ドキドキ体育祭




 「先輩、見つけやすい所にいてくださいね?」

部室で1年の越前が言って来た。

 「はい?」

は越前の言葉の意味がわからないという風に生返事をした。

 「越前。お前なぁ、1年ごときで先輩に頼めるわけねーだろ。」

2年の桃城が越前の首を絞めた。

 「苦しいっすよ、桃先輩。
  大体、カードにマネージャーって書いてあったら、
  先輩しかいないじゃん。」

 「お前には当たらねーな、当たらねーよ!」

桃城が笑った。

 「桃、それを言ったら、3年が優先だにゃ。
  そう何度もちゃんを引っ張ってったら、
  ちゃんが可哀相だぞ!」

菊丸が部誌を書いてるに飛びついた。

 「ねえ、何の話?」

はやっと部誌から顔を上げてレギュラー陣を見回した。
不二がニッコリ笑いながらも、にくっついてる菊丸をペリッと引きはがしながら言った。

 「ほら、青学の体育祭の男子種目には有名な借り物競争があるじゃない。
  みんな、どうやらを狙ってるみたいだよ。」

 「狙ってるとは人聞きの悪い事を言うな、不二は。」

今度は乾が不二に絡んできた。

 「カードの書かれてる指示に従うだけだ。
  それが同級生だろうが、先輩だろうが、
  カードの内容と合致していれば問題はないはずだが?
  なあ、手塚?」

 「・・・俺に振るな、乾。」

手塚がむっとした。
いつも分が悪くなりそうになると手塚に声をかけてくる乾の気が知れない。
不二に睨まれるのは俺なんだぞ、と手塚はだんまりを決め込んだ。

 「まあまあ、その時になってみなければわからないことなんだし。
  さんがダメって言えばそれまでなんだし。」

大石はこれまたいつも通りに中立の立場をとった。

 「そっかあ、明日の体育祭のことを言ってたのね?
  私、借り物競争、好きなのよね〜。」

不二の気持ちなんかお構いなしにが笑って言った。

 「カードをめくって書かれてる文字を読んでる人の表情が段々変わるのを見ると、
  ああ、とっても借りにくいものなんだな、って同情しちゃうのよね。
  で、最初は先頭でも、指定されたものがなかなか見つからないとどんどん抜かされちゃうし。
  カードに書かれてたのは何なの?ってすっごく気になるし・・・。」

の目が悪戯っぽくキラキラ光っていた。

 「それじゃあ、マネージャーって書いてあったら、
  先輩、俺と走ってくださいよ?
  俺、先輩と同じ白組なんだから、得点に貢献できるし。」

越前は勝ち誇ったように言った。

 「う〜ん、走ってあげたいけど、
  私その頃、ちょうど得点集計係でどこにいるかわからないんだよね〜。」

 「じゃあ、見つけたもん勝ちっスね。」

 「越前、それはどうかな?
  まずカードの内容が問題だし、その時点でがすぐそばにいる確立は
  かなり低いはず。
  日頃の越前の運ではまず無理だな。」

乾の眼鏡が光った。

 「へっへ〜ん、俺の方が運はいいもんにゃ。
  ちゃんは絶対俺が借りるからねん!」

 「クスッ。英二の走る前に僕が走るんだから、
  絶対無理だと思うけど・・・。」

不二の言葉にレギュラー陣は一斉に固まった・・・。

そうだ、こいつがいた。
不二が何か仕掛けないはずがあるだろうか?
カードに小細工?
いや、明日の体育祭自体、暗雲立ち込める黒魔術の世界と化すかも!?

と手に手を取ってゴールを決める事など、初めから無理難題だったのだ。
せっかくのチャンスも不二の言葉に気持ちが萎えてしまうレギュラー陣。
と一緒に走ったところで、その報復は翌日絶対にあるだろうし・・・。

「じゃあ、明日。」と言って不二がにこやかに部室から出て行くと、
とたんに、不満を顕にした越前が文句を言った。

 「不二先輩、絶対ずるいっスよ!
  こうなったら先輩、不二先輩が走る時は、
  絶対見つからない所にいて下さいね?」

越前の口調にはちょっと呆れた、という顔をした。

 「そんな事できると思う?」

 「無理だにゃ!」

菊丸がきっぱり言い切った。
不二がを見つけられない事などあるはずがなかった。
彼の黒魔術は以外の相手に対しては攻撃呪文となるが、
に対しては、その居場所を掴むための使い魔召喚魔法となるらしい・・・。
とは、長年一緒のクラスメートである、菊丸の弁だ。

 「じゃあ、せめて、不二がを借りられない状況下にするっていうのはどうだ?」

 「乾先輩、そんな事できるんすか?」

 「不二先輩が走る時に、先輩が足を捻挫したってことにすれば・・・。」

今まで会話に加わらなかった海堂がぼそぼそと呟いた。

 「おいおい。海堂まで先輩借りようってか?
  でも3年が先に走るんだから、それで通したら俺たちまで
  先輩とは走れなくなるんだぜ?」

 「それでも不二はちゃん抱っこして走るかもにゃ〜。」

菊丸の発言に一同は自分たちがを抱いて走る様を一瞬思い描き、
それと同時に、そんな事をしたら不二の報復が倍増されるであろう事に顔をしかめた。

 「不二を出し抜こうとする事自体、無謀だよ。
  ここはさ、不二のカードが人以外である事を願うだけだよ・・・。」

ラケットを持ってない河村は気弱にため息をついた。

 「でもなあ、なんか悔しいっす。
  俺たちも先輩と走れないなら、
  不二先輩にも先輩と走って欲しくないっすね。」

越前の言葉に乾が頷いた。

 「・・・、そういえば、確か、
  の友達のは放送委員だったな?」

レギュラー陣の会話に苦笑しつつ、静観していたは、
乾に突然尋ねられて困惑した。

 「そうだけど・・・?」

 「ふっ、協力してもらえるよな、?」

は自分に注がれるレギュラー陣の食い入るような視線に
拒否できない事を悟った。















体育祭当日。
昼休み前の競技は青学恒例、男子全員による借り物競争。
物ならず、先生やら来賓が借り出されるのは言うまでもないが、
内容によっては男子からの求愛とも取れるカード出現に、
全校女子の期待と興奮はいやが上にも高まる・・・。

レースは3年生から始まった。



 「さあ、青学恒例男子による借り物競争のスタートです。
  カードは運次第!
  カードに書かれた内容に当てはまるものをいち早く探さねばなりません。

  あ、トップはどうやら青学テニス部の大石君です。
  来賓テントにまっすぐやって来ます。
  校長ご指名のようです!
  カードの内容は、どうやら学園で一番偉い人らしいです。

  校長先生、頑張って走ってくださいね〜!」

実況中継はがやっていた。
本来なら放送委員のが担当するところだったが、乾の画策で、借り物競争の間だけ、
来賓テントの隣でレースの模様をが中継することになったらしい。
そうすれば、さしもの不二にも連れ出す事は不可能というレギュラー陣の見解だった・・・。


 「ふ〜ん、はあそこにいるんだね?」

不二は不敵な笑みを漏らした。




 「さあ、次の組がスタートしました。
  先頭は・・・青学人気NO.1の不二君です。
  カードの内容は何でしょう?
  あ、来賓テントの方へまっすぐにやって来ます・・・。」

 「、おいで!!」

不二はにこやかに微笑むとの方に手を差し伸べた。

 「え、え〜と、不二君。
  カードの指定は何?」

 「青学で一番大事なもの。
  僕にとってはしかないからね?」

 「ちょ、ちょっと///。今、放送中・・・。」

 「そうだな、1年の時の誕生日には手作りケーキもらったし、、
  2年の時は手編みのセーターだったし、
  去年のクリスマスには公園でのファースト・・・」

 「きゃあ〜////。」

は真っ赤になって立ち上がった。
不二はの手を掴むと、それでもまだマイクに向かって叫んだ。

 「僕の一番大事なは僕の彼女。
  みんなのマネージャーじゃないから、そこのところはよろしくね!」

あっけにとられる先生方や生徒を尻目に、
不二は嬉しそうにを引っ張ってゴールへと走って行った。

テニス部のレギュラー陣は全員肩を落とした。
不二に小細工が効く訳がなかった・・・。









 「周助〜、何もあんなところでばらさなくても。」

まだ赤くなったままのを愛しそうに見つめながら不二はニッコリした。

 「うん?がみんなの肩を持つようなことをするから・・・。
  僕たちが付き合ってること、ちゃんと言っておかないと、
  あいつらはの事を公共物みたいに扱うからね。
  まあ、これで全然周りを気にしなくていいから
  僕としては嬉しいけどね。」


全然周りを気にしなくていい・・・それは、天才・不二周助だけにまかり通る事!
は借り物競争以降、全校生徒の注目の的であったのは言うまでもない・・・。








  The end



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☆あとがき☆
  菊丸  「乾〜。成功率何%だったのかにゃ?」
  乾   「ああ、菊丸か。
       不二にデータは取らせて貰えないんでね。
       成功率なんてある訳がないだろう・・・。」
  菊丸  「・・・。」