君と出会った時のこと
「テニス部に何か用?」
テニス部の部室前でさっきから入ろうかどうしようかと思案気な君が面白くて
ついつい立ち止まってその後姿を眺めてしまった
そんな僕の視線に気づくこともなく
僕の言葉で驚いたように振り返った君は
僕の顔を見てさらに驚いて悲鳴に近い声を短く発した
酷いよね、今、明らかに僕の顔に驚いたよね?
なんて思って、つい意地悪をしたくなった
「ここまで来て入らないなんてそれはないよね?」
にっこり微笑んだつもりだったけど、なんでか君の顔は引きつるばかりで
今まで生きてきたけどこんなに女の子から怖がられた事ってなかったから
手塚じゃないけど僕の眉間には普段見せない皺が刻まれたはず…
「あ、そういうんじゃなくて…。」
慌てて否定する言葉にもなんでかつい腹が立ってしまった
だってそうだろ?
僕はこれでも青学のNO.2の座をテニスだけでなく
女の子たちからの人気でも揺るがすことなく過ごしてきたんだから
まあ、手塚目当てっていうんなら仕方ないけど…ね
「なんだ、マネージャー希望の子かと思ったんだけど?」
こんな時期にマネージャー希望なんてあり得ないし
大体彼女の手にある包みを見れば一目瞭然なんだけど、ね
「もしかして僕に会いに来た?」
真っ赤になる君が僕に会いに来た事は初めからわかっていたけど
だって今日は僕の誕生日だからね
ファンなら今日この日を逃すなんて事、許されざることだよ?
あ、でも、いちいち受け取るのは面倒だから
そうだな、僕の興味を惹くに値する言葉を言えたらそのご褒美に
君が一生懸命考えたであろう、その包みを受け取ってあげることにするよ
「あ、いえ…。」
「うん?」
「その、私、友達に頼まれてて…。」
僕の視線を避けるようにして小さな声が絞り出され
僕はあっけにとられた
なんだ、友達の代理って奴か
面白くもなんともない…
「あの、不二君っていますか?」
「…?」
唐突に僕の名前を恥ずかしそうに口に出す君は
今君の目の前にいるのが不二周助だって言うことが全くわからないらしい
そんなことってある?
僕はまじまじと君を見つめた
お世辞にもスタイルがいいという訳でもなく、
そうだな、顔は中の上って位で飛びぬけた美人顔でもなく、
今まで同じクラスになった記憶はないけど
それでも一度や二度は校内で見かけてもいいはずなのに
全く見たこともないっていうのは余程地味な子だったのかな
「君、友達に頼まれたくせに不二の顔も知らないの?」
「あっ、す、すみません。」
「別に僕に謝る事ないけど…。
なんでそんな事引き受けるの?」
「えっ? あの、本人じゃなくても部室に置いて行こうかと…
テ、テニス部の方ですよね?」
「ふーん、いい度胸してるね。」
やにわに僕の中でむくむくと湧き上がる好奇心
友達のためなら何でも引き受けてしまう素直さって
あんまり褒められたことじゃないって思うけど?
「君、名前、何て言うの?」
「私?」
「他に誰がいるの?」
僕はもう初めての子にしても
こんなに冷たくした事ってなかったかも
すごく可愛い声をしてるから余計イライラしたのかも…
うん、声は僕の好きな声かも、って、何考えてるんだ
「。。
あなたは?」
君の質問には答えないよ
しばらく僕の退屈しのぎになってもらおう
「?
どっかで聞いたような…。
ああ、毎回手塚と並んで学年トップのさん?
へぇ〜、頭のいい子でもこういう事するんだ?」
クスッ、もしかしたら泣かせちゃったかな?
僕は調子に乗ってありもしない嘘を口にしてた
「そうだ、不二ってさ、さんの事、
確か好きだって言ってた。
ほら、彼って天才だからさ、頭のいい子に興味あるみたいだよ?
せっかく友達の仲立ちに来たのに三角関係になったりしたら
さん、困るんじゃない?」
どんな風に彼女が崩れるかと期待していたのに
彼女は驚くでもなく、いきなり
手にしてた包みを僕の顔めがけて投げつけてきた
「最低ね。」
彼女の瞳はぎらぎらと怒りで輝きを増していた
大人しそうだと思った印象は一変に吹き飛んで
逆にその表情は僕を惹き付ける
なんて矛盾してるんだろう、僕って!?
「そんな嘘つく位なら黙って受け取ってくれたらいいじゃない?」
「えっ?」
「もういいわ。
私は不二君の事なんて好きじゃないから。
不二君だって私の事、嫌いでしょ?」
うん、第一印象は好きじゃなかったけど
今は凄く好きかも知れない、
ただ大人しいだけの子なんてつまらないからね
けど悔しいから言ってやらない
「君こそ最低だね。
演技してたんだ、僕の事知ってたくせに?」
ふん、って感じで行ってしまう君の後姿を見送って
地面に転がっていたプレゼントを拾い上げたら
なんだか無性に楽しくなってきた
最低な出会いだったからこそ
これからの僕たちの関係は無限に広がっている
ああ、でもね
僕は自分の誕生日を最低なものにしたくないから
早速君のクラスを探さなきゃね
覚悟しておいて
絶対に逃がさないからね
The end
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