうかと
恐る恐る真田を見上げてみたけど
真田の眉間に深い皺がくっきりと浮かぶのが見えて
ますます私の身は竦む

 「は、はい?」

 「何か俺に言う事はないのか?」


言いたい事?

そんなのあるはずがない

あるとすれば真田に私の事、睨まないでって言う事位かな?


 「この1週間で分かったはずだ!」

な、何が?

全然わかんないんですけど、
この1週間、真田の事が怖かったと
それをそのまま口に出していいものかどうかもの凄く悩む

 「気づかない訳ではあるまい。
  さあ、どうなのだ?
  ちゃんと答えを聞かせてもらおう。」

こ、答えって何ですか?

その答えが間違っていたらどうなるんだろう?

って、私、いつ真田に問題を出されてたの?


 「あ、あの、私、よくわかんないんだけど?」

控えめにそう返答してみたら
真田は一瞬目を瞬かせるとふむと考え込んでしまった

 「分かりにくかったのか?」

何をどう分かれと言うのかが全く分からないのだけど
とりあえず曖昧に頷いて見せた

 「そうか・・・。
  立場上そうあからさまにもできぬと思っていたのだが。」


あの眼力による威圧感のどこがさり気なくなんだろう?

突き刺さる視線は風紀委員長という立場上のものでないとしたら
私が睨まれる理由が他には思いつかない

 「この1週間、思いを込めて見続ければ
  必ずや思いは報われると聞いたのでな、
  毎朝正門で会えるこの機会を利用したのだが。」

そう言って少し照れてるような真田の表情に
私は正直唖然とした

だってこんな優しい顔を初めて見たから
あの怖すぎる顔とギャップがありすぎて
私の目が勝手に釘付けになる

あり得ない事に私の緊張のセンサーは
別の警報を発し出していて
ドキドキし出したこの緊張の理由を
これ以上問い詰めたくない気がしていた

 「そ、それ、誰に聞いたの?
  多分、間違ってると思う。」

 「そ、そうなのか?」

私が真っ直ぐに真田を見つめてるせいで
真田の顔が赤くなっているのが分かって
こっちまで恥ずかしくなってきた

要するに・・・そういう事なんだ


 「どっちにしても。」

私はドキドキする胸に手を当てて
深呼吸をしてから真田に言った

 「真田君、自分から言わないで
  ただ見つめるだけで答えを私に求めるのって違うと思う。
  私、風紀委員長に目を付けられてるのかと思って
  怖かったもの。」

 「!?」

あのどっしりと構えてる真田がショックを受けて
がっくり肩を落とした姿に私は思わず笑ってしまった

なんだかあんなに怖かったのに
もう全然怖くない

それよりむしろ可愛い・・・?


真田の後ろから他の風紀委員たちが真田を呼んでる声が聞こえ、
真田はぐっと目深に帽子を被りなおすと
びっくりする位深々と頭を下げてきた


 「。」

 「はい。」

 「もう一度俺にチャンスをくれないか?」


その潔さに私は鞄を持ち直すと大きく頷き返した


立ち去る真田の大きな背中を見送りながら
これから始まる真田のリベンジを楽しみにしてる自分がいた







THE END

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★あとがき★
 真田の誕生月でしたね
バカ正直そうな真田が大好きです(笑)
でも睨まれたら怖いって!!
2009.5.28.