新入生、歓迎します! (赤也編)
「あーあ、もういいっスよ。
俺が これ着て新入生を勧誘しますから!」
事の発端は大体真田副部長にその原因がある。
なんたって他の部活の奴らのような大々的な新入生勧誘はやらないと、
毛筆で書かれたポスターを1枚手渡されて
「これで来ないようならそれまでの人材しかいないという事だ!」
なんて押し切られちゃって。
あの幸村部長が何もフォローしてくれなかったのも
今になってみればこの事の伏線だったのではないだろうか、と危ぶまれる。
でももう売り言葉に買い言葉、言ってしまった言葉は俺だって引っ込める気は無い。
マネージャーの先輩を拝み倒して、コスプレ路線で集客しようと試みたのに、
その思惑はあっけないほど簡単に、まるで呪詛返しを食らったかのように
わが身に降りかかってきてしまった。
あーあ、ミス立海大のトップ3と言われた先輩が手伝ってくれれば
こんな思いはしなくて済んだのに…。
それもこれも番狂わせの丸井先輩のせい。
赤也が、借りてきた衣装を着こんで部室の外に出てみれば、
まるで後輩の事なんてそっちのけで今にもキスしそうなくらい顔を寄せ合ってる丸井先輩たちに
赤也は思わず、目一杯やけくそに愛想笑いをして見せた。
「丸井先輩vv、お待ちどうさま!」
ああ、ああ、自分でもキモイと思ったけど、
でもこれでも結構そこらの女子より可愛いと思ったんだぜ。
先輩なんて固まって口が半開きになってるし、
丸井先輩なんてすっげー驚いたくせに、その後、人の事見てげらげら笑ってるし。
「お前、…な、なんだよ、…それ。
に、似合いすぎだっつうの!!」
「丸井ったら…笑いながら…言ったら可愛そう。
だ、だけど、…赤也、か、可愛い!!」
可愛いって言っておきながら腹を抱えて笑い転げる二人は
はっきりいってムカツク。
「あっ、腹痛ぇ〜。
けど、しゃべんなきゃ、ぜってぇバレねーよ。
つうか、俺、このまんま3年の廊下を一緒に歩きてぇくらいだよ。
真田なんか赤也だなんて気づかねーぜ、絶対。」
丸井先輩もよく彼女の前でぬけぬけと言うよな。
先輩より俺の方が可愛いって言ってるようなもんスよ、それって?
「え〜、私も赤也連れて歩きたい!!
私、こんな妹が欲しかったのよね。」
うわっ、マジで洒落になんねーよ。
大体なんで姉妹なんだ?
新入生勧誘に関係ねーじゃん。
「先輩、いい加減にしてください!!
俺、真面目に勧誘して歩くつもりなんスから。」
「あはは、わりぃ。
でも、ククッ、お前、そのまんまマネやれば?」
涙目の丸井先輩が先輩じゃなかったら
俺の右拳が的確に小刻みに震えてるお腹の皮にめり込んでる所だと思ったけど、
それでも丸井先輩が勧誘に付き合ってくれるって言うから我慢したんだ。
そう、俺は我慢した。
自分でも成長したと思ってるよ、キレなかったんだぜ、この俺が。
1年坊主どもの前でにっこりスマイルを振りまき、
丸井先輩の「うちにはこんな可愛いマネがいるから、シクヨロ!」なんて言葉にも
サービス精神倍増で投げキッスなんてしてみせたら
なんだか訳わかんないうちにファンクラブもどきまで出来てしまった事実に
俺自身頭が痛くなる始末。
「赤也、お前 素質あるよな。」
丸井先輩がニヤニヤしてる顔にもう突っ込む元気もなくなった頃、
渡り廊下の向こうから幸村部長がやってくるのが見えた。
部長だけなら堂々とおちゃらけて見せたものを
ふとその横には幸村と遜色なくかなり目立つ美人がいて
赤也は自然と丸井の体の後ろに隠れるように後ずさりした。
「おっ、ミス立海大のじゃねーか。
幸村と並ぶとほんと学校って感じがしねーな。
相変らずバックに花が飛んでてもおかしくないカップルだよな。」
丸井はなんとなく身を縮こまらせている赤也に気づくことなく
幸村に軽く手を上げて上機嫌で呼びかける。
「おう、幸村!
そっちもすげぇがこっちもすげぇだろ?」
「やあ、ブン太。
随分可愛い子を連れてるじゃないか?」
笑顔で近寄ってくる幸村の声は赤也には分かりすぎるほど分かる。
絶対楽しんでる!
けれどできるなら、このまま自分にあまり触れないで
通り過ぎて行って欲しいと赤也は心の中で念じるのだが
どう考えてもあの部長がこんな場面を見逃すはずもなく、
赤也はもじもじと俯くしかなかった。
「だろ?
これで今年は新入生倍増だぜ。」
「真田が知ったら大変だよ?」
「いいんじゃねーか、入部の動機なんてよ。
どうせ見込みのある奴だけ残るんだしな。」
「…テニス部ってもっと硬派だと思ってたけど。」
それまで黙って幸村の隣に立っていたがそう呟くと
幸村はクスクスと笑い出した。
「はこの趣向が気に入らないらしいね。」
「趣向ですって?
私、テニス部の趣向なんてどうでもいいんですけど。」
「は相変らずお堅いなぁ。
今時キツイだけの部活なんて流行らないんだぜ。
可愛いマネでもいねーとさ。」
丸井がポケットに手を突っ込んだままうそぶくと
はちらりと丸井に軽蔑の眼差しをくれると1歩赤也の方へ進み出た。
「そんな事はどうでもいいの!
可愛いマネならさんがいるでしょ。
後輩に女装させるのは幸村の趣味なの?
それとも丸井の趣味?」
「は、はぁ?
なんでそうなる訳?
何ムキになってるんだよ。
俺らの部活がどんな勧誘したって
には関係ねーだろ。」
何がそんなにを不機嫌にさせてるのかさっぱり分からない丸井は
それでもその矛先が赤也に向かってるのを察知すると、
自分の影に隠れてる赤也をの前に無理やり押し出した。
「赤也、部外者は口出しするなって言ってやれよ。
大体これは赤也が自分で思いついた案なんだぜ?」
「わっ、呆れた!!」
は俯く赤也にあからさまに不機嫌な声で畳み掛けた。
「俺の事を男として見て欲しい、って言ってたのはどこの誰でしたっけ?
随分 可・愛・い・わ・よ、切原君!」
「ちょ、ちょっと待った。
今聞き捨てならない事聞いたぞ!?
おい、赤也、お前そんな事ほんとに言ったのか?」
丸井が驚くのも無理はない、と幸村は事の展開に
ただ一人満足そうに傍観している。
赤也の動揺っぷりといったら
それこそ部室で真田にいかがわいいエロ本を見つけられた時以上だった。
と言えば、3年連続ミス立海大に選ばれた有名人であり、
柳と共に常に学年トップを争うほど優秀で、
しかも弓道部の主将も勤める男子憧れのマドンナである。
その彼女に赤也が恋心を抱くのは誰も非難はしないだろうが、
無謀にもに告白めいた事をしていようなどと誰が思うだろうか?
可愛い後輩が先輩に憧れてなつく図は想像できても、
赤也が男としてこの才色兼備なにふさわしいかと言うと
どう贔屓目に見ても赤也に勝機があるとは思えない。
ましてこんな可愛いメイド服着た赤也は
ふざけた年下の男の子そのもののようで。
「ほんとお子様ね。
先輩の言いなりでそんな格好までしちゃって。
どうせさんに着せようと思って断られたんでしょ。
やれもしない事を言うのは賢明じゃなくてよ?」
まるでお見通しだと言わんばかりののその言葉で
赤也の頭の中で何かがぶっちぎれた。
「…んで、そんな事言うんスか。」
「だってお子様じゃない。」
「いつもいつも俺を子供扱いして…。」
「だって本当の事だもの?」
今度は拳を握り締めたまま、唇をかみ締めながら赤也がに詰め寄る形になっていた。
「大体何スか?
新入生勧誘でこんな格好するのが幼稚ですか?
テニス部のためにやってる事がかっこ悪いっスか?
そんなに外見にこだわるんスか?」
「えっ、あ、その…。」
赤也が自分に対してこんなに怒った姿を見せた事がなかったから
は思わずその剣幕に押し切られるように後ずさりする格好になってしまった。
それが赤也に自信を付けさせてしまったのか、
一歩、また一歩とに近づけば、
視線を逸らせぬ程真剣な面持ちの赤也に反論する術もなくして
ついには背中にひんやりと当たる壁には困惑していた。
やばくねぇと幸村に耳打ちする丸井に
幸村は余裕の笑みで、面白くなりそうだね、と丸井を制止する。
「どうだったら俺の事、男だと思ってくれるんスか?」
赤也はそう言うと、の目の前でメイド服のボタンを外しだし、
上半身だけ裸になってに覆いかぶさるように壁に両手をつくと、
の動きを封じるように顔を近づけた。
「俺は先輩のこと、美人だとか頭いいとか、
年上だとか、そんな事全然こだわってません。」
そりゃ、いちいち気にしてたら告白なんて出来ねーだろ、と
丸井は突っ込みそうになって慌てて口をつぐんだ。
「俺が一方的に先輩の事好きなだけで、
俺と同じくらい好きになってくれれば嬉しいけど、
そうじゃなくても、少しでも好きでいてくれればそれだけでいいっス!!
だけど、年下だとかお子様だとか、
そんな言葉で一括りにされて、本当の俺を見てもくれないなんて、
スタートラインにも並ばせてもらえないのは納得できないっスよ!」
さすがに鍛えられている赤也の上半身は無駄な肉がなく
精悍な広い胸は圧迫感があるだけには上気した頬を隠すことも出来ずに
近すぎる赤也の体温に眩暈がしそうだった。
「は、反則…。」
「規則なんて初めからないっス!」
そのままの唇に赤也の唇が重なろうとした瞬間、
赤也の髪が後ろからものすごい勢いで引っ張られた。
「い、いたたたた!!!!!」
「はい、そこまで。
公衆の面前でしていい事かどうかぐらい考えようね、赤也!」
後頭部の痛みに耐えかねて赤也がその場にうずくまると
幸村はくすっと笑った。
「もいい加減素直になったら?」
「っ////」
「赤也の事、とっくに好きなくせに。」
「ほんとっスか?」
幸村の言葉にぱーんと表情の明るくなる赤也だったが
の捨て台詞にこの先1週間も悩まされる事になるとは
赤也もさすがに思いもしなかった。
「そこまで迫っておいて、
キスもまともにできないお子様は願い下げよ!」
真っ赤になったがパタパタと走り去るその背中を
赤也は呆然と見送っていた。
「赤也、落ち込むなよ。
ありゃ、どう見ても見込みがねーわけじゃないからよ。」
丸井がしゃがみこんだまま固まってる赤也の肩にそっと手を乗せると
赤也はやっとのろのろと起き上がった。
「つうか、幸村が止めなきゃよかったんじゃねーのか?」
「あはは、ごめん。
だけども女の子なんだからさ、
俺たちがいる前で赤也がキスしたら
すっごく根に持ちそうだったしね。
ま、あれだけ赤也の裸体を間近で見たんなら
当分意識しまくりで、簡単に落ちると思うけど…。」
「そ、そうかぁ?」
丸井は屈託なく笑う幸村に呆れつつも、
どちらにせよ赤也の大変さは当分変わらないだろうと同情するのだった。
THE END
BACK
★あとがき★
赤也は負けず嫌いだから
きっと幸村に張り合って
毎日筋トレを欠かさない子なんだと
勝手に思ってます。(苦笑)
立海大のメンバーって
脱ぐと凄いんです…みたいな?(おいおい)
2007.5.13.