後夜祭







文化祭の終わりを告げる放送がこだまして
あちこちらで歓声ともため息とも取れる声が響き渡った

ざわざわとする中で名残惜しむように、もったいつけて売れ残りの品を友達に押し付けたり・・・
反対にやけくそになって早々に掲示物を滅茶苦茶に破り捨てたり・・・
プロ並みに作った衣装がもったいなくて
誰彼かまわず引き止めては写真を取り合ったり・・・

冷めやらぬ興奮と共にこれから始まる後夜祭に
未だ相手を見つけられないでいる後輩たちが
その手際の悪さに焦りを隠そうともしない

文化祭は始まった時にはもう勝負は終わってるのが現実


文化祭の準備の合間に下級生に声を掛け
売り子の合間に他校生をナンパし
それでもだめなら同級生を拝み倒す


そんな言葉がまかり通り
なかば文化祭の伝統になりつつあるのははなはだ迷惑極まりない



「それで・・・?」


文化祭実行委員としてはまだまだ足を止める訳にはいかない

他人の恋愛を助ける気は毛頭ないのだけど
後夜祭を盛り上げるのも仕事なら
みんなが浮かれてる合間にも片づけを始めなければならないのもまた仕事

開催中に集めたアンケートを回収し回ってる私の前に
突然現れたクラスメイトは
どうやらナンパに失敗したらしい


「だからな、後夜祭、俺と踊ってくれへん?」


長めの髪を後ろで束ねてる姿は微笑ましいけど
今まで一度たりともそんな声で頼み事なんてしたことないくせに
無駄にナンパモード全開で余所行きの顔で迫られても本気にできない


同級生を拝み倒すなんてとうとう忍足も焼きが回ったんじゃない?

テニス部の1年の子はどうしたのよ?
青学だか山吹だかの女の子と回ってたんじゃないの?
確か大学部のお姉さん方にも人気あったじゃない?


畳み掛ければ忍足は「なんで、知ってるん?」と顔を綻ばせた


なんでそこで嬉しそうな顔をするのよ、と思ったら
なんだかすごく腹が立ってきた


文化祭実行委員は忙しいの
開催中あちこち動き回ってる身としては見たくないのに視界に入る物も多いのよ

それでなくとも忍足はどこにいても何をしても目立つから


「それってさ、俺のこと、気になってたんとちゃうの?」

ますます笑みを濃くする忍足に眉をひそめて突っぱねた。


その自惚れ感覚、どうにかしたら?
なんで忍足のことを私が気に掛けなければならないのよ?
とうとうその伊達眼鏡にもレンズを入れ替える必要がありそうね
はっきり言って―


「好きになってん!」


嫌いという言葉を忍足は私に言わせなかった


「お前のこと好きや。
お前が俺を見る目がめっちゃ好きなんや!
あんな目ぇされたらもうどうにかせなあかん、思うて。
他の奴とはもう義理でも付合わんから。」


今年の文化祭が最後やったんや、と忍足は苦笑した



「俺のこと好きやろ?」



「・・・さあ?」

「あのな、ここは
私も前からずっと好きだった
で、ええんちゃうの?」


さんざん人の気を揉ませたんだから
素直になんて絶対なってやらない

だけどみんなが後夜祭で盛り上がってる間中
二人だけの教室で抱き合うのもいいかもしれない



「ま、お前が素直じゃない、いうのはわかっとるんやけどな。」


やっぱりここは俺のわがまま突き通させて


そう囁いた忍足の手は私の手を取ると
回収したアンケートが床に散らばるのをものともせず
後夜祭の会場へと走り出した


「後夜祭で踊った相手とは絶対別れへんのやってな?」

「そんな話、聞いたことないけど?」

「俺のジンクス。」




快活に笑う忍足がたまらなく好きだと思った瞬間








あとがき
秋といえば文化祭
こんな風に素敵に誘ってもらえたらどんなにいいだろうな(笑)