メリーメリー  3








先に根を上げたのはの方だった。

もちろん不二のダンスは初心者の部類だったはずなのに
基本的なステップは以前から習っていたかのように
流麗に踏む様はを驚かせた。

加えてあの容姿にスタイル、
そして自信満々な気品ある姿勢、
がリードしなくても違和感ない程だった。

だけど、不二とこんなにも近くで
長い時間接触しているのはにはとても気恥ずかしかった。

ダンスなのだからそんな事を考えるのはおかしいのに
不二の胸が眼前にあると平静ではいられない自分がいて
は自然と顔に熱を帯びたまま下向きになってしまう。

 「どうしたの?」

不二が心配そうにの顔を覗き込む。

あっ、と思った時にはは不二の靴を踏んでしまっていた。

自分でもこんなミスをするとは思わなかっただけに
と不二のダンスはそのまま周りに流れる音からはずれてしまった。

 「ごめん、不二君。」

真っ赤になって俯くの手を握り締めたまま
不二は何事もなかったかのように堂々とダンスの輪から
そっとを連れ出した。




 「大丈夫?」

不二の優しい言葉には黙って頷く。

こんなはずではなかった。

ただでさえ不二は周りから好奇の目で見られてるというのに
自分が上手く立ち回ることが出来れば
もう少しかっこよく印象付ける事くらいできたはずなのに。

こんな不甲斐ない形でダンスホールを抜ける事になるなんて
には口惜しい事に他ならなかった。

 「不二君、ごめんね。」

跡部にも後で笑われるに違いない。

自分が何か言われるならそれはそれで我慢できるが
不二の事を言われるのは嫌だった。

 「どうして謝るの?」

不二がため息をついたのが分かった。

 「僕は何とも思ってないのに?」

 「だって、こんなクリスマス、
  不二君も嫌でしょう?
  きっと色んな人が色んな風に噂するわ。」

 「ダンスのパートナーも務まらない男だって?」

 「ごめん、不二君はできなくて当たり前だよね。
  それなのに・・・。」

 「僕はさんとダンスできて面白かったよ?
  こんな経験はなかなかできないし。
  大体テニス部のクリスマスじゃ、ダンスなんて誰も思いつかないって。」

不二はクスクス笑い出す。

 「それに僕たち、練習すれば
  それこそここにいるどのカップルよりも上手く踊れると思うよ?」

 「不二君・・・。」

気遣ってくれる不二は本当に優しい。

自分はできるならこんなクリスマスとはもう縁を切りたい位に思っているのに
不二は練習すればもっと上手くなれると前向きだ。

この重圧から逃げ出したいと思っているには
不二のポジティブな性格が眩しく思える。

ただクリスマスを一緒に過ごしたいと思っていただけなのに
こんな風に不二に気を使わせてしまってやるせなく思ってしまう。

気付けばの目には涙が溢れてきて
それを堪えるために顔も上げられない。

だけど情けない気持ちに堪えきれるものでもなく
は両手で顔を覆うと肩を震わせた。


 「さん、僕はね、君の事が好きだよ。」


不二は周りを憚ることなくの身体をそっと抱きしめた。

 「今の僕はさんのためなら何でも出来る。
  君が望むならここから連れ出してあげようか?」

ぎゅっと抱きしめるとの身体は身動きできない形だったけど
かろうじて不二の胸の中でかすかに嫌々との頭が動いた。

 「そ、そんな事しても・・・。」

 「僕の事、庇ってくれるんだね?
  僕は悪者になってもいいんだよ?」

 「だめ・・・。
  私は、不二君と一緒がいいの。
  ずっと一緒にいたい。
  不二君が好きなの。
  だから・・・。」

 「うん、わかった。
  そう思ってくれるならもう泣かないで。」


ポケットからハンカチを取り出すとの目元にそっと宛がう。

はようやく不二からハンカチを受け取ると
軽く抑えるように涙の後を拭き取った。


 「さんは社交辞令的な
  こんなパーティーが嫌いなんだね?
  最も僕だってこういうのは苦手だな。
  だけどね、君がいるなら、
  さんがいるなら僕は全然平気だよ。」

 「不二君。
  不二君ってやっぱり強いね。」

 「そんな事ないよ。
  好きな人が一緒なら何だって楽しくなるよ。
  君と一緒にいられるなら僕はどんな努力も惜しまないよ?」

不二は恥ずかしげもなくきちんとに向かって言葉を続けた。

 「さんが嫌じゃなければ
  もう1回、僕と踊っていただけませんか?」

 「えっ?」

 「1回目より2回目、2回目より3回目、
  ずっと上手く踊れると思うから。
  それに、周りが僕たちの事をどう思おうとそんな事どうでもいいんだ。
  こんな風に堂々とさんを身近に感じられるなんて
  僕としてはすごく嬉しい事なんだけどな。
  だから、恥ずかしいなんて全然思わないし。」

 「ほんと?」

 「その代わり、僕のお願いも聞き入れてもらいたいんだけど?」

 「お願い?」

 「うん、今度僕と一緒にテニス、しようよ?」

冗談で言ってる訳では無さそうだった。

 「テニス?私が?」

 「そう、君と。」

 「私、全然上手くないよ?」

 「上手い下手は関係ないよ?
  君と一緒に過ごしたいから。
  僕の好きなテニスをさんとしたいだけ。
  ・・・ダンスと同じだよ?」

不二の言いたい事がやっと分かったような気がした。

純粋に好きな人と一緒に過ごす時間を増やしたいだけ。

ああ、なんて優しい人なんだろう、とは改めて不二を見上げる。

不二を好きになって良かった。

本当に心からそう思った。

 「不二君にテニス教えてもらったら
  すごく上手になれそう。」

 「もちろん、教え方がいいから。」

自然との口元にも笑みが零れた。

不二といれば何も不安に思う事はないのだとはっきりと分かった。

もっと不二と話をしよう。

自分の事、生い立ちから今まで
不二に言わないでいた事を隠さずに話そうと思った。

不二ならちゃんと聞いてくれる、
そして何があっても自分と一緒にいる事を選んでくれる。

そういう人なのだ、不二は。

 「私、今まであんまりクリスマスって好きじゃなかったけど、
  不二君がいてくれるなら好きになれる。
  本当は誰よりも不二君は素敵なんだって
  みんなに自慢したかったんだと思う。
  不二君をこんな場所に呼ぶなんてどうかしてる。
  そう思っていたのに、矛盾してるよね?」

 「そんな事ないさ。
  僕だってさんを家族に紹介したいって思ってるし、
  本当は学校でももっとみんなに自慢したいくらい。」

不二はの手を再び取って握り締めた。

 「そうだな、こういうクリスマスは
  僕と一緒にいたらもう出来ないかもしれない。」

 「えっ?」

 「だってやっぱりクリスマスは二人っきりがいいし。
  家族になったら、家族だけで過ごしたいよね?」

不二の言葉に真剣に考え込むが可愛くて
不二は握り締めたの手の甲にキスを落とした。

びっくりして不二を見つめる

不二はニッコリと笑うとダンスホールの方へ歩き出した。


 「だから今日は一生分、踊ろうか?」



不二がかなり本気だと分かったのは数十分後だった。









The end



Back












☆あとがき☆
 2009年の締め括りのつもりが
2010年まで引き摺ってしまいました。
ああ、今年も遅筆の相が出てる・・・。
どうか今年も温かい目でお願いします。(笑)
2010.1.8.