同窓会で捕まえて







別に放っておいた、って訳じゃない。

俺的にはいろいろ未来予想図みたいなもんがあったちゅうか、
いや、ほんまはめっちゃ心配やったんやけど、
それでも大丈夫や、みたいな動物的カンなんやけど
そういうもんがずっとあって、そうしてついにその時が来た、って思うてて…。



とにかく俺は今夜、ビシッてキメルとこやったんや。





 「はまだ来てへんの?」


大学卒業して久しぶりのテニス部の同窓会で俺は懐かしい東京に戻って来た。

みんなはそのまま氷帝の大学部に進んだんやけど
俺だけは当初からの親との約束で京大の医学部に入った。

青学の手塚や立海大の幸村あたりはプロの世界にすんなり進んだみたいやったけど、
氷帝のテニス部でプロになった奴はほとんどおらんかった。

まあ、宍戸とか鳳なんかは教師になったから
今でも学校の部活指導ちゅう立場でかかわっとるらしいけど、
俺は医者になるために実家に戻ったから在学中はテニスも気晴らし程度やった。

それでもこうして皆が集まれば、
氷帝の輝かしいあの1ページを自分らが作ったちゅう話で盛り上がるのは
今も昔も変わりはないけど、どこか大人びた俺らの口調はおっさん臭くてしゃーないわ。

そう思う反面、共有できる思い出があるちゅうのは照れ臭くても
なんややっぱり嬉しいもんで、俺たちの話は留まる事がなかった。




 「ああ、一応来るって言ってたけどよ、
  なんか遅れて来る、つってたな?」

 「それより、跡部は〜?
  最近忙しそうだから遊んでくれないんだよねー、跡部。」

岳人の背はやっぱりあんまり変わらへんし、
ジローだってあのくしゃくしゃの髪型は今も変わってへん。

そういうところにほっとするんは、こいつらといる時は
無条件で自分もあの頃と変わってない部分をあいつらに
感じて欲しい、思うとるからやろ。


でもな、あいつに対してだけは大人になった自分が
何もかも自分の力で決められるちゅうのをちゃんと見せなあかんねん。

もう待たせる訳にはいかんやろ、なあ、


 「そう言えばさ、跡部、この間ちゃんと一緒に出かけたんだよね〜。」

普段は時も場所もわきまえないでぐうたら寝てるだけやと思うてても
不思議な事にジローの奴は時に誰も知らん情報を知ってたりする。

 「なんでジローは知ってるん?」

 「ああっと…、暇だったからちゃん誘おうと思ったらさ、
  跡部と約束してるからって断られたんだよね〜。」

を誘おうと思った、というとこに引っかかるんはあったんやけど、
俺の知らない所でと跡部が付き合うてたなんてそれはあり得へん。

あり得へんはずやけど、なんやろ、この忌々しい寒気は…。

 「忍足ってさ〜、ちゃんとちゃんと連絡取り合ってなかったでしょ?」

 「なっ、そんなんせんでも…。」

 「激ダサ、だな!
  トンビに油揚げ取られても後の祭り、なんてな。」

俺の隣にどかっと座った宍戸が生ビールを追加するのを苦々しく見やる。

学生だった頃には人の恋愛話なんか絶対首を突っ込まなかった奴なのに
今は女子生徒のお悩み相談にも臆することなく乗ってやってるちゅうことか。

いやいや、問題はそんな事じゃのーて。

 「お前らなー、…。」

俺が声を荒げたちょうどその時、
俺らが予約していた和室の入り口が勢いよく開いたかと思ったら
跡部の上機嫌な声が部屋中に響いて来た。

ほんまにあいつは昔から注目されるんが好きな奴や。


 「おい、お前ら、待たせたな!」


入り口付近の後輩どもが歓声を上げた中、
跡部は俺たちの方へ視線を移すとあり得ない行動を見せ付けて来た。

靴を脱いで跡部の後ろから入ってきたのは
俺が心待ちにしとった最愛の彼女のはずなのに、
彼女の腕に抱かれていた子供をまるで当然のようにひょいと
跡部が受け取るとは長い髪をかき上げるようにして跡部に笑いかけていた。


なんや、その笑顔。

そんで、あのガキは何なんや?


俺は浮かした腰を元に戻して
跡部たちが後輩たちにいちいち挨拶しながらこっちに向かって来るのを
辛抱強く待った。

子供を抱いてる跡部の姿は洒落にならんくらい似合いそうにないのに
そのガキの髪の色が跡部と同じ薄い茶色なのに気づくと
俺の心の中はざわざわと穏やかではなかった。

客観的に見れば1組の親子に見えなくもない構図に
いくらなんでもそれはあり得へん、と俺は必死で心を落ち着かせようと
いくらも残っていないグラスのビールをあおった。


 「跡部ー、全然似合わないねー。」

真っ先に声をかけたのは大胆不敵なジローの奴で
貸して貸してと、まるで新しいおもちゃをせびるように
跡部の腕の中からその子供を抱き取った。

ほんま、ジローは昔っから物怖じせん奴やったと感心してしもうた。

当然俺の顔は間抜け面だったらしく
跡部は口の端だけで笑うとわざとらしく傍らに座ったに耳打ちした。

は跡部の言葉にくすりと笑いかけて視線は俺の方に向けていた。

久々に見るはとてもきれいやった。

ちょお痩せたような気もするけど
大人っぽくなったはほんまに俺の自慢の恋人や。

高校の頃も俺と付き合いながらさんざん跡部の彼女やないかと
迷惑な噂話がまことしやかに流れた事もあって、
あの頃はほんまにめちゃ跡部をやっかんだものだった。

そりゃ今だって内心穏やかじゃないっちゅうか、
が俺んとこにすんなり来ーへんのは凹むんやけど、
ここんとこずっと連絡をせんかった俺の事を
怒ってるんやろなと思えば、まあまあ言いたい事も我慢せなあかんのや。




 「ねえねえ、それでこの子、跡部の子なの?」

 「あーん、どっちに似てると思うんだ、ジロー?」

跡部は相変わらず俺を見て笑っていやがる。

全く、そんなまどろっこしい事せんでも
俺はもう嫉妬したり動じたりせーへん、って。

 「えー、どっちって…。
  うーん、可愛いからちゃん、かな?」

ジローが高い高いを連発するおかげで、
その子供はキャッキャと笑っているが、
ジローが子供をあやす姿も全く似合ってない。

けど、まああんだけジローが無茶苦茶にあやしても
喜んどるちゅうのは案外大物になりそうな…、
いや、あかん、あかん、ガキはどうでもええねん。

そんなことより何では黙ったままなんや?

跡部と一緒って、どんだけ俺を焦らすつもりなんか知らんけど、
それでも大人の男は馬鹿みたいに嫉妬したらあかんのやろな。

こう余裕ぶった顔で…?


 「じゃあ、ちゃんの子なの?」

 「そんな事ある訳ねーだろ?
  、いい加減その嘘っぽい家族ごっこは止めろよな?」

一応教職の常識人らしく宍戸が横槍を入れると
は悪戯っ子のような笑みを浮かべて指を突き出した。

 「1、恋人が構ってくれなくて行きずりの関係上できちゃった子供、
  2、全然連絡を寄越さない恋人とは違って優しくしてくれた上司との間の不倫の子、
  3、今交際中の彼が出張中でその間に預かった相手の連れ子。
  さあ、どれでしょう?」

 「えっ? それ、マジかよ!?」

岳人が驚いたように素っ頓狂な声を出した後、
こわごわ俺の方を振り向くから俺は盛大なため息しかつかれへんかった。

 「取り敢えず、跡部との間の子、ちゅうのはないんやな?」

 「俺はそれでもよかったんだがな。」

この際、跡部の発言は完全無視を決め込んで
俺はほんまに何を言わせたいんやとの方をじっと見つめてみると
案の定姫さんはご機嫌斜めのようでぷいと横を向く。

ああ、拗ねた顔も久しぶりやん、なんて思うと
ちょい口元が緩んでしまうんやけど、
そろそろこの事態をなんとかせな、仲直りに時間がかかりそうなんで
俺はやっと席を立つとの方へ向かった。


 「久しぶりやな?」

の左隣りに座るとは俺の方を見る事もなく
テーブルの上のウーロンハイを取り上げようとした。

俺は黙っての手首を掴むとそのグラスを取り上げた。

 「なあ、真面目に話、したいんやけど。」

俺の言葉に周りがヒューヒューと囃し立てた。

まあ、今更照れる年でもないし、
本当なら二人で話す事なんやけど
それでもこの良き仲間たちの面前でけじめをつける事が
俺のへの罪滅ぼしだと思うてもらいたいんや。

 
 「今更?」

 「あぁ〜、今更なんて言われるときっついなぁ。
  でも今だから言えるねん!」

言葉や態度は素っ気無いけど、それでも
ちゃんと俺の話をいつでも最後まで聞いてくれてた。

放ったらかしにしてたんはほんまに悪い思うとるけど
構ってやれんほど俺は全ての時間を俺のために使うてきた。

学生だった俺が親には何も言えんほど力不足で
を守ってやる力が全くなかったから俺は何も言ってやれんかった。

だから今、ここで言うんや。


 「めっちゃ待たしてしもうたけど
  やっと胸張って言えるんや!
  返事はわかっとるけど、
  、俺と結婚してくれん?」

 「えっ?」

 「あんなぁ、驚くとこやないやろ?」

俺の突っ込みに勝手知ったる仲間たちはどっと笑う。

まあ、笑われるのも無理ないやろなぁ。

俺がにプロポーズするんは何も今日が初めてやない。

けど、正直、俺たちだけで結婚するんは難しいから
俺がもう一度プロポーズするまで待っとって、と釘は刺しておいた。

俺は何が何でもと結婚するて思うてたし、
が俺以外の奴と付き合うなんて思いもしてなかった。

ただただ、不安だったのは、好き同士なのに
親の反対にあって拗れてしまうのが怖かった。

何があろうと俺のへの愛情は変わらへんと心に誓っていても
生活力がない自分はを社会的に幸せにはできないとわかっていたから。


 「驚いた訳じゃないけど。」

 「やろ? なんも問題ないやろ?」

 「まさか今日、同窓会で言われるとは思わなかった。」

の口元から安堵のため息が漏れる。

久しぶりに触るの手は暖かくて
今ここで引き寄せてその口元にキスをしたかったけど
OBともなればさすがに無節操ぶりはここではできんかった。

俺はの手の甲に優しくキスをした。

俺、大人になったやろ?


 「うっわぁ、侑士が紳士だぁ〜。」

 「なんや、それ。聞き捨てならんな、岳人?」

 「だってねぇ〜。学生の時だったら忍足、所構わず
  ちゃんにべたべたしてたもんね〜。」

 「それはお前らが必要以上にベタベタしてたからやろ?
  俺がどんだけ我慢してた思うねん?
  けど、結婚したらもうには指1本触れさせんからなぁ。」

 「ええええっ?じゃあ、じゃあ、俺、今のうちにちゃんにハグしなくちゃ。」

 「なっ!? なんでそうなるんや?」

ジローの奴がガキを俺に押し付けてに抱きつこうとするから
俺はガキを抱えたままも俺の腕の中に閉じ込めてジローを睨んだ。

全く油断も隙もない。


 「あんなぁ、空気読めや?
  俺、にプロポーズしたんやで?
  これからはもうは俺のもんなんやで?」

 「空気読め言われてもなぁ。
  同窓会でプロポーズなんかすんなよ、侑士。」

 「全くだな。俺たちはともかく
  後輩にとってはありがた迷惑だろ?」

 「ええねん!お前らが証人やし。
  そんでもってちょお、頼みごともあるねん。」


やってなあ、俺の実家は俺を跡継ぎと思うていたんやから
ここで俺が東京に戻るにはどうしてもこいつらの協力が必要なんや。

 「ゆ、侑士?
  どういう事?」

のつぶらな瞳に俺は安心するようにと片目をつぶって笑いかけた。

子供をの腕の中に返してやりながら
こんな風に俺たちの子供とと一緒に過ごす未来を思って
俺は胸があったこうなって自信がみなぎって来る。

そうや、俺たちの未来のために今まで遠回りして来たんやないか!


 「あんなぁ、俺、実家を飛び出して来てん。」

 「えっ?」

 「ああ、が心配するような事やないで?
  ちゃんと親とは話、つけてる。
  んでな、俺、明日が誕生日なんや。」

ゆるりと話し出すと、岳人や宍戸たちがうんざりしたような顔をした。

まあ長年の付き合いや、半分のろけ話になるのがわかっとるゆう顔やな。


 「実はな、みんなに誕生日プレゼント、もらえたらええなあ思うて今日は来たんや。」

 「そんな都合のいい話、俺たちが聞くと思ってんのか?」


跡部とはほんまにええ友達や思うてる。

跡部があの大財閥の息子だから付き合うてきた、なんて事は今まで一度たりとも
考えた事なんてなかった。

そりゃあ、氷帝学園は跡部の財力で優遇されていたし、
特に俺たちは跡部のいるテニス部だったからその恩恵は他の追随を許すものではなかったが、
それがなくとも跡部とは十分楽しくやって来ていた。

 「そやなぁ、ならご祝儀でもええんやけど?」

 「侑士? ば、ばかな事考えないでよ?」

 「俺はのためやったら何でもする。
  けど、ばかな事で友達なくす事はせえへんよ?」

 「俺に頭下げるつもりか?」

跡部は頬杖をつきながらニヤニヤしている。

まあ、ここへ来る前にリサーチかねて跡部に打診はしてるんやけどね。

 「頭は下げへんよ。
  俺も一家の主になるんやから。
  で、どうなん、跡部?」

 「はっ! 学生の頃から抜け目のない奴だとは思ってたけどよ。
  まあ、いい、俺様も損はしねーからな。」

 「どういう事、侑士?」

見上げてくるの胸の前で
の髪をおもちゃにしている子供のふっくらとしたほっぺを
フニフニとつついたら子供は嬉しそうに俺を見て笑った。

案外俺、子供受けがええかもしれんなぁ。


 「俺な、親の言いなりに京大行ったやろ?
  そんで医者にもなった。
  親の要望は叶えたからな、今度はの願いを叶えよう思うて。」

 「で、でも、侑士のご両親は病院を継いで欲しいんじゃ・・・。」

 「まあな。でも、うちの系列病院、結構あるんよ?
  やから、東京に1個くらいあってもええかな、思うて。」

 「東京に?」

 「せや。もう遠恋は嫌やろ?
  第一、俺も限界や。
  結婚したら一緒に住みたいし。
  やから、跡部財閥のお坊ちゃまにお願いしてな、
  氷帝医学部の付属病院作ろう思うて。」

 「えっ?」

 「どうせ作るんなら最新医学の精鋭を究めた、総合病院を作るぜ?
  まあ、俺も氷帝学園のためなら断る理由もねーしな。」

 「な?ええ話やろ?」



待たせた分、俺はに今まで以上に幸せになって欲しい。

思い出のある母校の近くに新居を構えれば
は寂しい思いをもうしないですむ。

何より薬剤師になったと一緒に仕事ができるんが一番の夢やった。


 「ねえ、侑士?」

 「なんや?」

 「私からは何をプレゼントすればいいの?」

 「ええって。はもうずっと俺と一緒やって思うだけで嬉しいし。
  しばらくはホテル住まいやけど
  そやな、ちゃんと本腰入れて新居も探さんとな。
  できれば今日からもう俺と一緒にいてくれたら嬉しいんやけど?」

俺がそう言うとははにかみながら俯いた。

お互いにお互いを想って眠る日々のなんと長かった事か。


 「・・・。」

やっぱり我慢できんようなって
俺はのあごに手を伸ばすと覆いかぶさるようにキスをした。

 「愛してるで。」

 「うん。」






 「ああ、もう、同窓会でラブシーンやるな、クソ侑士!」

 「ふっ、まあ、大目に見てやれ。
  甘い夜を夢見ても所詮今晩は川の字になるんだからよ。」

 「えっ?何それ、ねえねえ、跡部〜?」


何年経ってもこの仲間たちに俺たちのラブラブぶりを見せ付ける事ができるなら
それはもう俺にとっては最高の同窓会や、としみじみ思う。

ああ、ほんまに今年はええ誕生日が迎えられそうや。









The end


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☆あとがき☆
 侑士、お誕生日おめでとう!
同窓会をテーマに書いていたんだけど、
急遽誕生日ドリを書いてない事に気づいて
無理やりつなげてしまいました・・・。
子供は兄夫婦の子供を1泊預かってるって言う設定です。
なので同窓会の当日はお預けですね〜。(笑)
まあ、侑士なら川の字に寝ても飛び越えて来そうですが?
あと、氷帝学園付属病院にはリハビリセンターに岳人が
レントゲン技師にジローがなるといいと思います。
侑士ですか?もちろん外科医になってもらいたいですね。
2008.10.14.