僕にとっての一番
日曜日の朝。
はいつものように娘のに大好物のフレンチトーストを作っていた。
テーブルの上にはカップが3つ。
そのうちのひとつにはすでにミルクティーが入っていた。
はミルクティーに角砂糖を二つ入れてかき混ぜながら、
フレンチトーストの出来上がるのを待っていた。
「お母さん、お父さんはまだ寝てるの?」
「そうね。ここのところ仕事が忙しかったから疲れてるんじゃないかな。」
はそう言いながら、の皿にフレンチトーストをのせた。
甘いシナモンの香りが漂った。
「この間の日曜日、お母さんと二人で買い物に行ったでしょ?」
はできたばかりのフレンチトーストにフォークを突き刺した。
「の洋服、買いに行った日ね。」
は自分のカップにコーヒーを注いだ。
「うん。それをお父さんに言ったらね…。
お父さん、なんて言ったと思う?」
「さぁ?」
「何でお父さんを置いていくんだ、ですって。」
はちょっと怒ったように言うと、フレンチトーストを口に押し込んだ。
「私、もう中学生だよ。
お父さんと一緒に買い物に行く子なんていないよって言ったの。」
「そうしたら?」
の目は笑っていた。
「と行きたかったんじゃない。
お父さんはと出かけたかったんだ―――だって!」
は心の中で(やっぱり)とため息をついた。
「ひどいと思わない?
そりゃあ、お父さんのこと、嫌いじゃないけど、
娘のことなんてどうでもいいみたいなんだもん。」
はふくれっ面をしたまま、別の一切れにフォークを突き刺した。
「私ね、小さい頃からお父さんって自慢だったの。
カッコいいし、優しいし、なんでも完璧だし。
私のこと、可愛いっていつも言ってくれてたし。
でもね、段々大きくなってくると、なんだかちょっと違うかな…って思うんだよね。」
「どういう事?」
はカップの中でぐるぐる回るミルクの模様を見ながら娘の言葉を待った。
「あのね、お父さんって優しいんだけど、
なんて言うかな、私に対しての優しさとお母さんに対しての優しさが違う気がするの。
うーん、もちろん、お父さんはお母さんが一番なんだろうけどさ。」
「笑わないで聞いてね。
私がお母さんと二人でいるとお父さん、やきもち焼くのかな…って。
お父さんの後ろに黒いオーラのようなものが見える気がする。」
は笑いをこらえながらに言った。
「でも、お父さん、のことすごく大事にしてるけどなあ。」
「だけど、違うよ、ほんとに!
お母さんにはすごく甘いのに、私が何か頼んでも
『自分のためにならないでしょ。』ってすぐ言うんだもん。」
「それはがお父さんをすぐ当てにするからでしょう?」
「でもお母さんが頼むと
『にはかなわないな。』なんて言ってニコニコしてるんだもん。
絶対ずるいなあ〜って思う!」
はそう言うとミルクティーを飲み干した。
「でも、ま、いいや。
私も中学で私だけに甘い人を見つけるんだ!」
「今日は私部活で遅くなるから。
お父さんはお母さんを独り占めできるね!」
は片目をつぶって見せると、勢いよく家をあとにした。
「全く…。」
は心の中で苦笑した。
寝室のドアをそっと開けると、周助はまだ寝ているようだった。
は窓辺のサボテンだけに日が当たるようにカーテンを少しだけ開けてやると、
周助の顔を覗き込んだ。
いまだに少年の面影が残っている端正な顔立ちを見つめながら、
(がお父さんはずるいって言ってたよ!)
と心の中で呟いてみた…。
「仕方ないんじゃない?」
不二が目をつぶったまま囁く。
「周助ったら!?」
はクスッと笑った。
きっとまた人の心の中を読んでるに違いない不二には驚くこともなく、
ベッドの端にそっと腰を下ろした。
「僕の1番は昔も今もなんだから…。」
「周助ったら、そういう所、全然変わらないよね。」
は諦めたようにため息をついた。
「僕の気持ちは変わらないって誓ったでしょう?」
そう言う不二の顔は心なしか楽しそうだった。
「も僕が一番ならおはようのキスをしてくれないかな?」
相変わらず目を閉じたまま不二はの言葉を待った。
「しようがないな。
でもキスだけだからね?もう朝ごはんできてるんだから…。」
は長い髪を押さえながら、不二の唇に優しいキスを落とした。
と、その瞬間、不二はを引き寄せるとぎゅっと抱きしめていた。
「もう〜!///」
「だってやっぱりが大好きだから。
休みの日くらいとゆっくりしたいからね。」
そう言うと不二は青い目を輝かせていた。
その瞳を見つめながらは自分だけに向けられている幸せを噛みしめていた。
不二の休日はから始まる…。
The end
back
☆あとがき☆
いきなり子供のいる不二君。ありでしょうか?(笑)
っていうより、何年たってもこんなに愛してもらえるなんて
う、うらやましい〜!(そこかい!?)