見えなくて聞けなくて言えなくて 3
バレンタインに不二にチョコを渡さなかった私は
自業自得といえばそれまでなのだけど
不二からの告白に未だ返事をしていなかった。
と言うのもあれきり不二も特にその話題には触れて来なかったし
と言ってと仲直りした後は普通に世間話程度はしていた。
それだけで満足と言えば満足だったのだけど
にしてみれば2月にはもうひとつのイベント、
不二の誕生日があるのだから
その日に思い切って告白返しをしたらどうかと提案された。
私が気持ちを伝えればそれだけで両思いなのだから
何の心配もいらないはずだったけど
私にしてみればそれは一世一代の大舞台、
とてもすんなりとできるはずもない。
そんな私には色々と策を練っては
私にデートプランを披露してくれた。
それはそのままの手塚との願望なのだろうが
私にしてみれば例えば
誕生日の放課後、不二を誘うのだけでも一杯一杯である。
「じゃあ、口で言えないならカードにすれば?」
「カード?」
「そう。
お誕生カードに放課後付き合って下さいって書けば?
それとも校門で待ってます、とか。」
「う、うん・・・。」
いろいろ案を出してくれるのは本当にありがたいのだけど
時々は私以上に楽しんでるような気がする。
「それを朝早く、不二の靴箱に入れるとか・・・。」
「でもちょっと大袈裟じゃない?」
「別にいいけど、じゃあ、面と向かって言える?」
「多分、無理、かな。」
「でしょう?」
そんなこんなで不二の誕生日当日になってしまった。
前日は全然眠れなかった。
転校初日にびくびくしながら登校する気持ちだった。
一晩悩んで書いたカードを靴箱に入れるというだけで
朝からぐったりと疲れている。
こんな調子で一日乗り切れるのか予想もつかない。
ハッピーエンドが待っているにしても胃の辺りがキリキリと痛むようで
の励ましがなければ絶対にここまで漕ぎ着けれなかったに違いない。
そういう意味ではの構ってあげたいオーラはありがたいものだった。
朝練の前に昇降口に先に行かねばと足を早めると
不意に肩を叩かれた。
「おはよう、。」
ぎょっとなって振り返った。
何でいるの?そんな不躾な私の表情にも
極上の笑みが返って来てしまうのだから思わず足が竦むのも
致し方ないと思って貰いたいほどだ。
「ふ、不二君?」
「そんなに驚かないでよ?」
「だ、だって。」
まさかのミッション番狂わせである。
ここで本人に会うとは思わないから私は焦ってしまう。
経験値がないというのはこういう時に何のアドリブも効かなくて
素で固まってしまうという事だ。
「今日はどうしても朝一番に君に会いたくて。」
「えっ?」
「今日は僕の誕生日なんだ。
から聞いてると思うけど。」
先制パンチをもろに食らった。
ここで誕生カードを差し出せば第1のミッションは
軌道修正が出来たのだろうけど
もはや私にそんな事が思いつくだけの余裕なんてなかった。
「だからね、特別な日には
特別な子に一番に祝ってもらいたくて。」
「わ、私?」
「うん、だめかな?」
不二のサラサラとした髪が澄んだ空気の中で煌めいているように見えた。
「だめじゃ・・・ない。」
「じゃあ、おめでとうって言ってくれる?」
「た、誕生日、おめでとう、不二君。」
吸い込まれるような瞳に囚われながら
まるで呪文を繰り返すかのようにおめでとうを言った。
凄く恥ずかしい。
それなのに不二の傍から動く事ができない。
「ありがとう。
誕生日プレゼントにお願いをひとつ、聞いて貰ってもいいかな?」
続ける不二の言葉に私の頭は回らない。
プレゼントなら第2ミッションとして鞄の中に入っている。
これを渡せばいいだけなのにやっぱり私にはそれができない。
「が好きだよ。
僕の彼女になってくれないかな?」
「えっ?」
「付き合ってくれるよね?」
「あ、うん。」
完全に不二のペースに巻き込まれていたけど
気のない返事にもかかわらず不二は満面の笑みで近づいて来た。
あれっ、て思った時には不二に抱きすくめられていて
もう少しで悲鳴を上げそうになった。
ぎゅっともろに抱きしめられて頭はパニック状態、
不二っていい匂いがするんだ、なんて思いながら
不二の積極的な行動力にどうすればいいのか分からなくて
ただ棒のように直立していた。
力が抜けて倒れそうな気分だったけど
でも現実は不二のコートのボタンが鼻先に当たって
その冷たい感触に、夢じゃないんだとぼんやり思った。
何もかもが生まれて初めての事ばかりだったから
そのまま不二に手を繋がれたままコートに向かったら
散々チームメートにはやされた。
でもそれはまだ良い方で
その後誕生日に不二に彼女が出来たと言う噂は
あっという間に全校に知れ渡って
私はと言えば胃痛よりも頭痛に悩まされる事となった。
「いやあ、さすが不二だわ。」
「それ、褒めてるの?」
私から一部始終を聞いたはなぜだか酷く感心していた。
「先手必勝とはよく言ったものね。」
「のシミュレーションは何にもならなかったね。」
「でも、じゃ危なっかしかったからね。
逆にリードしてもらえて良かったんじゃない?」
「そうかな。」
「そうだよ。この位しなきゃダメって事ね。」
「どういう事?」
「ううん、こっちの話。
手塚の誕生日の参考にさせてもらうわ。」
めげないにも呆れるけど
何となく手塚もこんな風にぐったりするんじゃないかと思うと
少し気の毒に思えた。
「とにかくこれでミッションが終わった訳じゃないんだからね?」
「な、何?」
「もちろん本番はこれから。
放課後デートが待ってるんだから。」
「放課後デートって?」
「うん、大丈夫、大丈夫。
不二が全部リードしてくれるから。
ま、明日にはまた報告待ってるからね。」
頑張りなさいよ、と背中を叩かれて
私の緊張は途切れる事のない一日となってしまった。
The end
Back
☆あとがき☆
周助、お誕生日おめでとう!!
今年は4年に一度の誕生日だから、と
気負っていたのにもう当日。
もっと頑張らないと
周助の愛には応えていない様な気がする。
ああ、こんなに大好きなのに
気持ちを伝えるって本当に大変なんだね。
まだまだな私だけど
これからもずっと支えて行って欲しいな、
と思ってます。
2012.2.29.