告白はどこでもいい?
             ―真田の場合―








 「先輩、この病院、出るらしいですよ。」

2年の切原赤也が得意そうに話す。
どうやら仲良くなったナースステーションの看護士から仕入れた話らしい。
ひょうきんな切原は誰とでもすぐ仲良くなるし、特に年上の女性にかわいがられる。
今日も今日とて、部長のお見舞いに来たにもかかわらず、まずはナースステーションに直行するあたり、
その憎めないキャラゆえ、苦笑するしかないだった。

 「赤也。入院してる幸村の前でそんな話は不謹慎だぞ?」

真田は憮然としている。

 「あれ?真田は僕が怖がるとでも思ってるの?」

幸村の視線に真田は狼狽した。

 「いや・・・。そういうつもりでは。」

 「あは。真田先輩も部長の前では形無しッスね。」

切原は真田が睨むのも気にせずに笑っている。
が、だけは笑えずにいた。

 「出るって、何が・・・?」

 「先輩、病院って言ったら幽霊に決まってるじゃないッスか。
  この世に未練たらたらで亡くなってしまった患者とか・・・。」

 「いやあ!聞きたくない!!」

は両手を耳に当ててうずくまった。

 「赤也。ちゃんが嫌がってるよ?」

幸村は赤也をたしなめた。が、その顔はどこか愉しげだった。

 「そういえばね、この間不思議な事があったよ。」

そう言うと幸村は話し始めた。
はうずくまったまま、幸村を見つめた。



      この間、夜中にふと目が覚めたんだ。
      空調が利いてるはずなのに、その夜は妙に蒸し暑くてね、
      水でも飲もうかなって思って起き上がったんだ。
 
      ふと視線を感じる気がして、ドアの方に目を凝らしてみると、
      可愛い男の子が立っていたんだ。
      どうしたの?迷子になっちゃったの?って聞いたらね、
      その子は黙って首を横に振るんだ。
      ナースコールしてあげようかな、と思ったらその子が僕に聞くんだ。

      お兄ちゃんは入院、長いの?って。
      僕は、もうひと月だよって答えたんだ。

      君も入院、長いの?って聞いたら、
      何年もいるって言うんだ。

      それは大変だろうなあって思って、
      退屈でしょ?って聞いたら、今度遊びに来てね、って言うんだ。
      ああ、やっぱりこの位の幼い子じゃあ、淋しいんだろうなあって思って、
      僕の友達は毎日来てるから、、
      じゃあ、今度みんなで遊びに行ってあげるよって言ったんだ。
      そうしたらその子、すごく嬉しそうな顔をしてくれたんだ。


 「へぇ〜、幸村先輩も優しいところあるんッスね?」

切原がおどけたように言った。

は怖い話ではなさそうだったので、ついつい聞き入っていた。

 「うん、だからね、今日は帰りにその子の病室を覗いて行ってあげて欲しいんだ。
  どうやら家族の人たちもほとんど来てあげてないようだったから・・・。」

 「あら、そういう話だったら私、寄って行ってあげようかな。
  きっと喜んでくれるよね?」

は真田を見上げた。
真田は相変わらず憮然としたまま、幸村の真意を測りかねていた。

 「ああ、じゃ、俺もからかいに行ってやろうかな〜。」

切原がそう言うと、

 「赤也はだめ。うるさすぎて嫌がられると思うよ。
  それに、赤也にはちょっと買い物を頼みたいんだけどな。」

と幸村が言葉を挟む。

 「じゃあ、真田、ちゃんとちょっと行って来てあげて。」

幸村に背中を押されるように真田はと一緒に病室を後にした。

なんで俺が他所の子の病気見舞いなんかしなくちゃならん?と複雑な思いで一杯だったが、
ある意味部長命令であるため、逆らう事もできない。
まして、方向音痴なが一緒とあっては、放っておく事もできない。

二人は幸村の言う通りに、西側の階段を地下へと降りていった。

 「でもさあ、病室が地下室なんて、長期入院にしては待遇が悪すぎだよね?
  なんか淋しすぎだもの・・・。
  これじゃあ、その子が夜中にうろうろしちゃうのってわかる気がするなあ。
  私だったら絶対一人でなんて入院できないわ。」

が自分に言い聞かせるように話しながら歩いている。
階段を下りて行くと、病院の陰気くさい感じはますます色が濃くなる。
真田は相変わらず黙って歩いていた。

 「ねえ、真田君。
  なんか変じゃない・・・?
  誰にも会わないよ。」

は後ろを振り返りながら、段々不安になる。
真田はを振り返るとため息をついた。

 「行かないのか?」

 「えっ!?も、もちろん、行くけど・・・。
  なんかさ、この廊下、暗すぎない?」

真田は苦笑する。

 「お前、怖いんだろう?」

 「うっ。そ、そんなことないけど、
  病室なんてどこにもないじゃない。
  大体どのドアにも札がかかってないし・・・。」

そう言いながら、大きなドアの前では固まった。
その部屋にはプレートがあることにはあったのだが、
『霊安室』という文字がはっきりと見て取れた。

 「きゃっ!」

は思わず真田の腕にしがみつきながら、右手は自分の口を押さえていた。
背筋を冷たいものが走り、声を出したら、何か悪意のあるものに聞こえやしないかと
思わず目を瞑る。

 「どうした?」

真田が腕にしがみついてるを見下ろすと、
は真っ青な顔をして心なしか震えている。
さしもの真田もそれ以上進むのは無理と思い、を両腕の中に閉じ込めた。

 「無理ならそう言えばいいだろう?」

 「・・・。」

 「全く、お前はお人よしだな。」

 「・・・なんでそんな事言うの?」

やっとは恐る恐る声を出してみる。
こんな所に立ち止まってるのは嫌ではあるが、
さりとて真田の腕を振り切ってまで一人で戻る気にもなれない。

 「大体な、幸村の話を真に受ける方が悪い。
  あいつはお前が怖がるのを楽しんでるだけだ。」

 「・・・。」

 「幸村は退屈しのぎにをからかったんだろう。
  ま、あいつの考えそうな事だから俺は仕方なく付き合ってやったまでだが。
  は幸村を信用しすぎだぞ。
  あいつはな、聖者のフリをして平気で人を騙すからな。」

真田はため息をつきながらどうしたものかと考え込む。
抱きしめてるは思いのほか華奢で、真田はまんざらでもない自分に苦笑していた。
が、にそのことを悟られまいと、廊下の暗闇を見つめていた。

地下の廊下は相変わらず静寂に包まれたまま。

ただ、真田の腕の中は暖かくて、もようやく自分がどんな状況にいるのか、
真田の胸に顔を押し付けたまま、止まっていた思考回路を動かそうとしていた。

初めは怖さから逃れようと夢中で目をつぶっていたが、
今は、真田に抱きしめられている自分を思って恥ずかしさから目を閉じたまま。
でも、そこはとても居心地がよくて・・・。

 「・・・?」

 「私、幸村君に騙されてたっていい。
  そのおかげで、今、真田君がこうしてくれているんだもん・・・。」

は真田の胸に顔を埋めたまま囁いた。

 「。今日のお前は変だぞ?」

 「変じゃないよ。私、ずっと前から真田君のこと・・・。」

 「おい、!」

真田が驚きながらの言葉を制した。

 「お前な、こんな所で告白するつもりか?」

色恋沙汰に疎い真田ではあったが、さすがに霊安室の前で告白されそうになることに
真田は焦った。

 「だって、今じゃないともう言えそうにない・・・///」

は相変わらず顔を真田の胸にくっつけたまま答えた。
真田ははぁ〜とため息をついた。

 「悪かったな。
  だがな、告白はやはり男からするもんだ。
  俺もずっと前からお前の事が好きだった。
  だが、これからだって今までとあまり変わらんぞ?
  それでもいいのか?」

その言葉にがクスッと笑ったようだった。

 「うん。その代わり、抱きしめて欲しいときは
  私から抱きついちゃうからね?」

真田は返事をしなかったが、の額にそっとキスを落とした。
の唇にキスをするのは、もっとロマンチックな場所がいいだろうな、と真田が思ってることなど、
は思いもしなかった・・・。












☆おまけ☆


 「ねえ、赤也。おつかいはどうだった?」

 「幸村部長も人が悪いッスね〜。
  でも、まさか真田先輩があんなとこで告白するとは思わなかったッスよ。」

 「ふふっ。真田だからできるのさ。
  っていうより、真田が普通の場所で告白なんてできるはず無いんだからさ。
  僕に感謝して欲しいよね。」

 「ええっ。そうなんスかぁ〜?」

 「そうだ。赤也に好きな人ができたら、僕がお膳立てしてあげるね?」

 「(いいッスよ!)・・・。」

 「遠慮は無用だよ。(にっこり)」





 The end



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☆あとがき☆
 真田、ごめん。
 普通じゃなくて・・・。(笑)
 でも、ま、二人の世界に入ってしまえば、
 どこだって一緒だよ・・・。
 っていうか、幸村が黒いわ〜。

実はこれは夏の間、幸村ドリとして
 怪談物で書こうと思ってたんです。
 でも、書きあがる前に夏が終わっちゃって・・・。
 で、リメイクしてみました。
 ま、こんな立海大が好きです。(笑)