等価交換   2












 「蓮二〜。」

 「ああ、丁度来る頃だと思っていた。」



私の脳みそが全く働かないのをいい事に
柳は後ろのドアからひょっこり覗いた丸井の方へ向き直る。

さんからもらったあのクッキーの包みが
机の上からすーっと浮いたのをぼんやり眺めてしまった。


 「ブン太はこれが目当てなんだろう?」


袋の中でカサカサとクッキーが揺れる音がする。

丸井は嬉しそうな顔をして速攻で教室に入って来た。


 「の奴、俺が食い過ぎるとか言いつけたんだぜ。
  俺は食った分は消化してるっつうの。」

 「あれだけ部室で散らかし放題食べれば
  いずれ弦一郎の雷は落ちただろう。
  そうでなくとも、のクッキーは糖分が大目だからな。
  俺としてもあまり薦めたくはないんだが…。」

 「いやいやいや、これ、絶品なんだぜ?
  俺にはもう作ってこない、なんて言われるとさ、
  逆に食べたくなるっつうもんだろぃ?」


そう言いながら、すでに丸井はクッキーの包みを解き始め、
袋の中を覗き込みながらへらへら笑っている。

余程、さんのクッキーは美味しいらしい。


 「さて、という事で、ブン太の今日の練習試合は精市と対戦してもらうが。」

 「ああ、いいぜ。
  ここんところ、ユキとは試合してねーもんな。」


丸井は快活に承諾すると、クッキーを食べながらおもむろに去って行った。







呆然とクッキーの袋を見送る私に呆れたように柳がクツクツと笑う。

私、今、どんな顔をしてるんだろう?


 「あ、あれ、…丸井君にあげちゃって、よかったの?」

 「は随分あのクッキーにこだわるんだな?」

 「えっ、や、だって、せっかくさんが…。」

 「言ったろう?
  利益の生まれない事はしないって。」

 「だから、あれは柳君にとっては得な事だったんでしょう?
  さんにもらえるって期待してたんでしょう?」

 「まあ、そうだが。」

思い切って聞いてみたらあっさりと柳にかわされた。

 「ほら、やっぱり。
  さんって柳君にお似合いだもの。」

 「だから、どうしてそうなる?」

 「だって誰だってそう思うじゃない?」

 「思わなくていい!」

いつもは私の事なんて全然相手になんてしなかったくせに、
今日の柳はどこか変だ。

さっきまで笑っていたように思ったのに
段々不機嫌になって、イラついてるのが分かる。

滅多にその表情が変わることなんてないのに。

 「全く、どうしてそうなるんだか…。
  大体、は幸村の事が好きだ。
  俺はだしに使われただけだ。」

 「え、ええっ!?」

 「ブン太は最近太ってきたので幸村に甘いものを止められた。
  といえど、部長命令ではブン太がいる前で差し入れはできまい。
  だが、ブン太はの差し入れのクッキーが大好物だ。
  だからくれてやった。」

 「そ、そうなんだ…。」

 「は幸村の自主練に付き合わなかった。
  だから今日は幸村の機嫌は最悪だ。
  そんな日に俺は幸村とたとえ練習試合でも打ち合いたくはない。
  危険極まりないからな。
  だから代わって貰った。」

私はただただ、ぽかんと柳を見つめるしかなかった。

 「加えて言うなら、俺は好きな女以外に私物は貸さない。
  この本は先週柳生に借りた。」

柳の口角が上がるのに気づいても
未だに柳の言っている意味がわからない。

 「ふむ、もっと感動してくれるものだと思ったが?」


ちょっと待って!?

今の話のどこに感動したら言い訳?


 「、もしや全く理解してないのか?」


私は素直に頷く事しかできなかった。

柳は一呼吸置くと、ゆっくりともう一度その言葉を吐き出した。


 「俺は 好きな女にしか 私物を貸さない。」

 「えっ?」

 「好きな奴が俺に物をねだる顔を見るのが楽しみだったが、
  そろそろ限界だな。
  お前は、何で俺がだけに物を貸してやってるのか、
  その重大性をわかってないな。」

 「だ、だけど…。」 

 「だが借りっぱなしと言うのはいけないな。
  俺の愛情と同じ分だけ見返りを要求しなくてはな。」

私の心の中の天秤が大きく揺り動き出した。

 「それって、ど、どういう意味よ?」

 「もう、わかってるだろう?」

 「わ、分かりにくいわよ!!!!!
  柳は、い、いつだって無表情で、
  そんな顔で、そんな態度で、分かるはずないじゃない!!」


  
 「なら分かるようにしていいんだな?」



甘い声で低く呟いた柳は
音も立てずに立ち上がると私の頭の上から覆いかぶさってきた。

柳の動きを目で追っていた私は顔を上げたまま
柳を迎え入れる形で彼の熱を受け入れていた。


教室内で悲鳴が起こる。


柳君が…、とか、さんと…、とか
あり得ない、とか、信じられない、とか…。


それ、どれも私が思ったことと同じなんだけど…。





 「どうだ、分かったか?」


柳の綺麗な瞳に頬を赤らめてばつの悪そうな私の顔が映っている。

柳の気持ちが私の天秤に乗っかってきて初めて平行を保とうとしてる。

だけど、私の方が何倍も思いを募らせてきていたんだから、ね…!



 「ほ、本当に分かりにくいってば…/////」


 「全く、可愛い奴だ。」



レアな柳の笑顔を独り占めしてる私は、
教室中の喧騒の中で
間違いなくこの先柳と一緒にいることで
損する事はないのだろうと思った。














THE END


BACK


























☆あとがき☆
 随分お待たせいたしました。
100作目は何人かの方から頂いた
柳へのラブコールを形にしてみました。
私にしてみれば柳は立海3強の一人っていうだけで
幸村の脇役的位置づけが多かったものですから
書いてる途中でつまって大変でした。(苦笑)
なんで柳なの?と肩透かしを食らった方がいましたら
それはそれで作者としてしめた!っていう感じでしょうか?(笑)
どうせ幸村や不二はこれからも増えていく事ですしね…。
とにかく100作目までこぎつけたって事は
自分的には凄い事だと思ってます。
よくもまあ、ここまで続けたものだと…。
100作目と言いながら実はこのサイトには1作目がない、
っていうのも管理人の天邪鬼的性格が災いしてまして〜。
1作目があまりの駄作なので放置してまして
私の中ではこれを完結してUPさせた時がこのサイトの
最期の日だと自分に戒めてます。(むちゃくちゃだな…。)
でも、とりあえずはまだまだ続けるつもりです。
私も他の方のテニプリドリームを密かに応援してるので、
微力ながら自分も一緒に頑張ってるんだと思うと心強いです。


ここまでお読みくださった方、ありがとうございました。
2007.8.8.