その前に
海外遠征の多い僕は
少しでも早く僕の恋人に会いたくて
僕に会えたというその一番の笑顔を
もっと驚かせてみたくて
内緒で予定日よりも早く帰国した
着いてみれば僕の方が早く彼女に会いたくて
の仕事が終わるのを待つのはもどかしくて
つい昼休憩の時間を見計らって電話してしまった
「、昼は外に出られる?」
「えっ?周助?
昼って、いつの昼?」
驚く電話の向こうの表情を想像しながら
僕は彼女の声に心が弾んでしまう
「今から、一緒にランチにしよう?」
「周助? えっ? 今、どこ?」
聡い彼女はもう歩きながら電話に応えてるらしい
早く会いたいっていうの気持ちが
見えなくても分かってしまう
玄関口で手を振れば
目を輝かせて走り寄って来る
そんな仕種は学生の頃とちっとも変わらない
「驚いた?」
「そりゃあ、もう!
だって帰って来るのは明日だと思ってたし。」
学生の頃と変わってしまったのは
こんなに日差しが毎日強いのに
の肌は雪のように真っ白な事くらい
マネージャーだった頃は部の中でも一番黒かったのに
それに少し痩せたかも知れない
僕が帰る頃にはまとめて有休を使うせいで
かなり仕事のやりくりで無理をしているのだろうと心配になる
「、少し痩せたみたいだけど?」
「そうかな?
うん、そうかも。
なんたってここ連日猛暑日だからさすがにバテてるかも。」
「無理してない?」
「大丈夫。
じゃあ、ランチはスタミナつけるものにする?」
食欲旺盛なところを見せてるつもりだろうけど
そんなに食べられるのか、実の所信用できないんだけどね
休みに入ったらどこか涼しい高原にを連れて行ってあげよう
コテージを借りてのんびり二人で過ごす方が良さそうだね
そんな風に僕が考えているのを全く無視して
は最近見つけたという韓国料理屋に僕を連れて行く
お洒落な雰囲気に、素敵でしょう?との目が笑っている
そう言えば辛党のと意気投合して
初めて一緒に食べたのが激辛ラーメンだった
全くムードのないカウンター席に
ちっとも嫌な顔しなかった
今だってどんな店だってとなら僕は平気だけど
こんな風に有名人になってしまった僕を気遣って
奥に個室がある店をチョイスする辺り
も大人になったんだなって思ったりする
「こんな素敵な所じゃなくてもいいのに。」
「でも、せっかく周助とランチするなら
二人っきりになれるところがいいし。」
メニューで顔を隠したって照れているのはちゃんと分かる
「それにこの店はとても美味しいから。」
「とても辛いから、の間違いじゃないの?」
「じゃあ、激辛コースにする?」
テーブルに並べられた料理は見事に赤くてスパイシーだ
その挑戦、見事に受けてみせるよ?
でも、その前に・・・
「!」
「何?」
銀の箸を持ったままの彼女に
テーブル越しに僕は熱いキスを送る
久々の柔らかな感触に
我慢できなくて思わず二度三度と繰り返してしまった
「しゅ、周助ったら//////」
「ごめん。
でも、辛いものを食べる前に
ちゃんとを味わっておきたかったから。」
食事する前から頬に赤味の差した彼女を眺めながら
どうやったら早退させられそうか、
早くも奇策を練る僕だった
2010.7.29.