動かざる君に恋して








 「た、たるんどる!!!!」



が立海大のランチルームに現れるや、いの一番に真田の大声が飛んだ。

は「へっ?」と相変わらず能天気にへらへら笑っている。



 「はちゃんとできんのか?」



眉間に皺を寄せて、それでも貴様は女か?と小ばかにしたように真田が睨む。

それでもそれは毎度のことだから、は何を言われてもへこたれない…。



 「え〜?これでも一生懸命走って来たのに。」

 「一生懸命?どこがだ?
  そんなだらしのない格好のどこが一生懸命なんだ?」

 「だーかーらー、さっきまで体育だったんだよ?
  急いで来ないと学食のパン、売り切れちゃうじゃない。」


はサンドイッチやクリームパンやパック牛乳をその腕からドサッと広げて見せた。


 「お前は女らしくという言葉が理解できんのか?
  なんだ、そのスカートの下のハーフパンツは?」

 「やだな。この間、真田君がスカートの丈が短過ぎるとか言ってたじゃない。
  これなら問題ないでしょ?」



確かに短過ぎるスカートの丈を注意したこともある。

だが、だが、スカートの下に体操着とはミスマッチではないか?



 「まあ、いいじゃない。」


傍らに座って幸村はクスクス笑っている。


 「幸村、お前ももう少し注意したらどうだ?
  こんなだらしのない奴とよく一緒にクラス委員が出来るもんだ。」

 「そんなことないよ。
  はとっても真面目にやってくれてるけど…。」

 「どうせ幸村がフォローしてるんだろ。
  って、、髪ぐらい整えて来れんのか?」


は振り乱れていた髪を慌てて手櫛でなでると、
そそくさとパック牛乳にストローを突き刺した。


が牛乳を飲みながらチラッと真田を見上げると、
ピキッと真田のこめかみの血管が切れる音を聞いたように思った。


 「なんだその胸元は?ボタンもはめてない。
  ネクタイはどうした。
  ああ、本当にお前を見ているとイライラする…。」


幸村は弁当の包みを開きながら呆れたようにため息をついた。

 
 「真田。そんなに嫌なら見なけりゃいいだろう?」






見るなと言われても、こうして3人で昼食を取るようになったのはいつからだったか?

も前はこんなにだらしのない奴ではなかった気がする。

黙って笑みを浮かべていればそれなりに可愛い奴だと思うのに、
なぜかだんだんひどくなってきたような気がする。

毎日毎日小言を言われても、俺の前に現れるの姿は、
一向に直そうとする努力がみられない。



 「真田って許容範囲が狭すぎないか?」

 「な、なんだと?」

 「だってそんなに目くじら立てるほどでもないと思うけどね。
  体育館から学食までかなり距離はあるんだし、
  体育の授業を終えて購買部のパンを買うのは至難の業なんだから。」




それはそうだが…。


幸村がやんわりとの肩を持つように言えば、
真田もそれ以上は文句の言いようがなくなる。

諦めて真田は自分の弁当を取り出す。

ふと、横の幸村の弁当を覗き込むと、
今日のはいやに豪勢な弁当だとさすがの真田も目が釘付けになった。

そんな真田の顔が面白かったのか、
幸村が弁当箱を真田の方へ押しやった。


 「これ、おいしそうだろ?」

 「あ、ああ…。
  どうしたんだ?今日は何か特別な日だったか?」

 「ううん、そういう訳でもないけど。
  この玉子焼きなんて芸術的だよ。
  真田、味見してみない?」


にっこり笑う幸村を訝しげに思いながらも、
丁寧に作られた弁当を前に断る理由もないなと、真田は箸を伸ばす。

はというと、何故だか目を大きく見開いて、
真田の箸の先の黄金色の玉子焼きの行く先を見つめていた。




 「どう?」

 「ああ、美味いな。
  これはまた絶妙な甘さ加減だ。
  俺はこの位が好きだな。」


真田の言葉にの顔がにやけている。


 「ま、には絶対無理な味加減だな。」

 「むっ!」

 「お前のような大雑把な人間にこんな美味い物が出来るわけがない。」

 「そんなこと…。」

 「絶対無理だな。
  が作ったものなんて、食べられる訳がなかろう?」





真田がきつい言い方をすることはいつものことで、
も今までは何を言われても平気そうに笑っていたのに、
今、真田の目の前にいるはぎゅっと唇をかんで目を伏せている。



 「今……、言った。」


どこか不満そうな抗議の声が小さく漏れた。


 「何だ?」

 「今、美味しいって、言った。」




真田が何のことだ、と言わんばかりに呆れた視線をに投げかけるものだから、
ほうっとため息をつくと幸村が真田に向き直った。


 「真田。このお弁当はね、が作ったものだよ。」



真田は食べてなくなった卵焼きの空間を数秒見つめ、
俯いたを見つめ、そうして最後に幸村の顔を見やると、
何に思い当たったのか、急にがたんと立ち上がった。




 「す、すまん、幸村。
  そうだったのか。
  二人がそういう仲だったとは知らなかった。」

 「真田?」

 「いや、何だそういう事か。
  、悪かったな。
  俺は、邪魔していたんだな。」



そのまま自分の弁当を掴むと、真田はさっさと席をはずすと、
そのまま食堂から立ち去って行った。






 「全く、どうしてそうなるかなぁ?」


幸村はすばやく残された弁当を包み直すと、
それをの前にコトンと置いた。



 「ほら、早く行かないと困るんじゃない?
  動かないって思っていたものがあらぬ方向へ動き出しちゃったよ?
  手遅れにならない前にちゃんと言った方がいいと思うけど。」


幸村の優しい言葉に頷くと、は目から零れ落ちそうになっていた水滴を
指先ではじいた。












        ********










真田はずんずんと廊下を通り抜けると自分の間の抜けた行動に腹が立っていた。

の乱れた髪も、はだけた胸元も、
みんな幸村へ向けられたアピールだったのだと気付いた。

真田に叱ってもらいたいんじゃなく、幸村に優しく諭されたがっていたんだ。

それをいつもいつも俺が邪魔していたんだ。

そう思うと自分が滑稽だった。

なんだ、も女だったんだと気付いた。

かまってもらいたくて、かまってもらいたくて、
そんなの姿を思い出すと、真田はなぜか胸を締め付けられるような感覚に
思わず立ち止まってしまった。



ああ、俺の方があいつを放っておけなかったんだ。





 「真田君…。」


聞きなれた声に真田はどきりとする。

振り返ると、走ってきたのかやっぱり髪を振り乱したままで、
なんだかくしゃくしゃになった困った表情のと視線がぶつかった。



 「私、真田君に食べてもらいたい!」


が差し出す弁当を見つめたまま、真田は動こうとしない。


 「本当は真田君に食べてもらいたくて作ったの。」

 「だが…。」

 「そのまま渡しても食べてくれないだろうからって、
  幸村君がまずは味見させてからって言うから…。
  だけど、本当は真田君に食べてもらいたいから。」


は必死だった。


 「真田君が私の事見てくれるならって思ったけど。
  でも、真田君がちゃんとしてる子が好きだって言うんなら、
  私、ちゃんとするから…。」


また泣きそうになってるを見て、真田の心がざわついた。

自分にまっすぐな視線を送ってくる黒い瞳がたまらなく好きだと真田は思った。



 「、ネクタイ持ってるのか?」

 「えっ?」

 「ネクタイ、持ってるのか?」


真田はゆっくりとに近づくと、
スカートのポケットから取り出そうとしてるネクタイをの手からスルリと抜き取った。

そうして、自分の弁当もの手に渡すと、
のネクタイをその襟元にかけた。

制服のボタンを留め、器用にきっちりとネクタイを結ぶ間、
は間近に迫る真田の顔に頬を染めていた。


 「これからは俺が結んでやる。」

 「うん。」

 「だから、泣くな。」



真田の無骨な大きな手がの顔を優しく包む。

そのままを自分の胸の中に引き寄せると、
乱れた髪をゆっくりと何度も撫で付けた。





 「私、ずっと前から真田君のことが好きだったよ。」

 「…悪かったな。気付かなくて。」

 「これからも好きでいていい?」

 「ああ。」

 「私の事も好きになってくれる?」

 「もう好きになってる。」





真田は窓ガラスに映る自分たちを見ながら、
たまにはたるんでみるか、と一人ほくそえんでいた。








The end








★おまけ★


赤也 「で、どうなったんですか?」

幸村 「うん、今じゃバカップルNO.1だよ。」

赤也 「そんなにひどいんですか?」

幸村 「もうね、真田がにべったりで離れないんだから…。」

赤也 「へ、へぇ〜。」

幸村 「この間の誕生日に、真田がなんて言ったか聞きたい?」

赤也 「は、はい、もちろんッスよ。」

幸村 「のネクタイを解いてもいいか?だってさ。」

赤也 「す、すげ〜。
    …で、副部長は解いたんですか?/////」

幸村 「そんなこと俺の口から言えると思う?」

赤也 「…。」(部長〜、目で語るのは止めて下さい!?)






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☆あとがき☆
 真田、お誕生日おめでとう〜。
全然BD夢になってないけど、大目に見てねvv
それにしてもバースデー・アルバムのジャケ写は
はっきり言って、可愛すぎてキモイ!!(笑)
真田はやはり硬派でいてほしいわ!
2006.5.21.