「一秒ごとに君の事好きになる。」




私も

私もどんどん好きになる

もう誰の目も気にしないくらい









       
一秒ごとに 3








 「ふっじ〜、どう?
  支度済んだ?」

がらりと乱暴に家庭科室の戸が開けられて
固まったのはどちらかというと菊丸の方が早かった。


 「な、な、な!?」

そしてその反動で大声を出してしまったのも
菊丸の方だった。

 「何、いちゃついてんだよぉ〜!!!!!!」



にしてみれば恥ずかしいの2乗どころではない。

けれど菊丸に対して背を向けていた事と
菊丸の絶叫にも動じることなく不二がそのまま抱きしめてくれていたから
の紅潮しまくっていた顔は菊丸に見られずに済んだ。

 「うん? これも予餞会の練習だよ?」

落ち着き払っている不二は気にも留めない。

 「ど、どこがさ!」

 「大体さ、英二の方が足、引っ張ってるんだからね?
  台詞もまともに言えないから台本は手直しばかりだし。
  人を呼びに来る暇があるなら少しは台詞覚えたらどう?」

これでもかと言う位の不二の嫌味に菊丸はぐうの音も出ない。

 「ほら、着替えたらすぐ行くから
  舞台で待っててよ。」

菊丸がどんな表情を浮かべていたのか知る由もないけれど
菊丸もこの劇に参加しているとは初耳であった。

再び家庭科室の戸の閉まる音がして
菊丸が黙って引き下がったのが不思議で思わず顔を上げたら
不二の口元が笑っていた。

 「さて、邪魔者は消えたし
  には着替え、手伝ってもらおうかな?」

 「えっ?」

 「あのドレス、一人じゃ着るのが難しいんだよ。
  だからが来てくれて助かった。」

ドレス?・・・その言葉にははっとする。

今まで頭の中からその存在を消していたけれど
そもそもここへは不二のヒロイン役の子に用があったのだ。

いや、今更どんな顔して会えばいいか分からなかったけど
このままここにいていいはずがない。

 「いや、私も邪魔だから出てる。」

の返事に不二は眉を曇らせて何事かとを見つめる。

 「を邪魔者扱いする気はないけど?」

 「だって私がいたら着替えられないでしょ?」

いまだ衝立に掛けられたままのドレスに視線を移せば
不二はクスクスと笑い出す。

 「何? はあの向こうに誰か他の人でもいると思ってる訳?」

 「えっ?」

 「へ〜、僕が以外の女の子と一緒に着替えたりとか?」

 「・・・。」

 「心・外・だな。」

嫌味なくらいゆっくりと耳元で囁かれた。

それが返って不二の不機嫌さを物語っていた。

 「だ、だって、
  誰だってこの状況を見たらそう思うって・・・。」

 「誰のせいだと思う?
  が引き受けないから僕がその役をやる事になったんだからね?」

 「うそ?」

 「やっぱりこの責任はちゃんと取ってもらおう。」








数日後予餞会は大盛況の拍手喝采で幕を閉じた。

主役はガチガチに上がってしまった菊丸と
女装とは思えない位整ったヒロイン役の不二との
コミカルな恋愛物となった。

真面目一本に女優顔負けの不二とは対照的に
まるで素人の菊丸のたどたどしい台詞回しが絶妙に笑いを誘った。

あの時不二がに向かって言った真面目な台詞は
結局舞台の上では一言も聞く事はなかった。




 「ねえ、。」

 「何?」

 「私が見せてもらった台本って初めからやるつもりなかったの?」

に髪を結ってもらいながらは思い出したように尋ねた。

 「一番最初の?
  そんな事ないわよ。」

 「だって・・・。」

 「私、言わなかった?
  あの台詞は手塚に言わせたかったんだ、って。」

鏡の中のはきょとんと見上げる。

 「こんな言葉、絶対言ってくれないけど
  言ってくれたら嬉しいなあ、って思って書いたんだ。
  ま、でも手塚だってあんな台詞は
  劇の中だって他の子には言わないでしょうけど。」

それは不二も同じだったでしょ?とは鏡の中から
に笑いかける。

アップにしようと持ち上げた髪は
しばし手を止めた後によってまたの肩に下ろされた。

 「ねえ、。」

 「うん?」

 「不二にちゃんと言わないとだめだよ?」

 「何?」

 「を自分のものにできたのが嬉しいからって
  こういう見える所にキスマークはつけないでって。」

首筋を指すは思いっきり悲鳴を上げた。

今まで不二に対して距離を取っていた分
その反動が不二のキス攻めだ。

もちろん不二のキスを受け入れてしまう自分も
その蕩けそうな気分にいつも流されてしまうのだが
まさか跡が付くほどのキスをされているとは少しも気付かなかった。

真っ赤になったに苦笑しながら
に髪飾りを挿してやった。

 「うん、完璧。
  それにしてももここまで変わっちゃうとはね〜。」

 「うっ/////」

鏡の中には予餞会で不二が着用したドレスを着ている
艶やかなの姿があった。

あんなに乗り気で舞台に立ったくせに
自分が女装する羽目になったのはのせいだと
予餞会が終わってからも恨みがましく不二に言われた。

 「結局って不二に弱いんだよね。
  だからいつも間合いを取っていたんだ?」

そう、懐に飛び込まれてあのぞっとする位
甘ったるい声でお願いされれば嫌とは言えなくなる。

だから不二の声は嫌だったのに。

不二が近づかないように先に応戦しなければ
捕まってしまって不二の魅力から離れられなくなるのは
もうずっと昔から分かっていた事。



 「できた?」

の背後で不二が満面の笑みで立っている。

 「思った通り、きれいだよ。」

そうやって甘い言葉だけ聞かされると
どんどん不二に引き込まれていく。

1秒ごとに、どんどんどんどん・・・。

鏡の中から不二の瞳に見つめられて
は赤くなりながらもツンと視線を外す。

もうそんな態度をいくつ見せたって不二には
通用しない事くらい分かっていたけど
それでもそうせざるを得なかった。


 「不二もカッコいいじゃん!」

 「うーん、に褒められてもな。
  はどう?」

王子役の衣装はまさに不二に似合いすぎている。



 「自分で分かってるくせに。」

 「分かっててもね、
  には言ってもらいたいんだよ。」

手を引かれてそのままを立ち上がらせると
不二は窓際に並んだ。

がデジカメを構える。

こうして二人並んで写真を撮るのは何年ぶりだろう。

こんな格好で写真に納まるのは気恥ずかしいのだけど
不二はなぜかどうしてもとせがんで来た。

今年、不二の本当の誕生日はカレンダーにはない。

だけどこの写真でこの年の不二の誕生日を
何年経っても忘れる事はないだろうとは思った。


 「ねえ、。」

カメラに向かって視線をはずさないまま
の肩を抱き寄せた不二が静かに囁いた。

 「来年も、再来年も
  僕の誕生日にはこうして二人だけの写真を撮ろうね。」

 「えっ?」

 「ずっと・・・。
  を好きな僕と
  僕を好きなの顔を忘れないように、ね。」


それが僕の一番欲しい誕生日プレゼントだから。


カシャリと響いたシャッターの音が
今この一瞬の二人の愛を記録した。
  
 





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☆あとがき☆
 不二、誕生日おめでとう!
今年は29日はないけど
目に見えない世界にいる不二だから
多分別の世界で私たちは結ばれているかもしれない。
うん、きっとそうだ。
不二に愛されてる私、頑張れ〜。(笑)
2010.3.2.