…翌日。
夏日を思わせる眩しい朝日には少々閉口していた。



結局雨の中不二に家まで送ってもらったは、
その時の事をあまり覚えてなかった…。
たわいもない、クラスメイトの話とかテニスの話とか、好物の話なんかをしたように思うのだが、
妙に緊張していて、一生懸命聞いていたようにも思うのに、
その実ほとんど上の空だったような気もする。

「じゃあ、明日ね。」と言われて不二を見送り、家の中に入っても、
その日一日の出来事があまりにも多すぎて、はどっと疲れが出るのを感じていた。



朝日は爽快に窓から差し込んでくるのに、
昨夜は熟睡できなかったせいで、の思考回路はやはりどこかぎこちない。
制服のリボンを整えてる鏡の中の自分を見つめながら、は不二の事を考えていた。
人前でいきなり自分の名前を呼ばれたら…そう思うと、知らず知らず胸が高鳴るのはどうしてだろう?
は自分が昨日よりかなり不二の事を意識し出してることに苦笑していた。







朝の昇降口は生徒たちで混んでいた。
がいつものように自分の上履きを取り出していると、不意に不二の声がした。

 「おはよう!」
 「!?/////。」
は不覚にも自分の上履きを取り落とした。
 「どうしたの?」
不二はあくまでも優しく微笑みかける。
 「ううん。なんでもない。不二君、おはよう。」
は火照った顔を見られないように俯いた。

 「ふ〜じ〜、おはよう!
  あ、ちゃん、おはよう!」
菊丸が不二に飛びついた。
 「ねえねえ、不二。数学のプリント、ちょこっと見せてくれない?」
 「英二。時間はたっぷりあるから自分で頑張ってみれば?」
 「え〜。だめだめ。自分でやる時間はないんだにゃぁ。」
そうじゃれあいながら、不二と菊丸は階段を登って行ってしまった。

一人取り残されたはぽかんとしていた。
 (あれ?教室まで一緒に行ってくれるのかと思ったのに…?)
は落ちている上履きを見つめていた。


その日、は不思議な感覚に戸惑っていた。
不二はにすごく優しかった。が不二を見ると、必ずニッコリと極上の笑みで返してくれる。
が何かをしていると、すっと自然にそばに立って手伝ってくれてたりする。
そのたびにはドキドキしっ放しだったけど、と言って、不二はそれ以上に干渉はしてこなかった。
ましてや、教室内で一度も「」と名前で呼ぶこともなかったのである。

 (なんで…?)
昨日、昇降口で見せた不二はどこに行ってしまったんだろう?
不二にこんなに思われてるのよ、と級友たちに見せびらかしたいわけではなかったけど、
昨日の不二を思うと、なんだか肩透かしを食らってるような気分だった。





昼休み。と中庭のベンチに座っていた。

 「で、不二君とはどうなったの?」
 「う〜ん?」
 「ラブラブモード炸裂って感じかな。」
はクスクス笑っていた。
 「…それがね。」
はため息をついた。
 「…昨日の不二君はそんな感じだったけど、
  今日は全然そうじゃないな。」
は親友に思っている事を話しながら、自分のもやっとした気持ちを整理しようとしていた。

 「私ね、昨日までは不二君のこと、少ししか好きじゃないって思ってたのに、
  今日はね、ずっと不二君のことばかり考えてる。
  もっと話したいな、とか、もっと一緒にいたいのに、って思ってるのに、
  不二君はそうじゃないのかなあって思ったり。」

 「あのね、
  が不二君のこと、すごく好きになったっていう今の気持ちをちゃんと伝えれば、
  不二君はそれに応えてくれると思うよ。
  昨日までのじゃ、不二君は先に進めないなって思ったんだと思うよ?」
 「でも、昨日の今日で、なんだか私、いい加減過ぎない?
  自分でもこんなに変わるなんて思わなかったんだよ?
  私、変かな?」
 「ったら!
  好きっていう気持ちはね、ある日突然溢れてきたりするもんだよ。
  変でもなんでもないよ、そんなこと。
  二人同時に初めから同じくらい好きになってる…なんて、あんまりないんじゃない?
  私だって告白したときは、国光なんて全然だったし…。」
は思い出し笑いをしていた。
 「とにかく、今度はから告白だよ!」

にビシッとVサインを出した。








とはいえ、やはり自分の気持ちを伝えるとなるとなかなかいいタイミングはやってこないもの。

は放課後図書室に行くと。何冊か机の上に本を山積みにし、とりあえず、不二の部活が終わるのを待とうかな、
とぼんやり考えていた…。
しばらくは夢中になって読んでいた本も、やがて視界に入らなくなり、は睡魔に襲われた。
 (そういえば、昨日はあんまり熟睡できなかったんだっけ…。)
少しだけと思いつつ、静かな図書室のお気に入りの席ではまどろんでいた…。
 

しばらくすると、誰かが笑っているような気がしては目を開いた。
目の前には誰もいなかったが、机の上には1枚の紙切れが置かれていた。
こじんまりと整った文字はを驚かせるには十分だった。  



 『 僕は今日もと一緒に帰りたいけど、
          はどう?
                不二周助 』



はまじまじとその紙切れの文字を何度も読み返した。
  (不二君ってほんとによくわかんない。)
そう思いながら、ドキドキするほど嬉しかった。
そして次の瞬間、は苦笑した。

また、あの、不二のジャージが肩にかけられていたのだから!






は決心すると、不二のジャージを肩に羽織ったままカバンを持ち、
テニスコートの方へゆっくりと歩いて行った。
以前は恥ずかしかった行為が今ならできる。
これって愛の力?
そんなくさい台詞も全然気にならない自分がおかしかった。
でも、そんな自分も、そんな風に自分を変えてしまった不二も、やっぱり好き…。




テニスコートのそばにはやはり数人のテニス部ファンの子達がいた。
ファンの子達の視線が痛いという気持ちはあったけど、自分の思いを伝えるために、
はまっすぐ前を見ながらコートのそばに近寄った。
案の定、の髪が風になびくたび、ふわりと袖が舞い上がるジャージに、
ファンの子達の目は釘付けになっていた…。


 「うわぁ〜、不二!! あそこ見て?」
菊丸が驚いたように目を見張る。
 「やあ、あれはだね。
  なかなか絵になってるが?」
乾の目は逆光で見えなかったが、幾分落胆の眼差しだったかもしれない。
 「ふーん。やればできるじゃん。」
越前はチラッとを見ると帽子を深くかぶり直した。

そんなレギュラー陣など気にも留めないで、不二は嬉しそうに手塚に言った。
 「ちょと抜けてくるけどかまわないよね?手塚。
  グラウンドだったら後で走るから…。」
手塚の言葉も待たずに不二はの元へ走って行った。





 「やあ!」
不二はに向かってニッコリ微笑んだ。
 「そのジャージ、にすごく似合ってるね。」
 「そう?」
 「うん。僕のものって感じがするし、
  みんなもそう思ってくれそうでしょ?」
不二の思惑は最初からそこにあったのかもしれない、とも思った。
 「私もね、不二君のものって気がするし、
  みんなにもそう思わせたいなって思った。」

 「私、不二君のことすごく好きになってる。」
は頬を染めながら、大きな瞳でじっと不二を見つめた。

 「そう言ってくれると、僕はもう何も考えられないんだけど…。」
不二の瞳の中にが写ると、不二はごく自然にを抱き寄せて唇を重ねていた。
ギャラリーから悲鳴ともため息ともつかぬ声が起こったが、二人の耳には届いてなかった。








 「あーあ、もう練習にならないにゃ。」と菊丸。
 「ふむ、の行動如何で不二のデータは取り直しだな…。」とは乾。
 「〜、部の秩序を考えてくれなくっちゃ、イタタタ…。」と腹を押さえる大石。
 「グレイト〜!!!!燃えるぜ〜!!。」と河村。
 「うらやましいぜ、うらやましいよな〜。
  ま、海堂には一生縁がない光景だぜ。」と桃城。
 「フシュー。それはこっちのせりふだ!」と睨みつける海堂。
 「どっちにしても、ジャージは大事にしないといけないッスね。」と越前。
 (越前、それはどういう意味だ?)と無言の手塚。


それ以降、レギュラージャージが取り持つ恋は両思いになるという噂が、、
青学内の新たなる伝説となったらしい…。

 

  the end



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☆あとがき☆
  はぁ〜。長くしない方がよかったかも。
  もう最後はどうにでもなれというふてくされ戦法。(苦笑)
  やっぱり自分のジャージが届いてないので実感が薄いかも…。
  早く来ないかな…。
  「不二周助」ネーム入りレギュラージャージ。