Happy Happy Happy







 「先輩、久しぶりッス。」





東京のど真ん中でこんな洒落た場所があるなんて今まで知らなかった。

森の中にひっそりと建っている趣のある教会をモチーフにしたような、
そんなレストランが会場だった。

広い中庭には花があふれ、日の光を巧く生かしながらのデコレーションに、
はしばしうっとりと見惚れていて、背後の青年に全く気づかないでいた。



 「…赤也?」


そう呟くに、スーツをびしっと決めていた切原は嬉しそうに頷いた。


 「え〜!?
  あの赤也なの?すっごい大人びちゃって!!」

の反応に照れながらも、切原は拗ねたように口を尖らせた。


 「なんか親類のおばさんみたいな事言わないでくださいよ。」

 「あ〜、ごめん、ごめん。
  でも、本当に久しぶりだよね?
  今は?立海大の4年生だっけ?」



高校を卒業してからまだ5年しか経っていないのに、
はあのまま立海大へと進学しないで、
他県の国立大学へ進学し、そのまま都内のそこそこ有名な企業へ就職してしまったので、
切原と会うのはゆうに4年ぶりかも知れない。

卒業してからしばらくは後輩たちの活躍を見に行ったり、
OB会と称して集まったりしていたが、
それも最初のうちだけで、就職してからはそういうのにも一度として参加してなかった。


 「先輩、俺も4月からは一応院生です。」

 「へ、へぇ〜。そうなの?
  すごいじゃない、赤也!!
  あんなに勉強嫌いだった子が…。」

 「うっ! 先輩、マジでむかつく。」


昔と変わらずの言葉に一喜一憂してる切原が可愛くて、
は思わず目尻に涙をためそうなくらい笑い出した。


 「。お前の笑い声も久しぶりに聞くな。」


二人が驚いて振り返るとそこには柳が立っていた。

 「柳?柳も元気そうだね?
  いつ日本に戻ったの?」

 「ああ、先週だ。
  今日は仁王の結婚披露宴だからな、海外組もほとんど帰ってくるらしいぞ。」


相変わらずの抑揚のない落ち着き払った柳の言葉には一瞬その瞳を大きくした。


海外組。


そう、真田も柳も、そして幸村も今は海外で活躍している。

そして仁王もこの春から仕事の関係で渡米するにあたり、
その前にごく内輪で結婚のお披露目をしたいと打診があったのは正月過ぎ。

突然の話に面食らったものだが、
仁王の相手がの親友だったと聞かされた時にはもっと驚いたものだった。



 「それにしても、もきれいになったな。」


およそお世辞など言わないであろう柳の言葉にはほんのりと頬を染めた。

 「そんなことないよ。」

 「いや、俺は結婚式に招待されるなら、
  が一番早いかと思っていたんだがな。」


淡いサーモンピンクのドレスはの白い肌をより一層引き立てていたが、
大人びたデザインとは裏腹に今も変わらず愛くるしいその容姿に、
ポーカーフェイスの柳さえ、いくらか見惚れているのではないか、
と切原は密かに思うのであった。



 「あ〜、俺も先輩は学生結婚しちゃうかと思ってたッスよ。
  大体高校生の頃は、仁王先輩、メチャクチャ先輩のこと口説いてたじゃないッスか。
  俺、マジで先輩と仁王先輩はくっつくかも、って思ってたけど、
  でも、まだチャンスは俺にもあるっつうことで、
  先輩、俺…。」

赤也にみなまで言わせずに柳がやんわりと赤也を遮った。


 「赤也、高望みはこの場合は無駄なことだよ。
  大体、には昔から好きな奴がいるんだからね。」

 「えっ!?」


驚く赤也には困ったように柳をちょっと睨みつけたが、
柳はそ知らぬふりを決め込んでいた。

 「どうして付き合わないのか全く理解できなかったがな。」

 「やだな。それは私の片想いで終わったんだよ、柳。
  今はフリーだから、
  そうだ、今度合コンしようか、赤也?」

 「ほんとッスか?」

 「! 後輩をからかうのはその位にしておかないと、
  後で後悔するぞ。」

 「柳も相変わらず堅いのね。」

 「ふっ。友達の忠告は有り難く聞くものだ。
  とにかく仁王たちに先に会いに行って来るんだな。
  まだ会ってないんだろう?」

 「あ、うん。そうする。」

 「じゃ、俺も仁王先輩に会いに一緒に…。」

 「赤也はあっちが先だ。
  弦一郎たちが待ってるぞ。」


不服そうな切原を柳は半ば強引に引き連れて行ってしまった。












     ********










中庭には大勢の客が談笑していたが、それらをかき分けて奥へと進むと、
ひときわにぎやかな集団が目に付いた。

その中心には今日の主役である仁王と親友のが、
いろいろな人たちの祝福を受けているところだった。

先に気がついたのはだった。



 「あっ、!!」

 「!今日はお招きありがとう!
  すっごくきれいだよ。」

友の言葉に頬をピンクに染めながら、
白のドレープをふんだんに取り入れたドレスはみごとだった。

胸元や髪には白い花がちりばめられ、
まるで花の妖精のようだとは思った。


 「よかった。が来てくれなかったらどうしようかと思ってた。」

 「来ない筈がないじゃない。
  あ〜、でも、仁王と結婚するなんて思いもしなかったけどね。」

が悪戯っぽく笑いかけると、の傍らの仁王が苦笑した。


 「信用ないけんのう、には。」

 「だってねえ、あの仁王だよ?
  泣かされた子一杯いたと思うけど?
  あ、ごめん。の前で言うことじゃなかったよね。」

 「ふふっ。大丈夫。
  私ね、雅治のこと信じてるから。」

 「騙されてない?」

 「こらこら、何を言い出すんやら。
  俺はしかもう愛せんけんのう。」

 「わあ、仁王じゃないみたい。」


笑い合う二人が眩しくて、は本当にが羨ましいと思った。


 「ねえ、
  ここの会場、素敵でしょう?」

 「うん。会場自体も素敵だけど、
  演出が凝ってるって言うか、花が溢れてて、
  すごく雰囲気いいよね?」

 「そうなの!これね、実は幸村君が私たちのために企画してくれたんだよ!」



は驚きのあまり声を失っていた。



でも、次の瞬間、ああ、そうだ、この居心地の良さは、
彼の優しさから溢れ出てるものなんだ、と妙に納得してしまった。


花々の絶妙な位置といい、組み合わせといい、
ここへ一歩足を踏み入れた時から、
どこか懐かしいような、自分を暖かく迎え入れてくれる感じに、
不思議な感じをずっと抱いていた事に気がついた。



そう、この花も色も香りも、
みんなの好きなものばかり…。






 「気に入ってくれたみたい?」



は振り返ることが出来なかった。



とても、とても懐かしくて会いたかった人の声。


もしかしたら幻聴かもしれない。


振り返ったらそこには会いたい人はいなくて、
落胆することになるかもしれなくて、
は怖くて振り返ることが出来ないでいた。




 「まさか俺のこと、忘れちゃったわけじゃないよね?」


 「せ…。」


振り返ったは吸い込まれるように幸村の顔から視線をはずすことが出来なくなっていた。

笑いかける瞳は昔のままのくせに、スーツ姿の幸村は男らしくて、
無邪気に同じ時を過ごした学生の頃とは明らかに違って見えた。




 「で、今日が何の日だったかも覚えてくれてるともっと嬉しいんだけど。」

 「…今日?」

 「うん。3月5日。」



 「あっ!?」


 「思い出した?」



 「た、誕生日?
  誕生日、おめでとう////」

は恥ずかしそうに呟いた。

 「よかった。
  今日はね、本当はのためにここをセッティングしたんだ。」

 「えっ?なんで?
  だって仁王やのためじゃ…。」

 「うん、もちろんそうなんだけど、
  仁王たちのためなら君は絶対ここへ来てくれると思ったし。
  だから君の好きな花で飾りたかったんだ。
  そしてね、俺の誕生日に君にプロポーズしたくてね。」





幸村は驚いてるの手をそっと握り締めるとその手の甲にそっと唇を寄せた。


 「これからはもう君と離れたくない。
  
  俺と、結婚してくれないか?」












      ********













 「少しは落ち着いた?」



仁王たちの結婚披露宴は親しい人ばかりの立食パーティーだったので、
たちが抜けても相変わらず和やかに続いていた。

その光景を見ながらと幸村は中庭に面したテラスのテーブルで向き合っていた。


 「精市が突拍子もないことを言うから。」


は未だに鳴り止まぬ心臓の音が幸村に聞こえやしないかと
変な心配をしていた。

今までずっと平気なふりをしてきていたのに、
ここへきてそれを抑えることがもう出来ない自分に、
自分でも訳がわからないくらい動揺していた。


 「そうでもないんだけどな。」


幸村はクスクスと笑っている。


 「が立海大に進学しないって聞いた時は
  どうやって引き止めようかとそればかり考えてたんだけどね。」



テーブルの上で繋ぎあったままの手を幸村は今一度確かめるように
ぎゅうっと強く握り締めた。


 「でも、中学・高校と俺たちのために時間を割いてくれてたが選んだ道だし。
  大学はが自分のための時間を過ごす場所であって欲しいなと思ったんだ。
  それはとても淋しい事だったけど、
  俺自身はたとえ離れてもそれは失う事じゃないって信じていたし。」

 「そんな…。」

 「でもね、もう限界かな。
  これ以上は1分だってのいない時間は過ごしたくないんだ。
  だから…。

  俺に最高の誕生日プレゼント、くれないかな?」




 「それって、Yesしか選択の余地がないんじゃない?」



 「だめ…かな?」

 「…精市はずるい。
  これも…精市の筋書き通り?」

 「まだ答えを聞いてないから…。」






 「私も、精市とこれからを過ごしたい。」

 「ありがとう。
  愛してるよ、。」









      素敵な誕生日を、ありがとう!













The end



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☆あとがき☆
 幸村 :これは一体どういうことかな?
 管理人:ひゃぁ〜、ごめんなさい。
 幸村 :なんかちょっと満足できないような?
 管理人:えっ?でもBD夢になったでしょう?
 幸村 :でもなんか仁王とか赤也とか、出すぎじゃない?
 管理人:いえいえ、とんでもないです。
     とってもHAPPYな夢ではないかと?
 幸村 :ま、このまま僕たちの結婚披露宴に塗り替えてもいいか…。
     みんな集まってることだしね。
 管理人:…。
 幸村 :でも、披露宴よりこのまま新婚旅行に行っちゃった方がいいかな。
     じゃ、そういうことにするね!


2006.3.5.