最悪な誕生日?





今日、10月15日は侑士の誕生日。



氷帝学園テニス部の正レギュラーを彼に持つと、
ほんと気苦労が絶えないわよ・・・とは親友のの弁。

はその正レギュラーでも、頂点に立つ跡部の彼女だから、
彼女の言葉ほど真実性に溢れた言葉はないのだろうけど、
はあんまり気にしていなかった。

そう、今日のこの、忍足の誕生日までは・・・。





 「ねえ、今日はもう忍足におめでとうって言えたの?」

 「言える訳ないじゃない・・・。」

は屋上のフェンスから運動場を見下ろしていた。
同じようにフェンスにもたれているはフフンと冷たく笑っている。

忍足は朝から忍足ファンの子達に埋もれていた。
集団とは恐ろしい。
ここぞとばかりに普段忍足に声などかけそうにない子までもが、
胸にプレゼントの包みを持って、忍足のいる所に集まってくるのだから・・・。
まるで砂糖に群がる蟻のよう・・・とは、言い過ぎの気もするが、
にしてみれば、憤懣やるかたない・・・。

 「だから、言ったじゃない?
  彼女たちはね、忍足に彼女がいようがいまいがかまいやしないのよ。
  とにかく、自分の思いを込めて、好きな人の誕生日をお祝いしたいだけなんだから。」

 「別にそれはいいのよ。」

 「まあ、は心広い彼女さんねえ〜。」

 「だって、いちいち、侑士が、
  『俺には彼女がおるから誕生日のプレゼントは受け取れんのや』
  なーんて弁解してる姿なんて見たくないもん。」

 「へ〜、なんか強がりにしか聞こえないんですけどね。」

 「あら、跡部の時だってそうだったでしょう?
  男テニレギュラーはただのテニス部員じゃなくて、
  この氷帝学園のアイドルなんだから仕方ない、って言ったのは
  だったでしょ。
  私だってその位わかってるもん。」

はふーっとため息をついた。

 「問題は侑士よ。
  いくらもみくちゃにされてるって言ったって、
  彼女をこんなに放っておいていいのかしらってこと!」

 「そんな事を言いつつ、忍足を避けてるのはどっちよ?」

も昼休みの運動場を見下ろしながらそっけなく返す。
休み時間に教室にいれば忍足はきっとに会いに来るだろうに、
はといえば、休み時間ごとにを誘っては、図書室に行ったり、
音楽室に行ったりと、まるで忍足に会うのが嫌とばかりに校内を転々としているのである。

そして昼食は二人で屋上に上がり、今に至っている。

 「忍足、きっとに会えなくて焦ってるだろうなあ〜。」

 「あら、探す気があるならとっくに見つけてくれると思ったけどな。」

 「そういう可愛くない事すると、後が大変よ?」

跡部なら間違いなく仕返しされるだろうなあ、とは苦笑した。


そこへの携帯が鳴った。

 「あ、景吾からだ。・・・もしもし。」

はフェンスから身を離すと出口の方へ向かった。

 「ちょ、ちょっと、どこ行くの?」

 「それさ、侑士が跡部に電話させたんじゃないの?
  私、場所変えるから。」

 「ったら・・・。
  あ、うん、そう、今ねと一緒に屋上にいたんだけど。
  うーん、かなりご機嫌斜めだよ。」



は跡部と話してるを残したまま、一気に階段を下りた。

忍足の誕生日になんでこんなに朝から忍足を避けまくらなきゃいけないのか。
でも、それはどうにもこうにも耐え難い光景を目の当たりにしたくないだけのこと。
忍足がきっとファンの子達にも優しい笑顔でプレゼントを受け取るであろう事はわかりきっていたはずなのに、
どうしても忍足の隣でその光景を見るのは嫌だった。

 (だって、私にどんな顔をしろって言うのよ?)




は1階まで下りると、そのまま保健室の扉を開けた。

 「今日はどうしたの?」

保健の先生はニヤニヤしながらを見ていた。

 「教室にいたくない病なんです。」

 「あらあら、それはまた大変な病気ね?」

 「5,6時間目、ここで休んでてもいいですか?」

 「授業に出れないんだったら早退すればいいだろう・・・。
  って、早退はしたくなさそうだねえ?」

の顔を覗き込みながら先生はに椅子をすすめた。
はあまり年の違わない保健の先生が好きだった。

 「あのね、先生。モテモテの彼氏の彼女って、どうなんだろう?」

 「・・・ああ、今日は忍足の誕生日だとかって言ってたねえ。」

保健の先生はインスタントコーヒーを二つ用意すると、にそのうちの一つを手渡した。

 「彼女っていう立場が一番だとは思うんだけどね、
  なんだか、時々、一番の下には二番がいて、三番もいて、
  でも、その差はほんのちょっとしかなくて、
  いつか、何かの拍子に、一番は二番に変わっちゃうことってあるのかなあって。」

はカップの中のコーヒーを見つめていた。

 「要するに忍足のことが信じられないのか?」

 「そうじゃないんだけど・・・。」

 「なんだ、自分に自信がないんだ。」

 「だって、忍足の周りにはあんなにたくさんの子がいるんだよ?
  今は私の事が一番でも、何かのきっかけで、
  私にないものを持ってる誰かに惹きつけられる事ってあるかもしれないよね?」

 「だったら余計、保健室なんてとこに逃げ込んでくるんじゃないよ。
  ちゃんと忍足の側にいなくっちゃ・・・。
  忍足の一番は私なんだって、ふてぶてしくくっ付いていればいいものを。
  まあ、にはできない相談か。」

先生はクスクス笑っている。

と、そこへ保健室の扉が大きく開いたかと思うと、
長身の忍足が息を切らして立っていた。

は驚いて、忍足の顔を見つめたまま固まってしまった。

 「先生、どうにもこうにも具合悪うて。」

 「ああ?どこが悪いって?」

 「なんや胸が苦しぃてかなわんのや。
  こう大事なもんが欠けてしもーたみたいで。」

 「はいはい。そうだろうねえ。
  ま、しばらくここにいれば治るでしょ。
  じゃ、私は職員室に戻るからゆっくりしていきなさい。」

先生はニヤッと笑うと、忍足の背中をぽんと叩きながら、そのまま部屋を出て行ってしまった。




 「なんや、も具合悪いんか?」

忍足はゆっくりの側に歩み寄るとふっと目を細めた。
はカップを机の上に置くと困ったように小首を傾げた。

 「誰のせいだと思う?」

 「なんや、俺のせいみたいやな。」

 「うーん、侑士のせいにはしたくないんだけどさ。
  今日はさ、なんかね。」

 「俺かてが側にいないだけでこんなに具合悪いんやで。」

そう言うと忍足はを引き寄せると自分の胸にを包み込んだ。

 「なんで今日は俺の側にいてくれんのや?」

 「・・・。私、侑士のこと、好きだよ。
  でも、他の子も侑士のこと、好きなんだよね。
  そんな子達の前で私、どんな顔していいかわからない。
  余裕ぶった顔なんてできない。」

 「そやなあ、のそういうところが俺は好きなんやからなあ。
  無理強いはせーへんけど、俺はいつでもどこでもと一緒がいいんや。。
  わかるやろ?
  俺の1番はや。
  それもぶっちぎりや!
  今日かてどんな女に言われよーが、の一言がない限り、
  全然嬉しないんやで。」
  
忍足の低くて優しい声が耳元で心地よく響く。
やっぱり私も侑士だけが好き。

忍足はをぎゅっと抱きしめた後、顔を上に向かせると、その唇に口付けようとした。
ところが・・・・!?

♪〜

 「全く誰や、こんな無粋な事するんわ。」

を抱きしまたまま、忍足が携帯を見る。
おもむろにボタンを押す。

 「岳人。今思いっきりいいとこなんやけど。」

 「忍足、ごめん!!
  うっかり忍足の居場所、言っちまったぜ。」

 「岳人のアホ!」

 「どうしたの?」

 「、ここはまずいわ。逃げるで?」

 「えっ?何?」

 「ええから、走るで!」

忍足はの左手を掴むとそのまま保健室を飛び出し、廊下を走り出し、
昇降口へと向かった。
走りながらも、忍足は携帯をかけていた。

 「ああ、跡部。
  悪いけど、今からと抜けるわ!
  後はよろしゅう頼むで。」

が気づくと何やら後ろの遥かかなたでキャーキャーわめいてる集団が見える。
どうやら忍足のファンの子が忍足を探し回っていたらしい。
相手も今日中にプレゼントを渡したいと必死なんだろうなあ、と思うと、
なんだか可笑しくなってくる。
みんなの想いは忍足には届かない。
だって忍足の手に一番に繋がってるのはだけ。
とファンの子たちとの距離はどんどん離れていく・・・。


忍足と一緒に走りながらは叫んでいた。

 「ねえ、侑士!」

 「何や?」

 「お誕生日、おめでとう!」

 「あのなあ、この状況わかって言ってんのか?」

 「うん。最悪な誕生日だね。」

 「ああ?」

 「でも一生忘れられないね。」

 「そやな。」

 「で、どこまで逃げるの?」

 「決まっとるやろ。
  このまま俺んちまで走るんや。」

 「えっ?」

 「一生忘れられない誕生日の続きや!」

忍足はものすごく嬉しそうだった。
もしっかり握り締められた手がとても嬉しかった。








  THE END



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☆あとがき☆
 10/15、忍足君、お誕生日おめでとう〜!
 このサイト開設当初は不二の次にオッシーが好きだったのに、
 最近は見る影もありません・・・。(ごめんね〜)
 それにしても、モテル彼氏の誕生日は彼女にとっては辛いかもね。
 ひとつやふたつ位のプレゼントをもらうなら許せるかもしれないけど
 (いや、それ位なら突っ返せるか・・・?)
 膨大な量じゃ、受け取るなとも言えないし。
 ここはもう、愛の逃避行って事でvv(笑)
 だって、保健室じゃいくらなんでもゆっくりできないでしょうよ!?(^▽^;)