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  矛と盾







昼休み。
幸村はひとり図書室で本を読んでいた。
晴れ渡る空はどこまでも青く、ほとんどの生徒が芝生や木陰で昼のひとときを過ごしてるというのに、
幸村はただ単に図書室の静寂に身をまかせてるのが好きだった。

 (でも、そろそろうるさくなる頃かな…。)



 「ゆっきぃ~!!!!!」

そう言って走り込んできたのは同じクラスの木之本桜。
長い髪を無造作に束ねただけだから、全速力で駆けてきた桜の顔には、
ほつれた髪が汗でぴったり張り付いていた。
肩で息をしているところを見ると、今日もかなり走ってきたらしい…。

 「ゆっきぃ、かくまって!!」

桜は幸村の背中に回る。

 「ねえ、隠れても意味ないと思うけど。」
 「大丈夫。ゆっきぃなら十分盾になるから。」
桜の目映いばかりの笑顔を見るとダメとは言えないし。
 「で、今日は何をしでかしたの?」
 「えへ。なんにもしてないよ。」

そう言った瞬間、桜はしゃがみ込んだ。

 「木之本!!!!!!
  俺から逃げ切れると思うなよ!」

すごい剣幕で図書室に入ってきたのは、立海大附属高校テニス部副部長の真田。
彼を怒らせるとたとえ女子でも手加減はしない男だ。

 「真田、今日はどうしたの?」
 「ふん。木之本の奴、たるみすぎるにも程があるぞ。」
真田は怒り心頭という面持ちで幸村に言う。
 「体育委員会の副委員でありながら委員会をさぼったんだぞ!」
 「そうなの?桜?」
幸村がニッコリ笑いかけながら桜の顔を覗き込む。

 「私だって女子テニス部の部長なんだからね。
  昨日の委員会は出られません、ってちゃんと先生に許可はもらったもの。
  どうせ私がいなくたって、真田委員長がひとりで仕切ってるようなもんじゃない…。」
 「木之本、そういう考えは上に立つものとしての自覚がなさすぎる。
  俺だって全国大会連覇のテニス部の副部長だ。
  その俺が忙しいのを理由に委員会をサボったことがあるか!?
  全く性根が腐っとる!!
  そうは思わんか、幸村。」

幸村はサラサラの髪をすくい上げるようにして真田を見上げた。
 「うん、まあね。
  真田の言うこともわかるけどね。
  みんながみんな、真田みたいにできるわけじゃあないんだから。」
 「しかし、木之本にできないわけがない。
  できると思ったから副委員長に推薦したんだからな。」
 「だから、それが間違ってるのよ。
  私、体育委員会なんてやりたくなかったのに、無理やり推薦するんだもの。」
桜はウルウルした瞳で幸村を見る。
はぁ~と小さくため息をつくと、幸村は真田に言った。

 「仕方ないなあ。
  僕が桜の性根を叩きなおしてあげるよ。
  それで機嫌直してくれるかな、真田?」

幸村の刺すような瞳に見つめられると、真田はそれ以上口を挟まない。
なにしろ、テニス部主将はこの幸村精市。
見た目、華奢で弱々しそうに見えて、その実、どこまでも非情で冷酷で強い。
しかし、それを知っているのはもちろん男テニ部員だけ…。

 「ああ。幸村がそう言うなら…。
  木之本、今回ばかりは幸村も甘くないからな。
  自業自得だ。」

真田は不敵な笑みを浮かべて図書室をあとにした。




 「…ゆっきぃ~?」
桜は不安になって幸村の隣に座った。
幸村は読みかけの本を閉じると桜に向き直った。

 「ほんとに桜と真田は仲がいいね。」
 「どこが!?」
 「だって、毎日毎日、真田と追いかけっこしてるじゃない?」
 「遊んでるんじゃないよ。真田から逃げてるの。」
 「桜が真田を怒らせるようなことするからでしょう?」
 「真田が勝手に怒るんだもん。」
 「もっとこう、平穏に過ごせないの?」
 「悪いのは真田だよ。強引に事を運ぶし、うるさいし…。」
 「あいつは直情型だからね。正しいと思った事は曲げられないし…。
  でもあいつの性格は桜ならよくわかってるんじゃないの?」
幸村は眉を曇らせた。
 「うん、わかってるよ。
  それに真田がゆっきぃに頭上がんないのも、ね。」
桜はにっこり微笑んだ。

 (ああ、桜の笑顔ってほんとにきれいなんだよな。)

幸村がそう思ってると桜が言った。
 「ゆっきぃが盾になってくれるから、真田に言いたいこと言えるんだからね?」
 「僕が盾?」
 「そう。ゆっきぃに守られてるっていうのが嬉しいの。」

 「だから、ゆっきぃが私の根性叩き直しちゃったら、
  私、真田好みの女の子になっちゃうよ。
  それでもいいの、ゆっきぃは?」
桜はそう言うとちょっと赤くなって俯いた。

その瞬間、幸村の心の掛け金は全部外れた…。

 「じゃあ、桜は僕の心を突き通す最強の矛だね。」
 「えっ?」
 「桜には勝てないな…。」

そう言うと幸村は桜を抱きしめた。



 「私、ゆっきぃの心、射止めちゃった?」
桜はクスクスと幸村の耳元で囁いた。
 「桜も案外策士だね。
  真田に気があるのかなあって不安だったんだ。」
 「私、ゆっきぃが大好き。」
 「僕も桜が好きだよ。」



こうして最強コンビは結成された…。
真田が桜にちょっかい出せなくなったのは言うまでもない。




   the end



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☆あとがき☆
 立海大の幸村部長が描きたくなって…。
 真田ファンの方がいたらごめんなさいです。
 私の中では幸村は不二君に似てるような気がするんです。
 だって皇帝真田以上の実力も人望もあるわけで(多分)、
 どっか黒いところもあるような気がして…。
 ほんとはどうなんでしょうねえ?