初めての約束





 「先輩。」

振り向くといつものように缶ジュースを飲みながら小生意気な1年生が立っていた。

帽子をかぶったまま、小脇にラケットを抱えたまま…。



 「また遅刻!
  部長も呆れてたわよ?」

マネージャーであるもリョーマの遅刻は今に始まったことではないけれど、
やっぱり手塚同様呆れて苦笑するしかない。

何べん言っても人の言う事なんて聞かないんだから…。





 「先輩の小言も聞き飽きた…。」


ぼそっとリョーマが呟く言葉に、は胸の奥がズキンと痛む。


 「聞き飽きるほど言わせてるのは誰よ?
  でも、それももう後数日でしょ?
  こんなにわからずやの後輩がいなくなってせいせいするわ。」

心とは裏腹にの口からそんな言葉が出る。



    多分、最後まで言わない、言えない。

    君がいなくなって淋しいだなんて…。






 「あーあ、それはこっちの台詞。
  俺だって先輩の小言が聞けなくて嬉しいッスよ。
  おせっかいな先輩がいないと思うとのびのびできるし。」





    ああ、もう、ほんとにどうしようもないくらい憎たらしい奴。

    だけど、だけど、憎めないんだよね。




 「ふーん、じゃあ、アメリカに行ったら思う存分のびのびできるんだね。
  ま、もよかったじゃない。
  手のかかる後輩が減ってさ。
  その分、僕たちのマネージャー業に専念できるね?」

 「ふ、不二!」


不二はあてつけがましくの肩に手を置いた。

目深にかぶってる帽子の下でリョーマの眉が曇る。


 「ま、越前は何も心配しなくていいよ。
  僕たちがを全国大会に連れて行ってあげるし。
  もし仮にが憎まれ口を叩いていた後輩がいなくて淋しいと思っても、
  僕がをフォローしてあげるから。」


ニッコリ微笑む不二の言葉に、
はほんの少し動揺する。




    不二ったら、やっぱり侮れない。

    だけど、だけど、私は…。



 「不二先輩、余計な事はしなくていいッスよ。」


リョーマがいつになく不二に挑戦的な顔を向ける。


 「俺、別にずっと向こうに行ってる訳じゃないッスから。」


そう言うと飲みかけの缶ジュースをに差し出した。


 「もし向こうに永住する事があったら、
  先輩をもらっていきますよ、俺は。」


 「えっ///。な、何言ってるの、リョーマ君?」


突然の小生意気な後輩の言葉に動揺する



 「先輩。俺、必ず戻ってきます。
  不二先輩や手塚先輩を超えるくらい自信を付けたら、
  俺の事、もう後輩なんて思わせませんから…。
  その時は、先輩も、
  先輩としてじゃない言葉を聞かせて欲しいッスね。」


受け取った缶ジュースをぼんやり見つめてるの頬に、
リョーマがほんの一瞬キスをした。


 「約束、覚えていてくださいね?」


リョーマはそう言うとコートの方に向かって行った。







 「越前もやる時はやるって感じだったね?
  、君も素直に言ってあげれば?」


不二がの肩を押した。


押されて1歩前に出たは、缶ジュースを握りしめたまま、
リョーマの背中に叫んでいた。




 「リョーマ君、私、待ってるから。
  約束だからね!」



リョーマは片手を挙げての声に応えていた。







  The end




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☆あとがき☆
 あ〜、全然更新できないまま体調を崩し、
なんかリハビリがてら書いてみました。
 もちろん、BGMは越前の『約束』で。(笑)