新入部員、歓迎します (幸村編) 2









仁王に気がついたがほっとしたような顔で少し笑った。

その横顔に赤也は一瞬見惚れてしまった。

自分に向けられた笑顔でも何でもないのに
赤也の彼女が見たら間違いなく怒るくらい顔も赤くなったかもしれない。


 「のう、幸村。
  そこそこ集まったみたいじゃな?」
  
 「まあね。」

幸村はぶっきら棒に答える。

 「はどうじゃ?
  期待通り集まったかの?」

仁王の言葉にはそのきれいな顔に不似合いな位の皺を眉間に寄せて
怒ったように噛み付いてきた。

 「何が期待通りよ?
  あんなちゃらちゃらした1年なんて使い物になんてならないわよ。
  大体柳はどういうつもりなの?
  幸村に勧誘なんて頼まないでよ!」

 「そう言われてものう。
  勧誘したがったのは幸村じゃけぇ。
  それに一番人気がある者が勧誘した方がええに決まっとる。
  もだいぶ男子を入部させたんじゃろ?」

 「ああ、あいつら、入部できないよ?」

今度は幸村が腕を前に伸ばし首をコキコキと打ち鳴らしながら
むっつりと答えた。

 「何でよ?
  ちゃんと勧誘したじゃない!」

 「あんな軟弱なやつ、続く訳ないだろ?
  こそ、もうちょっとましな奴、勧誘したらどうなんだ?」

 「もう、あったまに来た!
  柳が頭下げるから付き合ったけど
  こんなバカバカしい事、私はもうしたくない。
  幸村目当ての新入生なんてこっちだって願い下げよ!」

ついに完全に怒ってしまったは両手でバンと机を叩くと
肩を怒らせて歩いて行ってしまった。



呆然と見送る赤也とは違って
仁王は今までが座っていた椅子にどっかと腰を落ち着けると
しげしげと幸村の顔を覗った。

 「幸村、ええんかの?」

 「何が?」

 「別に、聞いてみただけじゃ。」

 「面白がってるだろ?」

 「ああ、他人事じゃけ。」

したり顔の仁王に幸村は心底嫌そうな顔をして見せた。

 「俺は全然面白くない。」

ため息つく幸村を不思議そうに見守る赤也には
幸村の考えてる事はまるで分からなかった。

 「俺だって目当ての新入部員なんて願い下げだよ。
  もちろん、今日来た奴らは入部テストでしごき倒すけどね。」

 「へ?」

間抜けな返事をする赤也はポカンと幸村をみる。

 「赤也、心配するな。
  まともな新入部員は参謀が声を掛けちょる。」

 「全く、柳も余計な事やってくれるよね。
  俺の立場なんて何にも思ってないよね?」

 「おうおう、そういう幸村は本気で女テニの心配なんて
  しちょらんのじゃろ?」

 「ああ、いっそ潰れちゃえばいいのにって思ってる。」

ため息つきながらの幸村の言葉に赤也は思わず言葉を失う。

 「ちょ、ちょっと幸村部長、それはないんじゃないッスか?
  そりゃあ今はちょっと同好会っぽくなっちゃったッスけど
  先輩だけなら関東ではシングルスで充分・・・。」

 「関東レベルじゃどうってことないよ。
  その辺にごろごろいる。
  全国レベルじゃなきゃ意味ない。」

ぴしゃりと言う幸村に赤也は冷たいなと思う。

 「だから辞めちゃえばいいのにさ。」

幸村は立ち上がるとポケットに手を突っ込んで歩き出した。

 「幸村、勧誘はもうええのか?」

 「ああ、俺はもういいや。
  仁王、適当にやっといて。
  どうせそれも柳の台本通りなんだろ?」

 「ええっ!?、ぶ、部長?」

 「うん、やっぱり正攻法でいくかな、面倒だけど。」


赤也はこの解りづらい幸村と対等に付き合える仁王や柳が不思議でならない。

脱力して椅子に座れば仁王が遠慮なく笑い出す。

 「まあまあ、赤也。
  お楽しみはこれからじゃ。」













は女子テニス部コートのベンチに座っていた。

中学では男子と並んで全国大会に出場したものだ。

高校でも全国大会を目指すはずだったのに
かつての同胞たちは完全燃焼したからとか
他の事もやってみたいからとか、普通の女の子になりたいとか、
には理解できない理由で離れて行ってしまった。

今一緒にやってる子達だって
男子テニス部目当ての、少しテニスが上手いというレベルの子達しかいない。

いつか幸村に言われた言葉が蘇ってくる。


   そんなんで全国なんて無理だね
   いっそ辞めちゃえば?


確かにそうだと思う。

自分ばかりが空回りして練習内容だってどんどんレベルは下がる一方。

幸村に言われなくたって自分のモチベーションも
中学の時のそれとはだいぶ違って来てしまっている。

後輩たちを指導する意欲も沸かない。

新入部員だってもはや同好会のノリなのだ。

今日だって幸村目当ての子達しか集まらなかった。

事ある毎に幸村に何やってるんだ、という目つきで見られ
自分の不甲斐なさを責められてるようでいつもイライラしていた。

どうしてこんなにも男子テニス部と違ってしまったのだろう。



は何気なくベンチ脇のクローバーをむしり取る。

どれもこれも葉っぱは3枚。

幸せのクローバーなんてそうそうある訳ない。

無意味な自分の行動に自分でも呆れてしまうその時、
自分の傍らに座る幸村の姿が視界に入った。


 「随分落ち込んでるんだ?」

 「誰が!?」

睨みつけようと思ってもいつになく優しい彼の眼差しにたじろいでしまった。

いつだって人を小ばかにしたように笑っていた幸村が
今はとても真剣な瞳でをじっと見ている。

 「さ、いい加減女子テニス部、辞めなよ。」

 「またその話?
  人の事は放って置いてよ。」

 「うん、それがさ、そうもいかなくてさ。」

 「何よ?」

 「どうしても欲しいものがあるんだ。」

今までの幸村と明らかに違う態度に居心地が悪くてつと立ち上がれば
幸村は即座にの手を掴む。

 「ちょっと?」

 「俺、今年は1年が誰も入らなくてもどうでもいいんだけどさ、
  一人だけ勧誘したい奴がいるんだ。」

思いっきり手を引っ張っても幸村はベンチからびくともしない。

 「ねえ、
  男子テニス部に入ってよ?」

 「なっ?」

 「と一緒に全国行きたいんだ。」

幸村はゆっくりとの手を握り締めると
その甲に唇を寄せていた・・・。








     *******




 「で、どうなったんスか?」

赤也はさぼってないように見せかけるため
柔軟をしてる振りをしながら丸井と仁王に話しかけた。

今日の幸村の新入部員に対するしごきを見れば一目瞭然なのだが、
あの後の後を追って行った幸村が実はに片思いをしていたなどと
赤也にはまるで想像がつかなかったからだ。

 「あー、幸村は言わねーけど
  なんか派手に引っ叩かれたらしいぜ?」

 「な、何やったんスか?」

 「さあのう、でもま、結果オーライなんじゃろ?」

 「でも、幸村部長は本当は先輩のこと
  男テニのマネにしようと思ってたんスよね?
  全然だめだったじゃないッスか?」

 「どうでもいいんじゃね?幸村は。」

 「が幸村の事意識した時点で
  マネでも女テニの部長のままでもどっちでもええんじゃろ。」

 「そんなもんッスか?」

 「ま、選手辞めてマネになったらは落ち着かんって。
  発破かけてシングルスで頑張らせた方が本人のためじゃろ。」

仁王の言葉に赤也も何となく納得した。



あれから幸村との二人の仲が良くなったかと言うと
あんまり変わらない気もする。

けど、練習が終わった後に幸村がを誘ってテニスをしている姿を
時々見かけるようになった。

多分それでよかったんだと赤也は思うことにした。

が男子コートに来るようになって
俄然1年生たちが張り切る様子に苦笑しながらも
今年の新入部員は長続きしそうだと赤也は思っている。






The end


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★あとがき★
 新入部員勧誘シリーズ、まだ続いていたのか!?(笑)
なんとなく幸村Vr.がなかったなと思いまして・・・。
やはりこの時期気になるのは
新入生が入ってくれるかどうかじゃないですか?
結構大変なんだよね〜。
2009.4.26.