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風の如く
「のう、木之本。
告白するんじゃったら今日しかなか。」
仁王が机に伏せってる桜に声をかけた。
「…うん。わかってる。」
気だるさそうな声が返ってきた。
「まあ、あいつは堅物だからのう。
告白されても動じる事はないかも知れんのう。」
今日は5月21日。
立海大テニス部の皇帝と畏れられている真田の誕生日。
コート内での暴君の如きのしごきでかなりの後輩たちが毎日倒れている。
が、畏れられていてもなぜか立海大では常にトップを争う人気ぶり。
何がいいのか、時代錯誤も甚だしいほどの日本男児たる男気に、
何人もの女生徒たちが玉砕してるのだ…。
ぶっきらぼうで、無口で、
だけど一度こうと決めたら絶対引かない頑固者で、
融通が利かないほどの几帳面さがあって、
真田を見ているとどこもいい所がないようなくらいで、
それなのに、桜は真田の後姿に妙に惹かれるのであった。
「真田ってさ、いつも断る文句が同じなんだって。」
桜がため息をついてるのがわかる。
「そりゃ、仕方なか。
真田にそういう器用さはなかとよ。
いらんもんはいらん。
付き合う理由がなければ付き合う必要性はない。
ずばっと相手を切り捨てるのが己の武士道…みたいなとこあるけん。」
仁王の声は桜を慰めるかのように優しい。
「そうだね。
真田のそういうとこ、嫌いじゃないよ。
でもいざ自分がそう言われたらやっぱり凹むよ~。」
「ははっ。女心は複雑やな。」
「仁王の意地悪。
だから相談したのに。」
「ああ、悪かとよ。
じゃけん、木之本なら大丈夫や。」
「どのへんが大丈夫なの?」
「ん?…凹んだら俺が面倒見ちゃる。」
そう言って仁王が桜の手を握ってきた。
桜はぴくっとわずかに反応したが、顔を上げることはなかった。
「ごめん。仁王。
私、悪い事しちゃってた?」
「ええってことよ。
俺は男やけん、凹みっぱなしはなかとよ。
それより、木之本も勇気を出してみんしゃい。」
「うん。ありがとう。」
しばらくすると仁王の暖かい手がそっと離れていった。
やがて仁王が部室を後にする音がしても、桜は突っ伏したままだった。
しばらくして桜は自分が寝てしまっていたことに気がついた。
うっすらと夕闇が部室の窓から見える。
桜はそっと起き上がると肩にレギュラージャージが掛けられているのに気がついた。
「全くたるんどるな。」
不意に真田の声がした。
「あれっ?」
「あれっ?じゃない。
全く、部室の鍵を閉め損なってこっちはいい迷惑だぞ?」
桜はジャージの暖かい温もりに身を包みながら、
恐る恐る真田を見上げた。
けれど、そこにはわずかに微笑んでるような優しい眼差しが向けられていて、
いや、それはただ単に桜が自分に都合のいいように思い込んでいるだけなのかもしれなかったが、
部室に2人だけというシチュエーションが桜をドキドキさせていた。
「もしかして起きるまで待ってくれてたの?」
桜の問いかけに真田はため息をついた。
「まさか眠ってるとは思わなかったからな。」
「…ご、ごめん。」
「いや、退屈はしなかったぞ。」
「はい?」
「木之本の寝顔を間近で見られたからな。
可愛い寝顔だったぞ。」
桜は思わず絶句した。
真田ってこんな事さらっと言える人だったっけ?
きょとんとした桜が余程面白かったのか、
真田がくっくっとのどで笑う。
「ね、ねえ、真田。
今日、何かあったの?」
「そうだな。
何もなかったが、
あるとすれば、これからだ。」
そう呟いた真田が桜を椅子から立たせて引き寄せるのが同時だった。
それはまさに、風の如く…であった。
「さ…な…だ?」
真田に抱きしめられてるのが嘘のようだった。
いつもいつも、真田の大きな後姿に憧れていただけだったのに。
「今日は俺の誕生日なんでな。
マネージャーからプレゼントをもらうまでは帰れないと思っただけなんだが、
迷惑だったか?」
そんな甘い言葉が部室には不似合いで、
気恥ずかしくて桜は真っ赤になっていた。
「だって、真田って今までそんな素振り、全然見えなかったから…。」
「仕方ないだろう?
部の規律を乱すようなことはできんからな。」
「だけど、今のこの状況はいかがなもんでしょう?」
「ああ?俺がしたかったからこうなった。
それではだめか?」
今度は桜が笑う番だった。
「ううん。私、真田の事、好きだから///」
桜はぎゅうっと真田にしがみついた。
「真田、誕生日おめでとう!」
The end
Back
★あとがき★
ああ、すみません。
もう真田BDは全然用意してなかったんだけど、
素通りするのはやっぱり淋しいよなあ、ってんで、
つい書いてしまいました。
やる時はやる、そんな弦一郎だったらいいなあ。
2005.5.21.