埃にまみれて






新学期が始まってどんなに頭の切り替えをしようと思っても
未だに夏休みの怠惰な生活時間は元には戻らない

小学生の頃なら朝も早くから
やれラジオ体操だの、朝の涼しいうちに宿題やれだの、
極めつけはうちにいるなら手伝いしろだの
ほんと、大人には夏休みっていうものがないから
これはひとつの子供に対する苛めだよと
いちいち干渉してくる親と自分の自由に出来ない長い休みを恨めしく思ったこともあった。

それでもその頃はそれがいい事だと思っていたから
最終的には大人の言い分をきちんとこなしてはいたけど


そんな口うるさかった母親も今はパートに出てるから
長い夏休みのほとんどを
私は自由と言う名のもとに、それこそ優等生だった時間損したとばかりに
毎日毎日不規則な時間の消費を繰り返していた


だから、余計に、この目の前で繰り広げられる
強制的行事の予行練習は苦痛以外の何物でもない


そりゃあ、まだ頭は夏休みボケしてるから
まだ余力のある最後の蝉の小うるさい鳴き声を尻目に授業を受ける気分でもない

だからといって、こんな埃まみれの運動場で
汗だくになってもなんの感動も起きない時間の使い方は
ある意味拷問に近いとさえ思う


それなのに


私の視界の中で彼だけはまるで異世界の人のように
このうだるような地面の上で爽やかに笑みを漏らしてるなんて
ほんとあり得ない




「まだ何分も経ってないのにもうへこたれてるの?」

「私、文科系ですから。」

「ただの体育の授業の延長だよ?」



同じクラスの桃城なんて朝からハイテンションだった

だけど彼ならわかる

体育バカなんだからさ

だけどいくら青学テニス部のハードな練習よりはましかもしれないと思ってみても
天才と言われた先輩が、一生懸命体育祭の練習を本気でやってるのが信じられない

そりゃあ汗まみれになったって不二先輩は不二先輩

そのかっこよさは全然変わらないんだけど
何度も何度も繰り返される、中途半端に位置確認だけの予行なんて
それこそ時間の無駄みたいな気がするのに


「なんだかつまらなさそうだね。」

確かに退屈ではあったけど
なんで2年生の、それも私の横に不二先輩はわざわざ座りに来たのか
その時点でもう退屈なんて言葉は色を失ってしまったけど

日陰なしの埃っぽい運動場で
これ以上ない位の熱を私に向けなくてもいいじゃないかと
私は余計にうんざりといった表情を浮かべてしまった

「なんでそんなに一生懸命になれるんですか?」


「僕たちにとってはこれが最後の体育祭だからね。」


ぽつりと呟く先輩の声は干からびている私の心に
明らかに呼び水となって染み透ってくる


「僕の雄姿を君に覚えていてもらいたいな、なんてね。」




体育座りしてる私の胸の鼓動は私にしか聞こえないはずなのに
なんだか不二先輩には見透かされてしまいそうで
思わずぎゅっと唇を噛んでしまった


「部活を引退したってね、恋に引退はないんだよ?」



「いや、むしろ、これで本気になれるかな。」



クスリと笑う先輩の表情が脳裏に焼きつく

こんな場所で告白された私は
もう暑いだの疲れただのつまらないだの
グダグダ不満を言えなくなってしまった

先輩が本気で体育祭を楽しみたいと思ってるなら
それに乗るのもいいかと思う



「不二先輩、後悔しないで下さいね?」


「後悔なんてしないよ?」


「私たち、敵同士なんですからね!」



「でも、恋人の応援はしてくれるんだろ?」




勝ったと言わんばかりの不二先輩の顔を見ていたら
明日からの生活がすごく自由のないものになりそうだと
ほんの一瞬だけ思ってしまった




だけどそんな束縛も
不二先輩ならいいかもしれない





たとえ日焼けしても、埃まみれになってでも・・・
















あとがき
9月の2週目で体育祭なんて信じられないよね?
でも、たて看板作りだとか、応援合戦とか
やっぱり楽しかったよなあ〜