少しだけ 今は泣かせて
この試合で何もかもなくした訳じゃないけれど―――
頭をたれたままその表情は見えなくても
今まで固執してこなかった分だけ
その手にすることが出来なかった勝ち試合を
どれだけ必死に手中に収めたかったのかは
試合をした事がない私にだってわかる
理解ってるつもりだよ?
だけど、だからって何が言えるんだろう
いい試合だったね
すごかったね
相手も強かったね
思いつく限りの言葉を頭の中で作っては見るけど
その言葉にどんなに私がねぎらいの思いを乗せてみても
きっと虚しさを感じてしまうから
私は私が思うようには笑っては言えないと思う
たとえどんな作り笑いで迎えたって
の笑顔を見るとほっとするよ、って彼は絶対言うから
そんな言葉を言わせてしまう自分がきっと嫌いになる
だったら何も言わなきゃいいと思う
黙って、あの悔しがってる彼の肩を後ろからそっと抱きしめてあげさえすればいいと思う
だけど、そこに広がる温度差にもし私が耐え切れなくなったら?
振り返った彼はきっと自分の中でいろんな感情を昇華してしてしまう
そしていつものように微笑さえ浮かべて
お疲れ様って言えばいいんだよ、っていう顔をして
その言葉が私の口から出やすくなるように促すに決まってる
自分の方が酷く傷ついてるくせに
私を傷つかせないように気を遣うんだ…
まだ終わった訳じゃないし?
あいつらなら僕の分まで勝ってくれるし?
大丈夫だよ
だからそんな顔をしないで
いくらでも溢れてくる彼の言葉はとても優しいって知ってるから
分かってるから…
理解ってるから…
あなたが見せてる背中から
伝わってくる私と貴方の温度差
今は貴方に触れることは出来ないけど
あなたにとって大事な大事な時間と空間だから
何もしてあげられないけど
貴方の後ろにいるから
私はここで待ってるから
だから貴方が振り向くまで
少しだけ 泣かせて
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☆あとがき☆
天才不二周助くんの不敗神話が崩れて
当の本人は爽やかにコートを後にしたのに
やっぱり相当堪えていたようで…
タオルを頭からかぶったままうなだれる彼の姿が
瞼から離れません
現実を受け止めてる彼の姿が痛ましくて
あああああ、不二君を慰めるって難しいよぉ
2006.10.30.