後輩思い







 「あれ?赤也、休憩?」


が練習用のボールの汚れをひとつずつ丁寧にタオルでふき取っているのを、
赤也がじっと見下ろしてる。

はちらっとコートを見やると、
どうやら真田たちと一試合終えたところらしいのはすぐわかった。

ゆるいウェーブのかかった黒髪が汗で額に張り付いてるのを見て、
は自分の首にかけてあったタオルを赤也に差し出した。


 「はい。ちゃんと汗拭かないと、風邪引くぞ?」


心地よい風はもう秋の気配を漂わせていて、
夕暮れが近づく頃になると、うっすら肌寒く感じるほど。

赤也は一瞬戸惑ったような顔を見せたが、
次の瞬間嬉しそうにのタオルを手に取った。




 「先輩。明日、俺、誕生日ッス。」

赤也がはにかんだように呟く声をは聞き逃さなかった。

 「うん。知ってるよ?
  私、ケーキ焼いてきてあげるから、
  部活終わったらみんなでお祝いしようね。」

は立ち上がると、赤也を見上げた。



負けず嫌いは部内一だけど、そのあどけない笑顔は可愛くて、
でも、いつの間にか身長はを越していて、
随分男らしくなってきたな、とは思っていた。





  いつか絶対越してやる…




立海3強の幸村・真田・柳にたて突いて、
そのたびにコテンパンにやられては、悔しそうに叫んでいた赤也。



そんな赤也に対して、あいつは見込みがあるよ、って言ったのは幸村だったっけ?





 「みんなでお祝いしてくれるのは嬉しいんスけど…。」

 「うん?何か用でもあった?」

 「いや、そうじゃなくて…。」

赤也の視線はどこか落ち着きない。

 「この年になってもみんなでお誕生会なんて、ちょっとどうかなって…。」

 「へ、へ〜?」

思いもしない言葉には面食らった。




立海大は結構仲がいい。

仲がいい、というより、もう、なんていうか家族愛的なつながりだとは自負していた。

テニス部の規律は厳しいし、練習はハードだし、
同じ運動部の中でもテニス部は別格の感じがするが、
練習以外では、皆面倒見がよくて、イベントごとが大好きで、
何をするにも一緒という、ちょっと信じられないくらいの仲のよさだった。

だから、25日の赤也の誕生日も、
部活を早めに切り上げて、部室でお祝いしようという事になっていたのだ。


でも考えてみれば赤也だってお年頃。

1年に一度の誕生日くらい、先輩とかマネージャーとかに囲まれるのではなく、
好きな人と一緒に過ごしたいとか思ってるのかもしれない…。





 「そっかぁ。赤也がそんな風に思ってたなんて、
  ちょっとびっくり。」

 「いや、その、嫌だって訳じゃないんスよ。」

 「ほんとに?」



心配そうに見上げてくるの視線に、
少し顔を赤らめながら、赤也はちょっと言いよどんだ。




 「も、もちろんッスよ。
  ただ…。」

 「ただ…?」

 「なんつうか、先輩と二人っきりで過ごす時間があればなぁって////」

 「私と?」

 「だって、来年の俺の誕生日にはもう先輩はここにはいないじゃないッスか。」

 「そ、そうだ…ね。」



真っ直ぐに見つめてくる黒い瞳に込められてる意思を、
とて知らないはずではなかった。


気づくと、いつも赤也が自分を見てるのを、
は気づかないように、さりとて、彼を傷つかせないようにかわしてきていた。


はどうしたものかとコートに目をやる。




 「先輩は…、その、好きな奴とかいるんスか?」

 「赤也はどう思う?」

 「えっ?
  いや、いるとは思いたくないから聞いてるんで…。」

 「それは残念!
  立海大のテニス部のみんなが好きなんだけどなぁ。」

 「先輩。そういうのはなし!
  俺、本当は―。」



 「赤也!!
  柳がコートで待ってるよ?」

不意に現れた幸村に赤也はたじろいだ。

 「幸村部長…。」

 「ほらほら、もう1ゲームやっておいで?
  明日は赤也の誕生日だから、柳がサービスするってさ。」

 「どんなサービスッスか…。」

赤也はあきらめたようににタオルを返すとコートに向かって歩き出した。














 「幸村部長、登場が遅すぎません?」

がちょっと怒ったように幸村を見ると、
まるで悪戯っ子のように幸村が笑う。

 「。2人っきりの時は精市でしょ?」

 「まだ部活中です。」

 「そんなに睨まなくても。
  でも、ドキドキした?」

 「なんで?」

 「だって、あのままだったら赤也、
  きっとに告白しそうだったもの。」

 「よく言うわ。
  精市が絶対そんなことさせやしないでしょう?」

 「ふふっ。まあね。」

 「私としては、ちゃんと言った方がいいと思うけどなあ。」

 「うーん、でも一応部内恋愛禁止だし?」

 「精市が一番守ってないくせに!」

は眉をひそめると、ちょっと落胆したように思える赤也の後姿を目で追った。


 「だけど誕生日前に失恋させちゃったら、赤也、もっと落ち込むよ?」

 「よく言うわ。」

 「後輩思いの部長って思ってくれない?」

 「何処が後輩思いなの?
  赤也が一生懸命勇気を振り絞ってるのに、
  いつもいつも水を差してるくせに…。」

 「だってさ、赤也って後先考えずに行動しそうなタイプだからさ。
  既成事実をちゃっかり作って、を困らせそうだもの。」

 「どの口がそういう事言うのかなあ〜?」



涼しげに笑ってる幸村の方がよっぽどを困らせていると言うのに…。



 「じゃ、後輩思いの部長に習って、
  今日は私、赤也と一緒に帰ろうかな?」

 「ふーん、そういう事、言うんだ。
  わかった、赤也がと一緒に帰る気がなくなるまで特訓だな。」

 「ちょ、ちょっと、待って。」



焦るを残して幸村は悠然とラケットを担いでコートの方へ向かっていった。






    あーあ、精市、怒らせちゃったよ。
    ホントにヤキモチ焼きなんだから…。

    赤也、ごめんね。
    明日は飛びっきりおいしいケーキ、作ってあげるからね!!









The end



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☆あとがき☆
 え、え〜と、一応、赤也、誕生日おめでとう!!
こんなBDものでごめんね。
結局幸村ドリームだし…。
立海大の部長を出し抜くなんて事は私には…。(苦笑)

2005.9.24.