オンリーラブ 3










 「僕とは何?」




片手で携帯の画面に表示されてる相手の名前を確認するや
いつの間にかの前に立っている不二は
怖いくらいの笑顔での携帯を耳に当てていた。


 『やあ、君がさんと従兄だったとはね?』

 『なっ、お前、不二か!?』

聞こえなくったって従兄が大声を上げて驚いている様が目に浮かぶ。

けれど不二が笑みを浮かべながらも
その口調がはっきりと不機嫌さを顕わにしているのを聞いて
さすがのも言葉が出なかった。

不二と自分は付き合ってる訳ではない。

昨日たまたま美術館で会って、二人だけで話をする時間が持てただけだ。

従兄が危惧するような事は何もない。

けれど従兄が言いそうな言葉が次々と頭に浮かぶ。

まだ何も始まってないのに
従兄がそれをだめにするのをまた黙って見ている事だけしかできないのかと思うと
はもう不二の表情を見ている事ができなくなっていた。


 『じゃあ昨日会ったのは君のお母さんだった訳か?』

 『ふん、俺の母親との母親は姉妹なんだよ。
  お前は知らなかった事とは言え、と気軽に喋れる身分じゃねーんだぞ?』

 『へぇ、またそれは尊大だね?』

 『俺は親切心で忠告してるだけだ。
  がお前に本気になる事はない。
  悪い事は言わねぇ、あいつにちょっかい出すのは止めろ。』

 『なんで?』

 『決まってるだろ、俺様がいるからだ。』

断言する跡部に不二は心底呆れたように笑い出した。

 『ねえ、跡部。
  僕はね、手間と労力は惜しまないタイプなんだ。』

 『言ってる意味がわかんねーぞ?』

 『うん、まあ、忠告はありがたく受け取って置くよ。
  親切心ついでに僕からも忠告しておくけど、
  僕は君に負ける気がしないんだよね。
  はっきり言って跡部はさんのタイプじゃないと思うし。
  大体、僕が君の圧力に屈するとでも思う?
  とりあえず君の番号を削除させてもらうところから始めるので
  そのつもりでね。』

不二は躊躇うことなく唐突に携帯を切った。

従兄の舌打ちする音が聞こえたようには思った。

跡部の番号を電話帳から削除しているのだろう、
一連の行動が終わると俯いてるの眼前に携帯を差し出し
不二はの手の中にそれを返して来た。

はぼうっと自分のピンク色の携帯を見つめていた。


 「なんだかむかついちゃったから
  跡部の番号、消しちゃった。」

悪びれる風でもない不二の声につと視線を上げて行くと
不二は真面目な顔での顔を覗き込んでいた。

 「不二君・・・。」

 「代わりに僕の番号、登録した。
  これからはいつでも電話できるね。」

 「あの・・・。」

 「何?」

 「景ちゃんが、失礼な事言ってたらごめんなさい。」


それには答えず不二は先に歩き出した。

小脇に抱えてるプリントが目に入って
ああ、それを取りに来たんだっけ、とは慌てて不二の後を追う。

職員室から3階へと上がる階段を登り始める不二に
は意を決したように言葉を掛けた。

このまま何も話さないで教室に戻ってしまったら
もう何も聞けないような気がした。

いや、他の人たちがいる所でなんて
絶対に聞けない事だと思うから。

 「不二君。」

 「何?」

 「私は・・・不二君の何?」

不二の目が大きく見開かれる。

 「不二君、何でも答えてくれるって言ったよね?
  私、考えてもよくわからないから。
  でも不二君とだめになっちゃうのは嫌だって思うから。
  景ちゃんはきっと邪魔してくると思うけど
  不二君とはもっと話したいし、一緒にいたいと思うし、
  もっと・・・。」

 「さんは僕の特別だよ。」

静かな不二の言葉がまるで魔法のようにを包み込む。

一気に高鳴る胸のうちに広がる体温が熱病のように体中を支配してくる。

これが恋の病というものならもうとっくに重症である。

 「えっと////」

 「さんがどこかの国のお姫様で
  僕とは身分違いの相手だって言われたって
  それで諦める僕じゃないから安心して?」

 「うん。」

 「君のそばにいるのに肩書きとか財力とか
  そんなものがどうしても必要だって言うなら
  それに見合うものを僕はこれから手に入れる。」

そんなものはいらないとが首を横に振れば
不二は優しく微笑みながら空いている手を差し出して来た。

 「手、繋いでもいいかな?」


それは嬉しい言葉だったけど
昨日とは違ってここは学校だ。

人気者の不二がと手を繋いで歩けば
それはもうどんな騒動になる事か
とて分からない訳ではなかった。

学校で不二と手を繋げば、
それは不二と付き合ってるという事を公言するようなもの。

の瞳に不安が顔を覗かせる。

 「私・・・。」

 「僕は跡部に何を言われても平気なくらい
  さんのこと好きだよ。」
  
 「私はそんなに自信・・・ない。」

考え込むように答えれば不二は
の頭を優しく撫でてくる。

 「大丈夫。
  さんは何も考えないでいいから。」

クスリと笑みを零したかと思うと
不二は今度はの手を強引に握り締めて階段を上がって行く。

これからはさんが考え込んじゃう前に僕が行動するからと、
愉しげに言われて、それは従兄と通ずるものがある気がしたけど
でも不二が大丈夫と言葉に出してくれるととても安心できる。

今度、不二が好きだと言った、あの写真展をまた訪れてみようか、
は思いながら不二と一緒に教室までの道のりをゆっくりと歩いて行った。









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★あとがき★
きら様、キリリクお待たせして本当に申し訳ありませんでした。
いえ、これもひとえにきら様のご希望に添えるような
倒れる位甘くてドキドキするほどかっこよくて
それでいて策士な不二君をどう誤魔化すかという
その一言でして・・・。(笑)
ああ、もう平身低頭で懺悔するのみです。
理想の不二君はこれからもリベンジするべく
チャレンジしていきたいと思う所存ですので
これからもどうかよろしくお願いします。
2008.11.12.