はろうぃん的取引





 「先輩、ずるいっすよ!」

 「ずるいのは桃の方でしょ?」

息を切らしながら部室を目指す

あそこに行けば手塚がいる

手塚ならこんなばかげた行事を無効化してくれる

必死で部室のドアを開ければ
ロッカーの前で着替えてる不二の姿が目に入った

 「きゃああああ。」

ほとばしる悲鳴はついうっかり見てしまった不二の上半身に対してだ

 「何、いきなり?」

 「ちょ、ちょっと不二、いいから早く着替えてよ。」

私は慌てて目を隠しながら不二の後方に回り込む

と同時にドアは大きく開け放たれて勢いよく桃城と越前がなだれ込む

 「今度は何?」

 「あああ、先輩、ずるいっす!!
  不二先輩、先輩を渡して下さい!」

 「えっ?」

訝しがる不二の声はごもっともで
でも私は小さな声で不二に頼み込む

 「不二、手塚は?」

 「手塚?手塚ならまだ来てないけど。」

 「じゃあ、不二でいい。
  お願いだから助けてよ。」

そっと目を開ければ不二の背中が見える

どうでもいいけど不二は早くユニフォームを着て欲しい

 「不二先輩、邪魔しないで下さい。
  これは俺たちと先輩の問題。」

 「ちーがーうー!!
  うちではハロウィンなんてしないから。」

 「往生際が悪いっすよ。
  ハロウィンはもう日本では公式行事っす!」

 「そんなの聞いてないし。」

 「いや、だからちゃんと聞いたでしょ?
  お菓子持ってなかったら、くすぐりますよ、って。」

容赦ない後輩の言葉に不二はクスリと笑う

 「要するにはお菓子を持ってなかったんだ?」

 「教室のロッカーには入ってるのよ。
  でもそれじゃだめだって言うんだもん。」

 「そう、じゃあ、僕が代わりにあげるよ。」

不二はそう言うと鞄の中から何やら包みを取り出して
それを桃城の前に突き出す

 「ええ、そういうのなしっす!」

 「別にいいじゃない。
  お菓子がもらえればそれで済む話だと思うけど?」

不二の口調は柔らかいけど
ちぇっ、という越前の舌打ちが聞こえた位だから
きっと二人に対して不二の鋭い眼力が放たれたのかもしれない

二人が部室を出て行く音がして
私はほっとするも、未だ上半身裸の不二に困惑する

それもよりによって何でそのまま振り返るのか

私は思わず顔を背けた

 「ちょっと、不二。
  取り合えず着替えてよ。
  これじゃあお礼も言えない。」

 「着替えの途中で入って来たのはだよ?」

 「いや、うん、そうだけど。」

いつの間にかロッカーを背に
私の行く手を阻むように不二に追い詰められている

何で?

 「僕が君の代わりにお菓子をあげたという事は。」

もの凄く近くに不二がいる

 「桃城たちの悪戯の権利は僕に移ったという事になるね。」

 「えっ?」

次の瞬間不二の肌が私の顔にくっ付いてきた

暖かな感触に体は硬直、息もできない

何で?

 「Trick or treat!」

答えられないでいたら耳元でまたクスリと笑われた

何で、何で?




 「今度は悪戯じゃないからね?」

 「不二?」

 「I love you!」


そっと降りてきた突然のキスは
マシュマロみたいだと回らない頭でそう思った