My Birthday
生まれてきてくれてありがとう
こんな風に誰かに言ってもらえたら嬉しいんだろうか
誰かのために生きてる訳じゃないのに
誰かが私の事を愛おしいと思ってくれたらどんな感じなんだろう
友達に誕生日だね、おめでとうって
日常挨拶の延長のように言われる言葉だって
それなりに嬉しかったのに
それが霞んでしまう位の衝撃を受けるとはその時まで思って来なかった
「。」
「何?」
「誕生日なんだってね?」
「うん、そうだけど。」
「おめでとう。」
「えっ? あっ、うん、ありがとう。」
「これからもずっと君の誕生日、
特別な気持ちでおめでとうって言ってもいいかな?」
「な、何?」
「生まれてきてくれてありがとう。」
その時は何て大袈裟な言葉なんだろうって思うだけだった
気障な台詞もすんなりとさらりと言ってしまえる人種
他の男子なんかより数段かけ離れたこの同級生だから似合う台詞
まるで劇の中で王子様がお姫様に言うような
歯の浮くような台詞さえ彼なら全く問題ない
ニッコリ微笑む彼のいつも通りのスタンスに揺れ動く事のなかった私だったのに
それから毎年彼は私の誕生日を祝ってくれる
特別なんだ、本当に?
本当に私だけ特別に思ってくれてる?
あの時から胸にしまわれた言葉を誕生日になると思い出す
それ以上は言ってくれない、特別なおめでとう
なぜだか段々私は誕生日を心待ちにしてしまう
誕生日だけは彼は私を特別な気持ちで思ってくれる
貴重な私だけの特別な一日
だけど誕生日が過ぎてしまうと私はとたんに寂しくなる
彼はたった一日だけ私を思ってくれるのに
私は残りの364日、彼を思っている
なんて理不尽なんだろう
「今年も誕生日、おめでとう。」
「不二君・・・。」
「何?」
「・・・それだけ?」
「えっ?」
「特別な日の特別なおめでとうはもういらない。」
遠くからわざわざ電話して来てくれた不二に今年こそ言おうと決めていた
壊れてしまっても
失くしてしまっても
私の思いを知ってほしかったから
「だから、誕生日じゃない日に私を一人にしないで。」
「私、不二が好きだよ。
でも傍にいない人を好きになれるほど私、強くはないから。」
「だから、不二に会いに行ってもいいかな?」
電話越しに不二が笑ったのがわかる
「僕も同じことを思ってた。
ねえ、誕生日プレゼントは僕が会いに行くって事でいいかな?」
嬉しすぎて言葉が出ないって事、ほんとうにあるんだね
「僕も君が好きだよ。
君が思ってる以上に、前からずっと。」
だから、生まれてきてくれてありがとう
好きになってくれてありがとう
不二の優しい言葉に私は涙をこらえ切れなくて
ただただ頷くことしかできなかった