春雷






 「幸村君。」

階段を降り切らない内に呼び止められた。

聞き覚えのある声。

心地よい響きに足が止まる。

ゆっくりと振り返ると数段上にクラスメイトのが立っていた。

呼び止められたが奇跡に近い段差のお陰で
目線が丁度いい高さになるものだから
立ち止まった俺よりも相手の方がびっくりするって何だか可笑しい位だ。

の視線が俺の胸辺りに移るのを好ましく見つめてしまった。

 「何か用かな?」

はクラスの中でも実に大人しい女の子だ。

彼女の方から声を掛けられたのって
もしかしなくても今日が初めてかもしれない。

ちょっと楽しくなってきた。

まあ、今日があと2日遅ければ
誕生日プレゼントでもくれるのかな、って期待しないでもないんだけど。

と言ってもバレンタインに義理とか友とか
そういう感じのチョコも貰えなかったから
あまり期待は出来そうにないのだけど。

 「あの・・・。」

じっと見つめれば色白のの頬が少しピンク色なのが分かる。

多分凄く頑張っているんだろうな、と思う。

は手作りっぽい布製のバックの中から
小さな箱を取り出した。

ああ、やっぱり。

そう思ったけど
それと一緒に白いものがひらりと落ちるのを
俺とは同時に視線で追っていた。

封筒らしいものは俺の足元に落ちたから
それに手を伸ばそうとしたら
彼女は俺の手に箱を押し付けて来た。

 「幸村君のはこっち。」

 「えっ?」

驚いて動きを止めると彼女は必死な様子で
なおも箱を差し出してくる。

 「幸村君に。」

 「俺に?」

頷く彼女のために思わず受け取ったら
は素早くしゃがみ込んでさっき落ちた封筒に手を伸ばす。

でも彼女の方が一段上にいるから
勢い良く手を伸ばしたのが災いして
今にも落ちそうに見えてしまったから
俺はの脇を支えるように思わず抱き止めてしまった。

驚くのも無理はない。

中腰のまま俺との体は抱き合う形。

まるで磁石でくっ付いてしまったかのように
時間が止まってしまった。

それでも伝わるのはお互いの暖かな息遣い。

こんなに近く触れ合うなんて思いもしなかったから
まるで雷にでも打たれたかのようにしばし放心してしまった。


 「えっ?、あっ、あの!?」

慌ててるの声に反射的に腕を緩めたら
はストンと階段に尻餅をつく格好で座った。

顔を見れば真っ赤だ。

でもそんなの顔を見ている俺の鼓動もなぜか早くて
俺は吸い寄せられるようにの隣に腰を下ろしていた。

 「大丈夫?」

 「う、うん。」

どちらも立ち上がる事もなく並んで座る今の状況は
かなり可笑しい。

今度は数段下に落っこちてしまった小箱に
二人の視線は注がれている。

 「あれってもしかして誕生日プレゼント?」

 「うん。」

 「から?」

 「あっ、えと、あの・・・。」

言葉につまるに笑いかけた。

 「誰から?」

 「学校は違うんだけど、私の友達から。」

 「元中繋がりとか?」

 「そ、そう。
  同じクラスだって言ったら頼まれちゃって。」

階段に誰も来ないのをいい事に俺はそのまま話しかける。

 「で、そっちの封筒は何かな?」

 「な、何でもない。」

 「そう、じゃ、拾ってもいいかな?」

 「えっ?」

またまた慌てるの腕を掴んでその動きを封じ込めた。

そしてもう片方の手でその封筒を拾い上げた。

 「こっちの方が興味あるんだけど。
  見てもいいかな?」

いいかな、なんて言いながら俺は封がしていない封筒の中身を
遠慮なく出してしまった。

そこには映画の前売り券が1枚だけ入っていた。

 「わあ、これ、俺も観たいって思ってたんだよ?」

 「・・・。」

 「、観に行くつもりだったの?」

悪戯っぽく笑いかけると
ははにかみながら小さく答えた。

 「幸村君に・・・、あげる。」

 「それは、から俺への誕生日プレゼントだと
  思っていいのかな?」

 「うん、まあ、そう思って貰ってもいいけど。」

 「うーん、何で1枚なのかなぁ?」

前売り券を目の前に掲げて
俺は何度もひっくり返しては眺めた。

 「は観に行かないの?」

 「・・・。」

 「どうせならと一緒に見に行きたいなぁ。」

 「・・・。」

 「明日は午後練からだから、朝一番に観に行けば間に合うなぁ。
  の分は俺が出してもいいよ?」

 「あ、ううん、私、もう1枚持ってるから。」

 「じゃあ、決まり。
  明日、一緒に見に行こう!」

さっそく柳には明日の午前中は自主練だと伝えなくてはと考えて
映画の券を制服の胸ポケットにしまった。

ますます楽しくなって来た気持ちを胸に俺は立ち上がると
階段下に落ちていた箱をやっと拾い上げた。

はじっと俺を見ている。

 「に免じてこれは有り難く受け取るよ。」

 「幸村君。」

 「でも5日の誕生日には、もう誰からのプレゼントも受け取らない。」

 「えっ?」

 「だってに貰ったらそれだけで充分だし。」

友達からという箱をズボンのポケットに捻じ込むと
俺はに手を差し出した。

 「私は何も・・・。」

 「そう?
  俺のハートは君に持ってかれちゃったんだけど?」

なかなか動かないの手を掴むと勢い良く引っ張りあげた。

もちろんが俺の腕の中にすっぽり入ってしまったのは言うまでもない。

 「きゃっ。」

 「だから君のハートは俺が貰うんだ!」

 「あの。」

 「いいよね?」

有無を言わせずと歩き出す。

林檎のように赤くなってるが可愛くて
ついついからかいたくなる。

 「最初から俺と観に行くつもりだった?」

 「そ、そんな大それた事。」

 「何で?」

 「だって・・・。」

俺は繋いでいた手をぎゅっと握り締める。

 「ま、いいさ。
  明日はとデートできるし。」

 「デート?」

 「だって俺、の事、好きだし。」

 「・・・。」

 「も俺の事、好き、だろ?」

 「・・・。」

 「あれ、好きじゃないなんて事ないよね?
  好きだよね?
  好きって言ってくれないと困る。
  好きだろ?
  ねぇ、好き?」

 「も、もう、幸村君、恥ずかしいよ。」

俯くは困ったように言うけど
でもその横顔はちょっと笑っていて俺は安心した。

まあ、いいさ。

誕生日は月曜日だから。

それまでに1回は言って貰うつもりだからね。
  











The end


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☆あとがき☆
 幸村、お誕生日おめでとう。
5日に書いてるのに何で内容は3日なの?
まあ、いいじゃないですか。
だって月曜は学校あるし?
どうせなら前の日にデートして
月曜に「俺達付き合いだしたから」宣言です。(笑)
とにかく今年もお祝いできてよかったです。
2012.3.5.