立海節分物語





今日も今日とて、立海大のメンバーは練習が終わっても、
なかなか部室から帰ろうとはしないでいた。

ただただ、それは、マネージャーのがいるから…。





 「先輩、何作ってるんスか?」

のやることを興味しんしんに覗き込みながら赤也が言った。

 「あのね、もうすぐ節分でしょ?
  みんなで豆まきしようと思って。」

は切り抜いた鬼の面を赤也の顔に当ててみせた。


 「で、鬼の面…スか?」

 「そう!」

 「これ、誰がかぶるんスか?」

 「決まってるじゃない。もちろん仁王君!」

隣のロッカールームで着替えていた仁王が咳き込んだ。



 「…。」

 「ほら、仁王君の名前を逆さにするとオニでしょ?」

 (そ、それだけの理由っスか?)

と赤也は苦笑したが、
の笑顔がかわいくて突っ込まない事にする。

 「で、赤也は子鬼。
  赤也の髪の毛って、鬼の子らしいよね!!」

 「ええ〜?」

赤也を覗いたレギュラーの面々が一斉に吹き出したのは言うまでもない。



 「あとは誰がいいかなあ?
  鬼が少ないのも面白くないわね。
  仁王君が鬼なら、やっぱりダブルス・パートナーの柳生君も鬼かな。」

は楽しそうだった。

 (私も?…ですか。)

柳生が自分のロッカーの扉を閉めながら落胆した。



 「先輩、鬼役なら真田先輩が適役っしょ?」

赤也がそう言うと、は大真面目に首を振りながら答えた。

 「だめだめ。
  真田君が鬼だとしゃれにならないでしょ?
  怖すぎて嫌だもん。」

の言葉に柳や幸村は言い得て妙―と肩を震わせながら真田の隣で笑っている。
当の真田本人は(鬼とはそういうものだろうが?)と顔をしかめている。


 「でも、先輩。
  そうなると鬼役の方が少なすぎじゃないっスか?
  豆まく方が多いって言うのはズルいっスよ。」

 「そうだね〜。
  じゃあ、私も鬼、やろうか?
  一度やってみたかったのよねぇ〜。」

はそう言うと、今度は自分の顔にお面を当ててみた。

 「先輩が鬼?
  全然怖くないっスね。」

赤也の言葉にがちょっとふくれっ面をしてみせる。

 「んじゃ、俺も鬼、やってもいーぜ?
  ついでにジャッカルもな。」

 「へっ?俺もかよ?」

着替えを済ませたブン太とジャッカルは、
壁際のベンチに座って仲良くスナックをすでに食べ始めていた。

 (大体、考えても見ろよ。
  鬼役のに豆、ぶつけられっかよ?)

ブン太が真面目な顔をして
ジャッカルの首に腕を回して耳打ちした。


 「ねぇ、!」

机越しにを見つめていた幸村が頬杖をついたまま声をかけた。

 「が豆をまかなくて、福が来ると思う?
  鬼を退治しても、がいなくちゃ、だめじゃない。
  ね、だから豆まきは俺たち4人でいいんじゃない?」


俺たち…とは、幸村・真田・柳の立海3強との事を言ってるらしい。

 「になら、みんな、豆をぶつけられても文句言わないと思うなあ〜。」

幸村としてはが自分の傍にいないことに対して、
暗に不満を言ってるに過ぎなかった…。

 「そっか、福の神が来ないのは困るなあ。
  じゃさ、私、福の神を呼ぶ巫女…なーんてどう?
  うん、そういうキャラ設定も悪くないなあ。
  弓道部のに袴、借りてこようかなぁ。」

どうしてそういう方向に思考回路が行くのか、
は時として何かになりきるのが好きなようだった。

 「先輩の袴姿っスか?
  似合いますよ、きっと。
  いやあ、なんか、楽しみっスね。」

どうもと赤也はこういう事になるとノリがよくなってしまう。
豆まきなんて今更幼稚な事を…と3年生は思うのだが、
赤也とが楽しげに意気投合するのは見ていて面白くない…。

とは思いつつ、他のメンバーも少なからずの袴姿を思い描きながら、
かわいいを見れるならなんでもいいか、と納得してしまう。


が、真田だけは頭が固いせいか、
(普通の豆まきはできんのか?)と赤也をたしなめようとしたが、
その前に柳生がコホンと咳払いをした。


 「で、私が鬼役というのははなはだ心外ではありますが、
  そもそも鬼は何をすればいいんでしょう?」

紳士たる柳生にしてみれば自分が鬼役というのは少なからず抵抗があったようで、
けれど柳生とは裏腹に、
何やら悪巧みを思いついたかのように口元に笑みを浮かべている仁王が答えた。


 「鬼ちゅうのは、昔から悪い事しよるから嫌われてると。
  まあ、女子供をさらうのが一般的っしょ?」

 「ああ、それいいな!
  ね、鬼は福の神を呼ぶ巫女が憎いわけよ。
  で、今年も巫女をさらいにやって来る。
  それを守るのが巫女に仕えるガーディアン。
  どう?どう?
  普通の豆まきより面白くなりそうじゃない?」

両手を組んで天を仰ぎ見るはすでに妄想の世界に浸り、
日本古来の風習とはなんら関係ないところで盛り上がっていた。


 (ほぉ〜。ほんとに巫女をさらってええんじゃの?)

 (鬼が巫女をガーディアンから奪うっていうシナリオですね?)

 (おい、を公然と拉致しても鬼の仕業だからいいんだよな?)

 (ハンターの血がさわぐぜ?)

 (ふーん、3強の鼻を明かすのも悪くないっスね?)


鬼役はそれぞれひとつの事しか頭になかった…。


   ―をさらったままどこかで2人っきりで過ごせるチャンスかも?―


仁王も柳生も、ブン太もジャッカルも赤也も、
この時、鬼役たちはそんな甘い誘惑を抱いたため、
当然その後に、鬼として不幸な結末が来る事を忘れてしまっていた…。



 (全くたるんどる!正しい豆まきのやり方を身をもって知らしめねばならんな。)

真田は一人腕組みしたまま心の中で呟いた。



 (さて、鬼組の勝率はないにしても…。
  真田と幸村がどうでるか、だな。
  無意味なデータではあるが、これがきっかけとなって初めて現れる数値に
  俺は興味があるのだが。)

一人冷静に部員を眺め回した柳は、最後にを見つめた。




 (ふふっ。俺はを守るガーディアンか。
  巫女の仰せとなれば、俺は本気で鬼を退治するけど、
  文句は…ないよね?)

幸村は不敵な笑みを部員に向けながら、さらに…。

 (この際、君にははっきりさせてもらおうかな。
  みんなで何か一緒にやるっていうのは、
  今回で終わりにしたいからね。

  君は僕だけのものなんだから。)




やがて来る節分の日。

立海大の部室に、豆の嵐が吹き起こるはず…。







  The end


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☆あとがき☆
 いや、もうドリームとはかけ離れてますが、
どうしてもこういう物が書きたくなるんですよね。(笑)
要するに、立海大は何をするにも部員仲良く、
季節のイベントを大事にしていると…。
それが部員たちの結束力の源なんじゃないかな。(苦笑)
・・・ということにしておこう。

2005.1.24.