告白は自分でした方がいい?
              ―仁王の場合―





 「何か悩み事?
  僕でよかったら聞いてあげるけど。」

幸村が病室の窓から外を眺めている仁王に話しかけた。

いつもならその日あった事を面白おかしく話して聞かせる仁王が、
珍しく今日はぼうっとしてる。
中庭を散策している入院患者や見舞いの客たちの談笑する姿を見ているくせに、
心ここにあらず、という感じだった。
仁王は視線を窓の外に落としたまま、自問するように答えた。

 「なあ、人の気持ちは、
  手に取るようには、わからんもんじゃの。」

 「へえ。君なら人の気持ちを手玉にする位、わけない事じゃなかったの?」

幸村はからかうように仁王を見やった。
心なしか、今日の仁王は淋しそうだった。

 「・・・手玉に取る気はないからの。」

 「ああ、ちゃんのこと?」

 「幸村には隠し通せんのぉ。」

 「ふふっ。彼女は本当にかわいいものね。
  で、原因は柳生かい?」

ふうっとため息をつくと仁王が振り返った。

 「ちゃんは柳生と幼馴染らしいんじゃ。
  仲もええし、もしかしたらって思うと、
  俺も気持ちを伝えていいかどうか、二の足がでんのじゃ。」

 「仁王らしくないねえ。」

そう言いながら、幸村の目は何か面白いことを思いついたかのようにきらりと光った。

 「ねえ、仁王。
  自分の気持ちが言い出せないんだったら、
  まずちゃんが柳生の事をどう思ってるか、聞いてみれば?」

 「それもできればもう行動を起こしちょる。」

 「だからね、・・・。」

訝しげに聞く仁王を他所に、幸村は楽しげに自分の思いつきを話し出した。

















仁王は柳生が部室から出て行くのを確認すると、
の待つ教室へと向かった。
にはあらかじめ、部活の終わる時間に待ち合わせをしていた。

もちろん、得意の変装で、柳生として・・・。



眼鏡をかけるとそこには完璧な柳生の姿があった。
コホンと咳払いをしながら教室に入ると、
ニッコリ微笑んだが振り返った。

 「ちゃん、待たせてしまいましたね?」

 「ううん。
  一緒に帰ろうってメールくれて嬉しかったな。」

はそう言うと頬をほんのり染めた。

 「実は、前々からあなたにお聞きしたい事がありましてね。
  こうしてあなたと二人っきりで話せる機会を狙っていたのです。」

 「えっ?何かしら?」

 「正直に答えてくれますか?」

は柳生(実は仁王なのだが)の目を真っ直ぐ見つめると、
ただ黙って頷いた。

 「あの、そうですね、改めて面と向かうとなかなか言い出せないものですが、
  本当のところ、私の事はどう思ってらっしゃるのでしょうか?」

柳生はの視線にいたたまれず、ふっと自分の足元を見た。

 ―いかんな。なんて言われるか思うと、緊張じゃ。―

 「・・・あなたの、こと?」

 「ええ。私はあなたのことが前から好きだったんです。
  初めは私だけがちゃんのことを好きだと思うだけで十分だったのですが、
  やはりきちんとあなたの気持ちも確認しておきたかったものですから。」

 「そうだったんだ。」

 「えっ?」

 「うん、私も前からずっと好きだなあって思ってたの。
  よかった。同じ気持ちでいたんだね、私たち。」

の言葉に柳生(実は仁王)は目を伏せた。

 ―ああ、柳生の奴がうらやましいの。
  俺は玉砕ってとこか。
  ほんなら最後の詐欺師ぶり、みせちょるか―

仁王である柳生はを引き寄せると、そのまま情熱的にの唇を奪った。











その翌日。
打ちひしがれた仁王は部活に出る気も失せ、
学校が終わるとそのまま駅前のゲーセンで遊び呆けていた。
が、格闘技ものやレーシングものをやってみても仁王の気が晴れる事はなかった。

1時間ほど時間つぶしをした後、仁王は幸村の病室を訪れた。

ドアを開けると、そこには仁王の胸をズキンと射抜く相手の顔があった。

 「幸村?」

 「ああ、仁王は必ず来ると思ったよ。
  どうしたのかな、そんなに不思議な光景かな?」

幸村は意地悪くニヤニヤしている。
そのそばに、昨日あれほどまでに自分の気持ちを凹ませたが真剣な面持ちで仁王を見つめていた。

 「ちゃんがね、仁王の態度が変だって言うからね、
  今、相談に乗ってあげてたんだよ。」

 「俺が・・・?」

 「そうだよ。仁王はちゃんの気持ちを確かめたんじゃなかったの?」

 「確かめたと。
  態度が変って言われても、誰だって失恋したら凹むがの。
  それとも、俺ならいつだってペテン師の仮面かぶれると思うちょるが?」

仁王は明らかにいらついていた。
失恋した相手に更に追い討ちをかけるかのように無様な姿を晒している自分。
はびっくりしたように仁王を見つめている。

 「ちょっと待って。
  仁王、君はちゃんからどんな告白の言葉を聞いたの?」

 「ああ?だから、ずっと前から柳生の事が好きだったって・・・。」

 「に、仁王くん。
  私、柳生君のことが好きだなんて、一言も言ってなかった。」

の声に仁王は面食らった。

 ―ど、どういう事じゃ?―

 「仁王君。私、あなたの事が好きって言ったよ?」

 「仁王。君は思い違いしてるよ。
  ちゃんはね、柳生の振りをしていても、仁王だって事、わかっていたんだよ。
  その上で、本当の君が好きだと言ったんだけどね。」

 「えっ?」

 「だって、柳生君は幼馴染でも、私の事、ちゃんとは呼ばないもの。
  それに、柳生君の格好していても、
  ・・・大好きな仁王君のことはわかるわ。」

 「じゃが、柳生の格好しとったら、普通・・・。」

 「詐欺師も変装を見破られては形無しだね。
  仁王は自分は完璧だって思ってたんでしょう?
  
  でも、変装した自分に失恋させられてたなんて、
  なんだかおかしいねえ。」

幸村のその言葉に仁王は頭を抱えた。

  
 「ふふっ。ま、コート上の詐欺師なら、その位の演出なしじゃあ、
  告白できないだろうなあと思ったんだけどね。
  仁王の凹んだ顔で、当分思い出し笑いができそうだよ。」

幸村の笑いに仁王はこぶしを握り締めた。


 ―こいつには、もう絶対、相談事は頼まんと!―









  The end
  
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☆あとがき☆
 はい、真田に続き、仁王が幸村の餌食となりました。
 幸村、絶対確信犯です。(笑)
 それにしても仁王の言葉がわかりません。(T_T)
 誰か言語指導して欲しいです・・・。
 それに、これ、仁王夢になってませんねえ。
 でも、ちょっと描きたくなったのでUPしちゃいます。(笑)

2004.11.2.