君を捕まえた時のこと
「って子、いる?」
僕はいちいちその言葉を皆の記憶にとどめる様に
わざと大きな声で聞いてみる。
どのクラスもざわざわっとしたかと思うと、
僕の真意を推し量るような好奇な目が集中してくる。
さあ、君を見つけ出すよ?
覚悟はいいかい?
次々と教室を覗くたび僕は段々と楽しくなる。
この僕に足を運ばせるなんて、なんて我侭な女の子だろうね。
最後のクラスまで来ると、僕の後ろにはもう大勢の女の子たちが
興味しんしんで付いて来ている。
ねえ、、君は随分と敵を作ってしまったようだけど、いいのかな?
1組の教室の中からまずは手近な所にいた手塚に声をかける。
「手塚、ちょっと聞きたいんだけど。」
「不二か、何か用か?」
「って、このクラスにいる?」
「ああ、向こうの席だが。」
手塚が振り返る先にが友達と談笑してる姿が見えた。
「それが・・・?」
「悪いけど、呼んできてもらえるかな?」
手塚は僕の後ろにいる大勢のギャラリーに驚いて
明らかにを呼ぶのを躊躇している。
その正義感面はたいして僕には通用しないんだけどな。
君が模範的な優等生だって事は認めてるさ。
だけどね、クラスメイトよりチームメイト優先だよね?
付き合いの長い手塚は平和主義というより事なかれ主義なのを
僕は知っているから、にっこりと笑みを浮かべて迷ってる手塚を促す。
手塚は僕に言われた通りの傍まで行くと
どうやらは僕の存在にやっと気が付いたみたい。
ふふっ、その迷惑そうな瞳が揺れ動いてるのを僕は見逃さない。
手塚が優等生であるように、君も優等生。
さあ、優等生のままでこの僕に勝てるかな?
「不二君、に用って?」
嫌がるを僕の所まで連れてきてくれたさんは
僕の後ろにいるギャラリーたちと同じ好奇心一杯の目で問いかけてくる。
なんて友達思いなんだろう?
僕は極上の笑みをさんに向けるとコホンと咳払いをしてみる。
「ここで言ってもいいんだけど、プレゼントのお礼をしたくてね。」
その一言で教室中からも廊下側からも悲鳴が走る。
「な、何?
、あんたたち、どうなってんの?
いつの間に!?」
予想通りな友達の反応は実に愉快だったけど
の怒った目はやっぱりきれいだと僕は思ってしまう。
「うん、ちょっと訳ありで・・・。
ここで言って欲しいのかな、?」
「冗談は辞めて・・・。」
「僕としてはもう少し君のために雰囲気のいい所で言いたいんだけど。
それともみんなに僕たちの事を見せつけたいってが言うなら・・・。」
「不二君!!
私、あなたに呼び捨てにされる覚えはないんだけど。」
「ああ、僕たちの事は内緒にしておきたかったんだね?
でもあんなに熱烈な告白をされちゃ、黙っていられないし・・・。」
「だ、誰が告白なんか・・・。」
「だって君からのプレゼント、受け取ったし。
嬉しかったんだ。
だから、ちゃんと応えなくちゃって思って。」
「応えなくていいです!」
むっとした声で僕に反抗する君はそのまま自分の席に戻ろうとする。
ほんとにあの時の事はなかった事にしたいくらい、
の背中がそう訴えてるけど、僕には通用しないからね。
僕はの右手を掴むと、この成り行きを傍観してる女の子たちの輪の中を
わざと突き進んで廊下に出た。
「ちょ、ちょっと不二君・・・、離して。」
「嫌だ。」
「不二君、わざとだよね?
嬉しいとかそんな事、これっぽっちも思ってないくせに。」
「そんなことないよ?」
「嘘ばっかり!」
「嘘じゃないよ。」
うん、嘘じゃない。
といるとなんだか無性に楽しくなる。
君の怒った顔も気にならないくらい、君の声が僕を嬉しくさせてくれる。
「の事、案外スキなんだ。」
「な、何よそれ!?」
「あれを投げつけてきたのにはさすがに驚いたけど、
なんだかそれも嬉しくてさ。」
「不二君、イカレテルんじゃない?」
「うん、イカレテルかも、君に。」
授業の始まる鐘はとっくになってしまって、
僕たちは誰もいない渡り廊下の所で向き合っていた。
相変わらずツンケンした態度のは
それでも僕がじっと顔を覗き込むように笑いかけるとその頬に赤味が増す。
なんだかすごく可愛いんだけど。
「どうしてくれるのよ?
私、今までに一度だって授業サボったことなんてなかったのに。」
「いいんじゃない?」
「よくない!」
「そうかな、僕としては次の試験で君の成績ががた落ちだと嬉しいな。」
「酷い!」
「僕の事で頭が一杯になって、問題が解けなかった・・・とかさ?」
「あり得ません。
不二君こそ、人気がた落ち、おまけにレギュラー落ち!なんてね。」
ははっ、そこまで言う女の子なんて滅多にいないよ。
不二周助、彼女ができたせいで腑抜けに!?
そんな見出しの校内新聞ができたらそれはそれで面白いかもね。
「お望みとあらば?」
「えっ?」
「そのかわりレギュラー落ちしたらが慰めるんだからね?」
絶対やだ、なんて小さな声が聞こえたけど
僕は聞こえなかった振りをして、の体を引き寄せた。
ああ、本当に君に近づくたび、君に触れるたび、
僕はどんどん君に惹かれてる。
どんなに憎まれ口を聞かされたって
君の声ならどんな言葉も僕には甘い囁きにしか聞こえないなんて
かなり重症だな、ほんとレギュラー落ちしたらどうしようかな?
「ふ、不二君、近すぎ・・・///」
「いいじゃない、恋人同士なんだから。」
「ふ、ふざけないで!
私、不二君の事嫌いって言ったよね?
からかうのは止めてよ、迷惑。」
「でも周りはもう恋人同士だと思ってるよ?」
「そ、それ、不二君がわざとしたんじゃない。
不二君って意地悪だ!」
「うん、僕って意外に好きな子をいじめるタイプだったみたい。
今気が付いた。」
「へっ?」
「でもそれは君のせい。
僕の事好きなくせに嫌いって言うから。」
クスっと笑って見せると、ほら君はやっぱり照れて顔が赤くなる。
その様子にどきりとさせられたなんて今は言わないけど。
はもう僕の腕の中から逃げ出せることなんてできない。
もちろん、もう離す気はないんだよね。
誕生日におめでとうも言ってくれない君だけど
真顔で好きだって言われたら、もう間違いなく僕は陥落してしまう予感がする。
でも、まだ今は君で遊んでいたいから・・・。
さあ、これからどうしようか?
ねえ、どうしたい?
The end
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☆あとがき☆
ああ、自分の誕生日ドリを書きたかったんだけど
その前段階になっちゃったよ・・・。(苦笑)
2008.3.27.